第4話

たった一年でできることなんてたかが知れている。だったら、その一年、趣味に興じるほうが楽しい人生になるだろう。そして、俺にとってのその趣味が読書なのだ。大学生は、趣味が何かと聞かれると、「映画鑑賞」や「漫画」と答える人が多いように思う。どうせその大半が、気が向いた時にちょっと見る程度のありあわせの趣味だろうが。そして、大別すれば読書もこのジャンルに含まれるのだろう。だがそう思ってるやつら全員ナンセンス。映画や漫画と小説では、物語に含まれる情報量が違いすぎる。背景、心理描写、すべてが映像として決めつけられている。それらに比べ、小説は各々の想像力次第で無限の広がり、奥行きがある。だから俺は小説を読む。

 読書をしていると、時間はあっという間に過ぎていく。集中しているのが自分でもわかる。特に、自分でも不思議だが、何の音もない無音の空間よりも今のようなある程度の雑音(本来はそれこそが耳を傾けるべき音なのだが)のある空間のほうがずっと集中できている。物理的ではなく意識の上での隔離。自分の周りに自分だけの空間を作るような感覚。外界とは漂う空気も、流れる時間も違う。さながら、地球よりもはるかに重力の強い、別の惑星にいるような感覚だ。昔から、人付き合いが苦手だからだろう。意識的に隔絶することが心地よいのだ。その感覚に浸りながら、俺は一度読み終えた本のページをめくっていく。

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