第4話 女王になる

半年前の事である。

ローランドの国王とその妃が突然病死を遂げた。

クリスの父親と母親である。


当然、王女クリスは悲しみに暮れた。

しかし王宮の人間は悲しんでいる場合では無かった。


国葬の準備をしつつ、次の王を決めなければならない。

候補は二人。


第一王子のクローダス。

知見に優れ、現在でも大臣として活躍している。

ただし身体が弱いと言う噂が有り、あまり民衆の前に姿を現さない。

学問として魔道を修め、魔術師としても研究成果を残している。

大臣として王国の諸問題を上手く調整しており政治家としても能力が高い。


第二王子のライオニス。

武勇に優れ、既に戦場で功を立てている。

多少乱暴だと言う話も聞くが、快活でパレードにも良く顔を出す。

兵士への演説も上手く、指揮を取らせれば戦場で負け知らず。

優秀な将軍として歴史に名を残すと既に言われている。


第一王子であるか第二王子であるかはあまり問題視されない。

優秀な者が国王を継ぐ。

それがローランドの国風である。

ではどちらが優秀なのか。

モチロン文官はクローダスだと言い、武官はライオニスだと言い張った。


優秀さに差が無ければ兄、第一王子が継ぐのが自然。


しかし将軍たちは言う。

現在は国が危急存亡の折り。

国境付近では争いが起きている。

クローダス様は優秀では有りますが身体が弱いのは事実。

今国王になるべきはライオニス様。


大臣たちも返す。

争いの時期だからこそ。

ライオニス様には将軍として戦場で活躍していただき。

その後ろで国王となるのはクローダス様。

諸外国との交渉や調整が出来るのはクローダス様以外に無い。


言い争いは激化した。

どちらの言い分もそれなりに筋が通っているのだ。

このままでは国を分けた戦いになる。

事を治めたのは宰相ランバールであった。

彼は次期王として末の王女クリスティーナを推した。


確かにクリスティーナ姫と言えば優しい人柄と美しい外見で国民に人気の有る王女。

ローランドは優秀な人間であれば女性が王になる事も認めている。

歴史上幾度も有った事である。

とは言え有力な候補として男性の王子がいるのに王女が王位に就くのはそう有る事では無い。

クローダス派やライオニス派は当然反発した。


モチロン王女クリス自身もお断りだった。

なに、そのウワサ。

そんなデタラメ誰が流したのかしら。

わたし料理人になるのが夢なのよ。

そうじゃ無かったら街のパン屋さん。

まだパンは上手く作れないけれど。

シチューくらいなら美味しく作れるし、クッキーだって女官に手伝って貰わなくても焼けるんだから。


だけど。

何故かクリスが女王様になってしまったのだ。


幼馴染パーシーがクリスの家を訪れて言った。


「クリス、キミがローランド国の女王になるんだ」


既に二人の兄とは話が着いてると言うのだ。


「いやー、そんなのムリよ。

 パーシーだって知ってるじゃない。

 わたし勉強苦手なの。

 本を読むのは好きだけど。

 国際情勢とか、国同士のウラオモテ、本音と建て前とか。

 そーゆーのムリなのー」


あまりのコトに泣き出してしまったクリスである。

まだ両親を無くして間も無い。

情緒不安定な少女だったのだ。


「知ってる。

 だけどもう決まっちゃったんだよ。

 大丈夫、政治の部分は僕が摂政になってキミを支える」


「だって兄さまたちが居るじゃない。

 そのどちらかが国王になるって。

 賭け事になっていて、国民のみんな参加してるってウワサよ」


「誰からそんなウワサ……

 メイドだね」


「うん、今ライオニス兄さまの方が少し優勢。

 勝っても1.6倍にしかならないんだって。

 クローダス兄さまの方なら2倍になるの。

 人気が有る方が儲からないなんて不思議よね」


「そうなのか?

 そうか、庶民たちにクローダス様は顔を知られて無いからな」


「うん、クロ兄さま人前に出るのキライだもの。

 もっとパレードに参加したらいいのに。

 そうしたら女子人気が絶対上がるわ」


「確かにあのクローダス様の容姿なら……

 いやそうじゃなくて、とにかく!

 もうクローダス様、ライオニス様、ウチの父親が決めちゃったんだ。

 僕に逆らえると思う?」


宰相ランバールの息子、パーシヴァル。

幼馴染の少年がクリスに引導を渡したのだった。


ちなみにその秘密情報をゲットしたメイドは賭けに独り勝ちしたという噂も有るが定かではない。


クローダス派の文官やライオニス派の武官には逆らい様が無かった。

何故ならその旗印、クローダスやライオニス自身が言うのである。


「次期王になるのはクリスです。

 なんです?

 まさか貴方、私のクリスに文句が有るとでも言うんじゃないでしょうね。

 私の言葉に逆らうとは、命が大事では無いようですね」

「次の王様はクリスな。

 いいか、テメェラ。

 俺の前でクリスが女王に相応しくないとでも言ってみろ。

 そのアタマ粉々にしてやんぜ」


かくして。

泣き虫の少女。

料理人になるのが夢だった17歳の乙女。

クリスティーナはローランド国の女王の座に就いたのであった。

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