第14話 勇者の役割
初陣を飾ってから、僕は戦場を転々と回ることになった。剣士や魔法使いと一緒にパーティを組んで魔王討伐にあたるのが勇者の役割だと思っていたら、大きく違っていた。魔王が支配している地域に、軍隊が攻め入り僕は兵士の一員として戦場に赴いた。
最初はタブラス村みたいな小さな集落の攻略から始まり、今では大きな砦を魔族から取り返すための戦闘に加わることが多くなっていた。ただ、やっていることはあまり変わらず、魔族を魔法や剣で蹴散らし、戦闘を有利に運ぶ先方として戦い続けた。
「勇者様、この砦を破壊することが出来ますでしょうか」
指揮官の一人が草原に築かれた巨大な砦を指差して、僕に助けを求めるような目を向ける。
「流石に一つの魔法では、この大きさの砦を崩すのは難しそうですね。複合魔法を使って城門を吹き飛ばしますから、前方にいる兵士たちを一端下げるよう、指示を出して下さい」
「ダストン大隊を一端下がらせろ!」
指揮官は、大慌てで命令を放った。
「グラビトン・エレクトロニクセル!」
魔法詠唱を終えると、ズズズと地鳴りをたてて、砦の門が不自然に揺れる。そこに追い打ちを掛けるように稲妻が落ちた。バリバリバリと耳をつんざく大音響と共に、青光りの魔法が門を貫いた。門は跡形もなく吹っ飛び、もう砦の意味を成さなくなっていた。
「突撃いぃぃいいーーーー」
指揮官の命令に、兵士たちがそれに呼応する。砦の中で戦闘が始まり、魔族が次々と討ち取られていく。魔人一人と人間の兵士では、戦闘力に格段の差があるので、ただ突撃するだけで勝つことは出来ない。しかし僕が兵士たちに強化魔法を掛けることによって、彼らとの戦闘力の差を埋めた。バルザ王国側は人数の力で、戦闘を有利に運ぶことが出来た。
「いや、勇者様の強化魔法は、いつ見ても素晴らしいですな」
「まだ先頭は終わっていませんので、油断は出来ませんよ」
と、言ったものの、この砦はもう完全に落ちたと確信していた。ところが砦の中での戦闘が、一向に終わる気配がなく、次第に王国軍が押し返され始めた。その時である。司令部に一人の伝令が走り込んできた。
「
ネームドを持つ魔人が、この戦況を引っ繰り返し始める。
「今から僕も打って出ようと思います」
司令部隊から門に向かって飛び出していく。
壊れた城門に入ると、友軍と戦っている魔人が目に飛び込んでくる。
「砦に回されたから、ちんけな
青い肌の魔人が高笑いをしながら、大剣を振り回しバルザ王国の兵士たちを切り刻んでいた。僕はその中に割って入り立ちはだかる。
「弱い物イジメをして楽しいですか?」
青い魔人へと剣を構え、煽ってみた。
「おいおい……せっかく気持ちよく遊んでいたら、子供に水をさされちまったよ」
言うが早いか魔人が地面を蹴り、一直線で駆けてくる。今まで見てきた敵の中では、一番スピードが速かった。あっという間に間合いが詰められ、大剣が振り下ろされる。僕は刃の腹で軽く弾いて、その攻撃をかわした。
「ぐぬぬぬぬ」
魔人の歯軋りが耳元で聞こえる。
「メララン!!」
左手から吹き出した炎が魔人を包み込み、その場で焼け焦げた身体が盛大に崩れ落ちた。ネームドを持つ魔人を僕が消し去ると、砦はあっけないほどすぐに落ちた。
王国軍の勝利の歓声が砦内で響き渡り、被害を最小限に抑えた勇者を称える賛辞で、僕は埋め尽くされていく。その熱が冷めぬままに、勝利の旗を掲げたバルザ王国軍が王都に凱旋すると、街の住人たちは先勝ムードに沸き立っていた。
僕は住人たちの笑顔に迎えられ、勇者と呼ばれることに違和感を覚えなくなっていた。そうして、魔王に支配される寸前まで追い込まれていたバルザ王国は、勇者の力で徐々に劣勢を跳ね返していくことになる。
ただこの魔王との戦いが十年以上続くとは、僕はまだ知る
※ ネームド魔人のモブぶりよ……
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