第15話 親子の奸計

 王宮の一室で親子が静かに語らっている――


「こんな夜更けに、私を呼び出すなんてどうなさいましたか?」


 目の下に隈を作って、複雑な表情をしているアンディシャル王の顔を見て尋ねた。


「誰もいないところで、お前とゆっくり話をしたかったからな」


 アンディシャル王は椅子の背もたれに身体を預けながら、カトリーヌを迎え入れる。


「勇者は本当によく踊ってくれている。これほどのアタリを引いたことで召還のコストがさがり、次の研究が進められたとナービスもほくそ笑んでおったわ」


「それは上々ですね。そんな話を私にしたかったのですか」


 カトリーヌは優しい目をアンディシャル王に向けて尋ねる。


「勇者をどう思っているのか……もし気に入っておるなら今から道筋を付けるので、遠慮無く申してみよ」


 アンディシャル王は、胸の内を彼女に吐き捨てた。


「はい、お父様。サガワ様は誠実で私に好意を持っていますが、王族の上に立てる人物としては失格です。私が政務を主導したとしても民衆に負担を求めれば、それを黙って見過ごせるほど馬鹿な人物でもないのが困りものです」


 彼女は深い溜息をひとつ漏らした。


「勇者の力が……徒となるのか」


 わずかに言い澱みながら、アンディシャル王がそう言った。


「そうですね……彼とは価値観が違いすぎます。一人の男として見れば、トップクラスで誠実な人でしょうが、我が国に取り込めば、獅子身中の虫でしかありません」


「十年間も付き合っていながら、辛辣な意見であるな」


「十年付き合ったからこそ言えるのです。体力馬鹿なら、まだ心から愛せたのですが……」


 彼女は影を落として静かに笑った。


「それはすまないことをしたな……父として我が娘にこれほど負担を掛けていたとは知らなんだ」


 アンディシャル王は、耐えられぬといった表情を作った。


「お父様、そのような顔をしないで下さい。王族の一員として出来ることをしたまでです。まだ始まりに過ぎないのに、こんな事で頭を下げられては。を征することなど到底出来ませんわ」


 カトリーヌは、目の前に座っているを、もう一度ジッと見つめる。


「悪かった……もうすぐ我が国の未来が決まる一戦を前にして、どうやら不甲斐ない気持ちになっていたようだ」


 アンディシャル王の目が、彼女へとそそがれる。


「勇者サガワが、この決戦いくさで負けるはずはありませんわ」


「そうだな……あれは化け物だ」


 それだけ言うと、疲れ果てて椅子に腰を落とすように座り込んだ王は、テーブルの上にある酒を一気に煽って静かに目を閉じた。

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