10.『聖女』の日常
いきなりヘンなものが地面から浮かんできたときはびっくりしたけど、更にびっくりしちゃったのを今でも覚えてる。だって目の前にはキラキラの男の人にお城のような場所。真っ先に「聖女だ!」と言われたときはもう、わたしってもしかしてゲームの世界に来ちゃった?! って思ったし、実際そんな感じでもうドキドキしちゃった。
この世界の聖女って、みんなを助けるために別の世界から召喚されるんだって。聖女の力があれば、苦しんでいる人たちを助けられる。だから力を貸してくれって跪いてわたしの手を取ったアルフレッド様は本当に王様だっていうし。その王様はとても優しくて気さくな人で、「俺のことをアルフレッドと呼んでも構わない」なんて言ってくれたからそのままアルフレッド様って呼んでる。最初のときだけつい「アルフレッド」って呼び捨てにしちゃったらえらい人にものすごく睨まれたから呼び捨てはやめたんだけど。
「ミサキ、シェフが君のためにケーキを作ってくれたそうだ」
「ほんと?! うれしい! アルフレッド様も一緒に食べよ?」
「ああ、そうだな」
わたしの名前、白萩美咲っていうんだけどこの世界の人は苗字が読みにくいみたい。だから「ミサキ」って名乗ってる。なんだか外国に行ったみたいで、もし旅行とか行ったらこんな感じなのかな~とか思ってみたり。
わたしのためにって準備してくれた綺麗な部屋にいると、アルフレッド様は忙しいのにいつも会いに来てくれる。一緒にご飯食べたり、さっき言いに来てくれたみたいにおやつを食べたり。大変じゃないかな、って思ったんだけどわたしが寂しくないようにしてくれてるらしい。
すっごく優しいアルフレッド様、こんなキラキラ素敵な世界にいると高校生でテストの結果に落ち込んでいた頃がもう随分前みたいに感じる。勉強しなかったから点数が悪いのは当たり前なんだけど、実際点数見たくなかったな~って思ってたらこっちの世界だもん。楽しくてしょうがないって思うじゃん?
でもそう考えたら、わたしの前に喚ばれた聖女の人一体何をやったんだろう。あのアルフレッド様が怒ったんだからそれなりのことをしちゃったんだろうな。前に城でアルフレッド様とはぐれて一回だけその前の聖女っぽい人を見てみたけど、わたしよりもお姉さんっていう感じで髪は天パなのかちょっとふわふわしてた。かわいい髪だな~って思ったけど、性格は髪みたいじゃなかったってこと?
可哀想なアルフレッド様、周りの騎士の人たちが言ってたけど聖女を召喚するのだってすっごく大変なんだって。前の人がしっかりしていればもう一回召喚することもなかったのに。あ、でもそうなるとわたし召喚されることなかったんだ、それだとちょっと困るかなぁ。
この城の中じゃ好き勝手にしていいってアルフレッド様から言われてたから、アルフレッド様がお仕事に戻ったらわたしは城の中をよく散歩していた。城の外は霧があるから危ないって言われてて、私も勝手に出ないように言われてる。
鼻歌混じりで歩いていたら目の前から歩いてきた人と目が合って、ちょこんと頭を下げられたからわたしもちょっぴり下げる。聖女の立場ってとても上? らしくてみんなこうして頭を下げてくれる。
「あ!」
そういえばこの服の人、前にも見たことがある。確か……神官? っていう人たちが着てる服だよね。わたしが思い出して声を上げたらすれ違おうとしていた人がびっくりして立ち止まった。
「ねぇねぇ、あなた神官だよね?」
「は、はいそうですが聖女様……」
「ね、ね! 聖女にもお仕事ってあるんだよね? そういうお部屋あったりする?」
「……もちろんでございます。ご案内致しましょうか?」
「うんお願い!」
アルフレッド様はゆっくりしてろって言ってくれるけど、わたしだって聖女として召喚されたんだから前の人と違ってしっかり仕事しなきゃ!
