第8話
僕は天国や地獄を信じてはいないが、彼が言うには僕はもう死んでいるらしい。テレビ画面に流れる映像の中の僕の家は、もう家と呼ぶには不十分な形をしていた。
「あれが潰れたケーキなの?」
彼は無言でいたけれど、僕の横に立つその人は頷いていた。
「僕だけが死んだんだ」
僕の行動が僕を一人にして、たった一人の誕生日会で僕は一人で死んだんだ。母も父も友人も訪れない家で、午後六時十二分に死んだ。
「僕は人を救ったことになるのかな」
訪ねてはみたが答えは予想できる。僕は友達がいなくて、親にも相手にされず、一人で死んだ可哀そうな子ども。ただそれだけ。きっと同級生は行かなくて良かったと喜んで、両親は生きているから悲しむことができるのだ。
「世界を知って良かったかい」
彼はうつ伏せのまま尋ねた。
「うん、良かった」
それは本心だった。悲しいとか悔しいとか、嫌だという気持ちもあるけど、良かったと思う気持ちも同時に存在する。それが僕だ。
「そんなわけ無いだろ」
その人は怒っているようだった。
「君が見たい世界はもっとあったはずだろ。少なくとも僕は玄関で並んで靴を履いただけで嬉しかったんだ。それなのに誕生日も祝われずに他の人を巻き込まずに死ねたから良かったなんてあんまりだ」
その人は僕のために怒ってくれている。僕も同じ気持ちだ。それでも僕は。
「良かったよ。だって君たちが祝ってくれたじゃないか」
僕は嬉しかった。
僕しかいないこの世界に僕がいてくれた。
僕を祝ってくれた。
僕と話してくれた。
僕と並んで靴を履いた。
僕と夜の道を歩いた。
僕と知らない家に入った。
こんな体験した人はきっといないだろう。
もし僕の世界の他に誰かの世界があったなら、今度はそこにお邪魔して僕の体験を話そう。そしてその誰かの話も聞いてみたい。きっとそこには僕の知らない世界があって、また別の誰かと繋がっている。
もし、なんて言わなくても、終わってしまったあの世界でなら沢山の誰かと繋がることができるだろう。沢山の世界が混ざり合ったオードブルみたいなあの世界なら、きっと色とりどりで心が惹かれることだろう。
それを沢山の人で囲むことができたならとても楽しいパーティーができるはずだ。そしたら僕の体験は、きっとケーキみたいに特別でとびきり楽しいものになる。僕はケーキを切り分けて、皆で仲良く分け合いたい。
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