私を見て②
気が付くといろんな人が私を見下ろしていた。警察の人達や消防の人達、校長先生に担任の先生。
そして、私。
アスファルトは、主に頭から流れ出た血で染まっている。ついさっきまで私だったものは、右足と右腕がひん曲がり、開いた瞳孔が明後日のほうを向いている。まるで、道端に捨てられた操り人形のようだ。
みなが意識的に私から目をそらす中、私だけがまっすぐ自分の顔を見つめる。
ああ、私はこんな顔をしていたのか。
久しぶりに向き合う自分の顔はとてもみにくく、とても苦しそうだった。そして、しばらくその顔を見ていると、ある純粋な疑問が私の中に沸き上がる。
私はどうしてこんな顔をしているのだろうか?
記憶があいまいなわけじゃない。どういう経緯で私が倒れているのかもはっきりと覚えている。しかし、今の私は、この横たわっている私を第三者として眺めている。まるで、博物館で、人間の剝製を見ているかのように……。
なるほど。剝製か。
謎はすぐに解けた。驚きなのか興奮なのか、自分の感性の鋭さに身震いがする。
そう、感情がないのだ。
この剝製には、体とともにその時の感情すらも固められ、閉じ込められている。今の私は、この表情に芸術性すら感じてしまっている。
しかし、同時に私は、この感情を、苦しみを解放してあげたいとも思った。そして、その方法を知っているかのごとく、私は顔に手を伸ばす。そっとほほに触れる。
その瞬間、感情の波がどっと私に流れ込んできた。苦しみ、悲しみ、恐れ、怒り、謝罪、幸せ、虚無。あらゆる感情が込み上げる。おなかの下が縮み、胸が熱くなり、涙があふれる。
あぁぁぁっ!!どうして!どうしてこんなに苦しい顔をしてるのに!誰も助けてくれなかったんだろう!誰も気づいてくれなかったんだろう!
あぁぁぁ!他人の感情は分かり合おうとしなきゃ、こうも伝わらないものなんだ!
苦しかったんだ。解放されたかったんだ。気づいてほしかったんだ。私は、悪くないのに。いつしか自分で目をそらした。私ですら、気づいてあげられなかったんだ。そりゃあ他人にわかるはずもない。
でも、もう大丈夫。私がわかってる。私は愛してる。私は愛されてる。だから、だからお願い……生きてっっ!!
あの日から数週間がたった。今日も日の光が放射状に延び、雲は少しづつ形を変えながらゆっくりと流れる。別に望んでいたわけじゃない。でも、少しは期待していたのかもしれない。
世界には、70億人もの人がいるらしい。そりゃあ私が一人消えたところで、そんなの誤差でしかない。そんなことで何かが変わるわけがなかった。別に、消えなくたって、そんなの誤差でしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます