第4話  気の重いデート

 噴水の前まで来たが、風祭さんの姿はない。

 遅れて来るなんて、彼女の性格からは考えられない。

 どこか、ここが見える場所にいるのだろうか?

 そう思いながら、待つこと20分過ぎ。

 1人の見知った女性が近づいて来た。


 友坂聖だ。

 まだ少しだけ肌寒い季節だけに真っ白なAラインのふわふわなコートに赤が基調なチェックのミニスカートを着ていた。

 長く綺麗な黒髪は学校で見慣れたポニテより大人びた雰囲気で白いコートとのコントラストが陽光に映えている。


 普段、制服しか見たことがないから、その群を抜く可愛らしさにたじろいでしまう。

 しかし、どうして彼女がここに来たのか、それはわからない。


「おはよう、佐藤くん。待った?」

「いや、待ってないけど、なんで?」


「あれっ、待ってないというのは偶然ここで私と会ったから待ってないという意味かな?もしや風祭から何も聞いてないの?」

「ああ、そうなの? 全然だよ」


「LINEするって言ってたのにしてないんだ」

「LINEは無かった」


「あらら、なら事情説明からだね。あのね、風祭さんは突然撮影が入ったから私が代役ということ。ごめんね、折角の美人のお姉さまと甘いデートというでっかい期待を裏切ってしまって」

「そうなんだ。友坂さんは代わりね、納得した。けど風祭さんとのデートなんて期待は全然く無かったからむしろデートが無くなって良かったよ。実はこれ、罰ゲームだったからね」

「うそ? またまた照れ隠しかな?」


 本気で信じられないという表情で大きな瞳がさらに大きくなって僕を見る。

 まあ、それはそうかもな。

 外面はいいし、僕以外には美人で優しい大学生でキャリアウーマンなんだからな。


「いや、ホントの話」


 友坂の瞳を大きくした表情に見惚れそうになりそうだから、思わずそっぽ向く。


「今の発言で、佐藤くんはかなりの敵を作ったと思うよ。夜道は気をつけて!」

「でも、風祭さんも断りの連絡をくれればよかったのに、友坂さんに余計な迷惑をかけてしまったなぁ。デートは無いなら伝言のお礼に少し時間があればカフェとかどう?」


「あっ、それそれ。やはり勘違いしてますね。風祭さんの代役なんです。だから今日は1日しっかりデートするんだけれど、佐藤くんは私じゃあ迷惑かな?」


 顔を赤くし、もじもじと少し恥ずかしそうな感じで上目遣い。

 かなりの威力というか破壊力だ!

 そろそろ平常心が壊れそう。


 だが、……これって、ラッキーなのか?!

 まさかの展開だが、夢ではないのか?

 学校中のマドンナが、不本意ながらでも僕にデートを提案している。

 しかし彼女は、僕の高校からの片想いの相手だ。

 このチャンスを逃す手はない!


「ねぇ、なんでフリーズしてるかな?」


 どうやら、考え込んで、そのまま固まっていたようだ。

 いやいや、待たせてはいけないよな。


「まっ、ま、まさか。嫌じゃないよ。でもね、いくら風祭さんからのお願いでも『佐藤とデートなんかさせんのかよっ!』とか思わないの?」


 少し声が裏返ってしまった。

 仕方ないよ。

 こんなシチュエーションは誰でも緊張するだろうし、僕はリア充では無い。

 むしろ、隠キャだ。

 頭の中で、全力で言い訳をしていた最中、信じられない言葉が耳から頭をくり抜いた。


「全然、なるべくお願いしたいのは私からだよ! それに1度は佐藤くんとは話してみたいと思っていたし」

「えっ?」


 まさかの爆弾発言で、口から魂が出そうになったが、友坂さんから別方向に爆弾が落とされた。


「いや、実はね、風祭さんから頼まれたからバイトとして約束してるんだ。あと、色々と佐藤くんが奢る話になってたんだけど、さすがに奢りは無理だよね。まあ、高校生で同じバイトしている身としてはあきらめるしかないね」


 これは、僕の心臓の心拍数を急激に上昇させた後、心臓そのものをぎゅーっと掴まれたようなショックだった。


 これはキツい。

 深く深呼吸して、友坂さんの顔をみると明らかに落胆している。


 一旦、僕の気持ちは後回しだ。

 はてさて、どうすべきか?

 こんな時、陽キャなら回避スキルがあるのだろうが、陽キャなら奢るのだろうか?

 いや、そんなことは無いだろ。

 そもそも、僕も現金は普通の高校生程度の小遣いしか持ってない。他は貯金しているし、まさか高校生がカードなんて使うところを見られたくは無い。


 それに今の言葉で僕も少なからず落胆した。

 奢りとバイトって、僕とのデートはレンタル彼女としてなんだよな。

 さすがに、チャンスといえど、そうまでしてデートしたいとは思わない。


「そういうことなら昼は奢るから、そこで解散しよう。口裏も合わせるしね」


 友坂は、『えっ』という顔をする。

 なんかまずいことでも言ってしまったか?


「いや、それならバイトにならないよ。要所要所でインスタあげることになってるもん」

「……じゃあ、バイト代は僕が払うよ」


 腹を括って提案するが、即座に否定された。


「あー、本当に葵くんって、それ言っちゃうんだ。びっくりだよ!風祭さんからもそんなケースがあるかもって聞いてたけど、あなたからはもらえないよ。だから、少しだけでもお願いします」


 上目遣いの友坂さんの魅力には抗えない。 

 風祭さんとは違う威圧感があるし、可愛い過ぎる。


「なら、了解です」

「えっ、それはOKってこと?」


 少しだけ間をおいて僕はゆっくり首を縦に振った。

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