第9話

「もし、誰かを犠牲にして生き残れるとしたら君はどうする?」


 彼は横になっていたソファに座りなおして僕に聞く。そんなことを聞いてどうするんだろう。僕は質問の意図を図りかねて黙ってしまう。


「もし君じゃない誰かに隕石が落ちるならってことさ」


 彼は答えに困る僕のために補足説明をして僕の目を見る。僕はどうするだろうか。嫌いなやつが死ぬなら好都合だ。悪人が死ぬなら平和に近づく。知らない人が死ぬなら気にもならない。


 それでも。


「僕はこの体験を誰にも譲りたくない」


 きっとこの世界に来る前の僕なら違う答えを出していただろう。でも今は違う。僕はケーキを落とすことはできても、誰かに投げつけることはできない。


 僕に隕石が落ちる宿命なんだとは僕は思わない。それでも、もし他の誰かと代われるとしても、僕は自分の意思で隕石の下に残る決断をする。


 僕の死は僕だけの行動の結果じゃない。沢山の人の意思と行動が重なって結果的に僕だけの死が生まれたんだろう。僕一人の意思でそれを覆せるとしても、僕は自分の意思と行動で結果を受け止める。


「僕は、僕を殺すよ」


 不思議と涙が出た。もうすでに決まっていたことだ。覆せるわけでもない。知ってはいたけれど、その選択を変えることはないけれど、涙はどんどん溢れてくる。


 悲しいも悔しいもすでに味わったはずなのに、自分で選んで初めて本当に心が震えた気がした。ただ受け入れるだけの僕とは違う、選択した僕には痛みが伴った。


「やっぱり、そうだよね」


 彼はソファから立ち上がって僕を抱きしめた。いきなりの事で驚いている僕の肩に、後ろに立っているその人が手を置き耳元に囁く。


「じゃあ、僕は殺されるよ」


 その言葉の真意を問う前に、彼らは二人がかりで僕をテレビへと放り投げた。僕はテレビにぶつからず、そのまま画面の中へと引きずり込まれる。必死に手を伸ばしてもがくが体は奥へと沈んでいく。


「僕は君の代わりに死ぬために生まれてきたんだ」


「僕は皆に祝福されて、皆を殺してしまったんだ」


 完全な闇に飲み込まれ、意識が途絶える直前に彼らの声が聞こえた。


「「お誕生日おめでとう」」

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