第5話 代理な彼女と楽しい?デート

 友坂さんに流されてしまったが、初のデートと言えるものだ。

 しかも、あの友坂さんとだ!

 これは風祭に感謝しないといけないレベルの嬉しさだ。

 さて、どう過ごそうかな?

 だいたい、風祭さんの時には彼女にリードを任せていたから自分でエスコートすることはなかった。

 なら、聞いてみるのが正解かな?


「えー、質問いい?」

「はい、大丈夫です」


 小首を傾げる姿が可愛い。

 もう、これは一生の思い出になる!

 某サイトの表現なら、この言葉と笑顔でご飯三杯はいける。

 いや、いかん、不審者に思われてしまう。


「あのー、それで質問は?」


 頭の中での妄想のため、少し妙な時間があったのだろう。

 催促がきた。


「ああ、ごめん。風祭さんとは、いつもぶらぶらしてたから、あらためてどうしようかと思ったわけで……」

「そう、それなら気にしないで。というより、『いつも』というのが気になったけど?あの風祭さんと、そんなにしょっちゅうデートしているんだ?」


 あのというのは、風祭さんのハイスペックさを言っているのだろう。

 しかし、しょっちゅうとまでは無いことはハッキリさせておかねばならないよな。


「いや、誤解だよ。しょっちゅうとまでは無いからね。ごくたまにだよ。僕は風祭さんの秘書というか、雑用係だからね」

「ふーん、それで月にどのくらい?」


 まだ聞いてくるのか。

 早くこの話題から切り替えたいな。


「まあ、月に2回ぐらい?」

「ほほぅ、それってかなりの頻度だよね。風祭さんは仕事を持った大学生なんだから、時間が空いたら誘われているということだよね。やるジャン!」


 っと、誤解しないでもらいたい。


「いやいや、そんなことないよ。風祭さんは姉友だし、うちに遊びに来る時に一緒するぐらいだよ。だから弟扱いかな?それよりどこに行こうか?」

「ふーん、弟ね?まあ、そういうことにしておきましょう。さて、そうね。まずはファストフードでジュースでも飲みながら考えましょうか?もう少しあなたのことも知りたいし」


 まだ聞くのかよ?

 とはいえ、多少は僕に興味を持ってもらえているなら嬉しい限りだが、あまり期待が過ぎるかな。


 駅ビルにあるドーナッツ屋さんに入り、僕らはコーヒーを頼んだ。

 もちろん会計は僕なのだが、この程度なら大丈夫だ。風祭さんからの話もあるし、なるべく出してあげるしかないか。


 窓際の席で待つ友坂さんは、やはり目立つ。

 その容姿だけで無く、纏う雰囲気が人目をひいてしまう。

 風祭さんも人目を引くタイプだが、あれは規格外過ぎる女性だから比較のしようが無い。

 手をひらひらとさせて僕に合図してくれるのは嬉しいが、他の席の男どもから突き刺さるほどの視線はいただけない。

 さっさと席に座って知らんフリをしてやり過ごそう。


「おまちどおさん」

「ありがとう。あっ、ポテトまである!」


「あー、少しおかな減ったからね。食べる?」

「もちろん!」


 ポテトの入れ物の口を友坂さんの方に向けるとじーっと視線がやってくる。

 視線の主は友坂さんだ。


「何気に葵くんってば、慣れてるよね」

「えっ、なんのこと?」


「スマートというか、さすがというか、やっぱり風祭さんと一緒するだけはあるかな」

「?」


 どういうこと??


「いやいや、気にしない。さて、ここで最初のセルフィーいきます。はい、笑って」


 いきなりスマホを取り出して横から僕も入る角度で写真を撮る。

 これがさっき言っていたバイトの証拠ということだろう。


「ほら見て、葵くんの顔、微妙に引き攣ってるよ。笑えるー」

「いや、仕方ないでしょう。僕はそんなん慣れてないし。いきなりだったし、恥ずかしいなぁ」


 友坂さんが満足気に写真を何かのアプリにアップしているらしいのが見えて、慌ててやめさせた。


「何で止めるの?」

 頬を膨らませつつ怒ったポーズではあるが、怖くはない。

 どちらかと言うと、可愛い方かな。


「あのね、友坂さんの友達はあなたのフォロワーでしょう? なら、僕と一緒なのはまずいでしょう。友坂さんの彼氏から怒られるのは嫌なんだけどな」

「あー、まあ、そっかな。私達の関係を知らないなら誤解するかもね。ごめん、やめとくね。しかし、私は彼氏いないし、つくったこともないもん!」


 その発言に何故かホッとした。

 そっか、なら今日のデートは問題ないな。

 なら、楽しむ方がいいだろう。


「いや、わりぃ。僕は隠キャだから他の人とは情報が少ないし、友坂さんってよく告白されてるでしょう。だから勘違いしたんだ」

「まあ、わかってくれたのならそれでいいよ。だけどあなたが隠キャとは誰も思ってないけど?」


 そうなのか?

 なら自称隠キャなのか?


「だって、あなたのお姉さんとか風祭さんとは一年生の時によく話してたよね。あの2人の仲間としかみんな見てないよ。自覚なかったの?」

「ああ、全然。……なら今はどういう位置なのだろう?」

「あなたは、単に休み時間に読書しているだけで普通に私らの話題にも出るよ。まあ、あのお姉さんの弟としてだけどね」


 それはしょうがない。

 あの2人の関係者なら隠キャとは言わないだろうし、何となく納得もできる。

 ということは、今後はなるべく目立たないように過ごすようにしよう。

 さてさて、この話はもうよそう。


 えーっと、どうしようかな。

 まあ、いつもどおりにしようかな。


「えっと、この後は駅ビルの中の小物とか服を見て、ゲーセンと本屋巡りとかどう?」

「んー、服って誰の?」


「そりゃあ友坂さんの」

「いや、私じゃ無くて葵くんのを見ましょう」


 何故そうなる。

 女の子の好きにさせる時間を作ると間が持つからなんだけど、これでは僕には不利だよな。


 ここらへんも風祭さんから入れ知恵があったのか?

 あとで確かめてみよう。

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