わたしを案内してくれる神官の後ろを付いて行ったところは、普段わたしたちがいるところよりもずっと遠かった。王様からこんな離れた場所にあるなんてすっごく不便、って思いつつ聖女のお部屋だから自由に入っていいって言われて遠慮することなくドアを開けた。
「うわっ、コホッコホッ! やだ埃っぽい!」
聖女のお仕事部屋なんだからもっと広くて綺麗な場所かと思ったら、本がいっぱいあってなんだか埃っぽい。前の人の後に誰も掃除しなかったの? と思いつつ取りあえず窓を開けた。窓を開けたところですぐ霧があるからあんまり換気になってないような気がする。
「わ~……本がいっぱい。どれから読めばいいの?」
「みなさん最初にこちらを手に取っているそうですが……」
「ああ、これ?」
案内してくれた人が言っていた本を手に取ってみる。なんだか古臭い。ページめくればカビ臭いにおいがして今までの聖女よくこの本読んだなぁ、なんて思いながらペラペラとめくってみた。
この本には聖女は各地を巡礼して風化されている碑石を直すこと。そうすれば霧が晴れて魔物が出てこなくなる、みたいなことが書かれていた。それと巡礼するとき状況を見てよく考えるように、的なことも。
「でもわたしならわざわざそんなことしなくていいんじゃない?」
だってアルフレッド様言っていたもん、わたしの聖女としての力は相当なものだって。こんな、ちまちましたやり方じゃなくてもっとパーッと大きな力を使えばその風化されてる碑石? っていうのもすぐに元に戻るんじゃないの?
「なぁんだ、こんな簡単なこと前の人はできなかったの? それだとアルフレッド様だって怒っちゃうって」
「せ、聖女様、これはそのような簡単なことでは……」
「今までの人だったら、でしょ? だいじょーぶわたしに任せてよ! わたしならすぐにみんなを助けてあげられるから!」
「……然様でございますか」
そうと決まったら早速アルフレッド様に言いに行かなきゃ! わたしが聖女として強い力を使うから、このよくわからない霧は一気に晴らすことができるって!
埃っぽい部屋を飛び出して廊下をパタパタと走る。あ、あの部屋もう使わなくていいかも。後で倉庫にでもすればいいんじゃないかって言ってみよう。だって折角空いてる部屋なんだから他のことにもきっと使えるし、ね?
すぐにアルフレッド様の部屋に飛び込んでったらえらい人にまた怒られたけど、アルフレッド様はそのえらい人に今度は怒ってくれる。優しいアルフレッド様、わたしもそんなアルフレッド様の役に立ちたい。
「アルフレッド様! わたし聖女の本を見ました! わたしなら碑石を一気に直せるんですよね? 任せてください、わたし必ずこの国の人たちの役に立ちますから!」
「……ああそうかミサキ、よく言ってくれた。ならば巡礼に出なければならないな」
「はい!」
「だが危険も伴うかもしれない。騎士を連れて行くといい」
アルフレッド様は一緒じゃないの? って思ったけどアルフレッド様は若いけどこの国の王様、きっと忙しいんだよね。わがまま言っちゃいけないよねって寂しかったけどコクンと頷いた。騎士の人たちもいるんだったら寂しくないだろうし、ピクニックみたいな感じで賑やかでいいかも。
まだまだ一緒にいたかったけどまだお仕事の最中だったから、アルフレッド様に手を振って部屋から出た。これから聖女として頑張って、国の人たちもそしてアルフレッド様もみんな幸せにできる。
「よーし、頑張るぞー! おー!」
こんなゲームみたいな世界、望めばきっとなんだってできる。
「随分と順応でございますなぁ」
「ああ、おかげでやりやすい。前の聖女は無駄に口出ししてきたからな」
「賢いのも厄介でございます。ところで、巡礼の地はどちらへ?」
「城周辺に向かわせる。城さえ残っていればどうとでもなるからな」
「有事の際には多少の犠牲もやむを得ますまい――民が苦しもうと悲しもうとも、王族が生きていればそれでよいのです」
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