第7話
その部屋にバースデーケーキは無かった。椅子もテーブルも無くがらんどうだ。いつしかその部屋も無くなってただの白い、四角い箱になった。
「僕は君を真似て作られた存在だよ」
「僕は君とは違う選択をした君だよ」
「僕の行動に意味なんて無いし、世界の意思が僕を行動させるんだ」
「僕の行動の結果が世界を作るんだから、全ての結果は自己責任だ」
「世界が消えたのだって世界の意思なんだから、君には関係ないんだ」
「世界が消えてしまったのは君の行動の結果で、責任は君にあるんだ」
二人の僕は僕ではなくて、それでも他の誰でもなかった。
「僕のいた世界はどうして終わってしまったの」
二人の僕に尋ねた。
「そんなこと気にしてもしょうがないよ。ここは終わった世界なんだから」
戻れるわけでもないのに過去ばかり振り返っても仕方がない。
だがこの世界と他の世界の事は関係ないのか。本当は僕の周りにも知らないだけで沢山の世界があったはずだ。綺麗な星空も、道端で飲むジュースも、大勢に祝福される誕生日も。
世界を知ろうともせずに、都合の良いものばかり手に取って、目を閉じて耳を塞いでいるだけで、僕は生きていると言えるのか。
「終わりを選択したのは君なんだ。君の意思と違った形だったとしてもね」
彼は足元を指差した。潰れたケーキが転がっていた。
これは僕のせいで潰れたケーキだ。僕はただ止めようとしただけなのに落ちて潰れた。彼はこう言いたいのだろう。僕の意思とは関係なく、僕の行動がどこかで何かの結果を生む。
だが僕の意思に関わらず行動が結果を生むのなら、その結果を知った時にまた行動することも僕の責任だ。
「僕は文句も言うし、諦めもするし、矛盾もする。それでも何かをしたいと思うことも何もしたくないと思うことも、決めるのは僕でありたい」
彼らはまた何も言わないが、唐突に床のケーキが消え、床が消え、荒野の暗がりの中に聳え立つ僕の家の前に戻ってきた。
彼は何も言わずに扉を開けて中に入っていった。鍵は閉めた気がしたけれど、と僕は不思議に思いながらも閉じかけの扉を開けて、もう一人の僕を待ってから中に入った。ただいまと言ってみたがやはり返事は無かった。
ソファに寝転がっていた彼を横目に僕らは手洗いうがいをして、そのあとリビングへ足を運んだ。おもむろに彼がテレビを点けて話を始めた。
「君の家に隕石が落ちたんだ。死んだのは君一人だ」
テレビには僕の家が映っていた。
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