第6話 代理デートはまだ続く

 ゆるりとした時間を過ごし、友坂さんの提案どおり僕の洋服選びとなった。

 思い出したように財布の中を確認するが、やはりあまり入ってない。

 ここは見るだけにとどめておこう。

 そうは決心したものの、あれこれと充てがわれるシャツやパンツを全て要らないと断るには罪悪感も半端ない。


 結局、モノトーンの綿シャツに黒っぽいパンツ、麻地のブレザーを店員さんに渡して、カードで支払った。

 姉のカードと偽って、ササっと会計を済ませて、次の場所に移動した。


 ちなみに、万札が数枚といった小遣い稼ぎをバイトで稼ぐ高校生にあるまじき値段だというのは分かっているものの、今回だけは友坂さんの顔を立てておこうと心に決めた。

 これも風祭さんから指示があったかも知れないし。


 それに学校で接点も無い奴にバイトとは言え、付き合ってくれている訳で、風祭さんと普通に過ごしている時のように振る舞うことにした。


 多少、疲れたのでフードコートの椅子に座り、互いにコーヒーを飲んでいるのだが、いかんせん話題が無い。

 沈黙の時間が訪れ、周囲の雑音に多少なり安心しながらも頭はフル回転で話題を考える。

 暫く考えていたが諦めた。

 隠キャには無理過ぎる。


 それに自分から話しかけるのは、敷居が高い。思わずスマホを手にして検索しているフリをするが、風祭さんからは女の子と一緒にいる時のスマホはNGと禁止されていることを思い出して、シャツのポケットに放り込んだ。


 俯いていた顔をあげて友坂さんを見ると、丁度良い感じで見られてた。

 ふぅー、セーフだよな。

 今のを風祭さんに報告するとか無いよな?


「ねえ、佐藤くん。聞いてもいい?」


「えっ、な、なにを?」


 じーっと見られると照れるんですけど?

 早く聞きたいことを言ってくださいよ!


「佐藤くんって、私のことどう思ってるの?」


「…………」


 なっ、なんだこれ?

 正直に答えるなら、絶賛、片想い中だろう。

 だが、本人には言えない。

 おそらく、一生言えないよな。

 それだけは自信がある!


 友坂さんは、黙る僕に対し慌てて話を続けた。


「あっ、言い方が悪かったよね。私、どうも藤井くんから嫌われてないか、心配しているんだけど?学校でも避けられてるみたいだし?」


「あーっと、嫌いではないよ。だけど避けてはいるかな。でも、それは友坂さんだけでなくて、友坂さんのグループを避けている訳で、やっぱ僕は隠キャだから陽キャの人達は苦手なんだよね」


 友坂さんから視線を逸らし、本音を言ったのだが、友坂さんは何故か驚いている。


「えっ、もう一度言うけど、あなたは隠キャじゃないし、私達にも気軽に話しかけてくれるなら、みんなも普通に友達になれると思うけど」


「そ、そうかな?でも、敷居が高いというか、住む世界が違うというか、僕とはレベル違いだよ」


「ふーん、それやめた方がいいよ。セルフイメージで表情とかも変わるらしいからね。でも良かった。嫌われてないんだよね。なら、学校でも話しかけるからよろしくね」


 にこにことはこんな笑顔を示すんだな。

 勝手に決められてしまったが、断ると面倒くさくことになりそうなので、あえて断らないことにした。

 どうも、友坂さんは風祭さん属性のようだ。

 他人の意見を受け入れるより先に自分の意見を通すスキル持ち。

 反抗すれば、それだけ被害が広がると思う。


「んで、2つ目です。お手紙を作る時はどんなことに気をつけてますか?」


 おっ、仕事の話かよ。

 他のより得意ではあるけど、熱く語りすぎないようにしないとな。


「んー、そうだな。クライアント側の気持ちを優先する。次にクライアントさんの性格ならどう答えるかを想像して書いてみる。それを風祭さんに送って直してもらうようにしているよ」


「……そう、そこで風祭さんに見てもらうのね。何故かな?普通ならバイト主任の都村さんに見てもらうんじゃないの?」


 あらら、間違えた。

 そりゃあ、僕は風祭さんの秘書だし、雑用もこなしているとは言え、そんな例外はあり得ない。

 なんて切り抜けようか……。


「えっとね。都村さんも、その後に風祭さんに見てもらっているんだよ。僕と都村さんでは僕の方が早く入社してるので風祭さんに直接見てもらうままになっているんだ」


 まあ、少し嘘だけどバレないならいいか。

 多少は顔の表情に微妙な感じがあったのか、友坂さんからは「まっ、そういうことにしといたげる」と意味深な言葉が返された。


「それで、佐藤くんから私に質問か聞きたいことはないの?」


「特にないけど?」


 そう言った途端に友坂さんの機嫌が悪くなった。


「えっ」と一言だけ言うと、冷たい目で一瞥された後、突然スマホをいじり始めた。


 よく考えたら、あなたには興味がないとストレートに言ってしまったことに気がついた。


 ……やべぇ。


「あっ、いや、じゃあ2ついい?」


 友坂さんは、スマホいじりを直ぐにやめて、僕に期待に満ちた顔をむけた。


「うん、2つじゃなくても、3つ4つきいちゃって!」


 いきなり機嫌が直った!

 チョロい(笑)


「まずは、彼氏さんは?」


「いまはいませーん。募集中です」


 ほー、いないのか。

 しかし募集中とは、応募してもいいでしょうか?まあ、しないけど。

 いや、違う。できないけどね。

 しかし、いまいない。とは過去にはいた訳ね。何人いたのだろう?

 気になりはするが、自分には関係ないか。

 さて、2つ目だ。


「次だけど、どうしてこのバイトに応募したの?」


「えっ、あの、1つ目スルーですか? 普通なら僕はどう?とかの流れじゃない?」


「いや、そこは経験値が足りないからね。陽キャみたいには反応できないよ。それに言ってみて、断られるとわかってても地味にキツいしね」


「真面目だねー!しかし、案外、断られなかったかも知れないよ?」


 そう言ってニヤニヤ微笑む友坂さんからは風祭さんと同じ匂いがした。

 やはり、風祭属性らしい。

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