第10話 背後に護る人のいる戦い
なんてこった。
予想した以上に周囲には
頭だけ鉄の
こいつは何回か刺されるのを覚悟しなきゃいけねーかもな。
辺りには羽音を立てる虫どもが蠢く。
ウァーーン、ヴヴヴウァーーー。
気の弱い者ならば、その場で立ちすくんで動けなくなりそうな。
攻撃的な音が鳴り響く。
そんな中を
目的地は会場からさほど離れていない地面。
やはり。
先程、庭師が弄っていた辺り。
その大地から
暗い庭の中、地面に光る文様が描かれている。
その文様からヴヴヴ、と音を立てるモノが這い出て来るのである。
周辺に密集する
左足で踏み込み、右足で高く周囲を薙ぎ払う。
羽音を立てるモノどもが少なくなった処で、地面の光る箇所に飛びつく。
細かな石が光を帯びている。
薄く光る小石が幾つも置かれて、文様を成しているのだ。
コイツは魔宝石か?
チッ、先程は光っていなかったから気づかなかった。
口元から濡れた突起を伸ばす
ジャマすんな。
今大事なトコなんだ。
胸当ては使い込んだ革鎧。
虫の針程度、簡単に通しはしない。
ヴォルティガンは光る石をデタラメに払い、文様の形を崩す。
すると、羽音を立てるモノが地面から這い出る事は無くなった。
「やったか」
これで虫ヤロウはもう増えない。
「んじゃ、残りだな」
ヴォルティガンは周囲を見回す。
宙に飛ぶ、うるせえ音を立てるムシども。
「ハエ退治といくかね」
肩に着いた
都合の良いことに周りには壊すと怒られる新品の家具もバカ高い食器も無い。
好きなように暴れられる。
コキコキと肩を鳴らし、ニヤリと笑みを浮かべる男。
それが
……俺は何をしている……
また一匹ハエが落ちていく。
床にはすでに無数の
断末魔の羽音を立てる。
そのアタマを女給の靴で踏み潰しながら、また近付いて来た
別に
自分に近づく毒を持つ虫を斬っているだけだ。
そう自分を納得させる。
「華麗ー!
なんてカッコイイの。
わたしも剣の扱い習おうかしら」
「ダメだよ、クリス。
護身術くらいなら習っても良いけど、刃物は危険だよ。
それにあれは剣じゃなくて、ナイフ」
「じゃあ、ナイフの練習したいわ。
わたし包丁さばき得意なの。
包丁もナイフも似たようなモノよね」
いや、似てない。
心の中でつぶやいてしまう
さらに後方には女官。
メイドと呼ばれていたな。
胡蝶蘭を象った髪飾りを付けた女性。
いつの間にか手に松明を持っている。
赤々と火が燃えるそれで、
窓から無限に入ってくるのかと思ったが、いつしか新手は登場しなくなった。
会場隅に賓客たちは集められている。
その外周を
会場から逃げて行こうとした人々だが、建物の外にも
いつしかそんな形になっている。
1体は
飛んで来た
弱ったムシを炎で焼いてみせた。
大した度胸だな。
チラリと感心しつつ、ナイフを上から下へと振るう。
そのまま左手に持ち替え、左上を斜めに切り裂く。
どちらも確かな手ごたえ。
地面にはヴヴヴ、とイヤな音を立てる物体。
毒針を持つ頭の方を踏み潰しておく。
さすがに疲れた。
ナイフの一閃で倒せる
毒針に刺されない様、注意が必要。
それ以上に。
後ろに誰かを護って戦う。
後方に
そんな行動はした事が無い。
思った以上に神経をすり減らした。
しかし、疲れた身体に感じられるのはなぜか満足感。
いつもの仕事を終えた後感じられる、胸を圧し潰されるようなそれとはまったく違うモノ。
しかし。
これから胸を圧し潰されるようなそれを感じなければならない。
手に持ったマチェットナイフ。
近くのテーブルクロスで拭いとる。
さすがに失礼だろう。
こんな汚れた凶器で、『ファレノプシス・アフロディテ』を、この国の女王を切るのは不躾に過ぎる。
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