第2話 摂政のヒトリゴト
「終わりよね、終わりよねー。
今日の謁見、オシマイなのよねっ。
急遽追加とか言い出したらアタシ泣いちゃうわ。
ここで謁見するわ。
誰が来るんでも椅子の後ろに隠れて会うんだから」
玉座の後ろに隠れて話す
「今日はお終いだよ。
だから、そんなトコに隠れないで。
役所から来てる文官も居るし、護衛の兵士達だっている。
女王らしくしてくれよ」
「ムリよ、パーシー。
アタシ頑張ったもん。
外国の人たちの前ではさすがにちゃんとしなきゃ。
って必死で頑張ったもん。
これ以上ムリだもの、限界だもの。
ねっ。
アタシ頑張ったわよね、ヴォル」
黒い鎧を着た大男、ヴォルティガンは頷く。
「おうよ。
姫さん、ドンドン女王ぶりっこが板について来てるじゃねーか」
ぶりっこ言うな。
クリスはホントにホンモノの女王なんだぞ。
そう怒鳴りそうになるのをパーシヴァル・エッヘンバーグは堪える。
自分の言った通り、周囲には役人や兵士がいるのだ。
そんな場面をあまり見せたくはない。
と言っても。
王宮の人間にはすでに何度も見られてしまっているのだが。
「良かったー。
今日のおシゴト終わりね。
ならおウチに帰れるのね」
さっきまで涙を眼に溜めていたのだが。
クリスは帰れるとなって、るんるん気分になったらしい。
「クリス、一度帰っても良いけれど。
今日は晩餐も有るんだよ」
「ええええ。
きょう〜?、今日は新鮮な卵が手に入ったって料理人が言うから、オムライスに挑戦しようと思っていたのに……」
「今日の予定は朝も伝えたはずだよ」
「知らないー」
王宮を出て、歩いて行く三人。
女王クリスと護衛ヴォルティガン、摂政のパーシヴァル。
行先は胡蝶蘭の館。
王城では無くクリスティーナ・ローランドが暮らすための別邸。
目立たない小さい屋敷だが洗練された美しい造り。
「にしても今日は激しかったね」
「ああ。
姫さん、何か有ったか?」
パーシーが言って、ヴォルがクリスに訊いてくる。
クリスの発作のコト。
クリスだって人前で泣きそうになったりしたくは無い。
女王の重圧にこれでも堪えてるのだ。
謁見が終わると、終わったーと疲れ切るのはいつものコトだけど。
自分のお家に帰るまでは我慢する。
だけど、今日は……
「最後の謁見の人たち居たじゃない?」
「ああ、トラスボーグ王国の方たちだね」
「あの中の一人がこっちに視線を向けてて……
なんだか視線がスゴク恐かったの」
「…………」
「…………」
パーシーとヴォルが二人してクリスを見つめる。
「気にしないで。
見られるのには慣れてるんだけど……
やっぱり疲れてるのね」
あまり二人を心配させたくはない。
クリスは胡蝶蘭の館へと入って行く。
扉を女給が開けて、中に入ってしまえば。
もうあたしんち、何も気にするコトは無い。
摂政と護衛は胡蝶蘭の館へ入る扉の前で少し会話する。
「ヴォルティガン、どう思う」
「ふん、姫さんは目立つぜ。
アコガレばっかじゃねえ。
ヤッカミの視線だって当然混じるだろう」
「そうか……
なら気にしなくていいな」
「……まぁな」
ヴォルティガンは少し言い淀む。
黒い革鎧を着ている自分は王宮では異質。
周囲の護衛兵士たちは白や銀の鎧で着飾っているのだ。
それでも目立つようで目立たない。
自ら気配を消しているのだ。
うん、なんか変な
とジロジロ見て来るような一般人は滅多にいないのだ。
しかし今日は一瞬視線を感じた。
観察の目。
こちらの武装を確認するような、そんな冷徹な視線。
誰だ。
と思って視線の主を探そうとしたが、一瞬で視線は消えていた。
「俺はいつも通り、護衛に貼りつく」
「ああ、頼む」
ヴォルティガンが扉を開けて、入って行くとそこには
ドレスのベルトを外して放り投げてる。
前開きのドレスが少しはだけてしまっているのである。
「なんだ、姫さんストリップか?
そういうのは金を取ってやるもんだぜ」
「違うわ、ヴォル。
このドレス、ものすごくお腹を締め上げるんですもの。
王宮でずっと我慢してたのよ。
もうムリ」
パーシヴァルはまだ王宮で仕事が有る。
胡蝶蘭の館の前で分かれて、王宮に戻るつもりだったのだが。
つい気になって、扉の中を覗きこんでしまうと言うモノ。
「キャッ!
パーシー、まだ居たの?!
入ってこないで
扉を閉めてよ」
と、女給が扉を慌てて閉める。
一瞬の光景。
ドレスから覗く下着姿のクリス。
そんな映像を眼に焼き付けて。
口の中でブツブツ言いながら仕事へ戻るパーシヴァルである。
「なんで、ヴォルティガンは良くて、僕はダメなんだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます