B-Side:Hard Rock

「コハルさあ、ユウキに告白しないの? なんだかんだで、高校生活もあと少ししか残ってないぞ」


「……んー、しないかな? 多分、そのまま卒業かな」


 今日は二人でマックに寄ってます。奢りじゃ無いからか、今日のサクラちゃんはコーラのSサイズ。私はいつものアイスカフェラテ。


「なんでよ。コハル性格良いし、ちっこくて可愛いし。アイツもコハルの事好きなんじゃ無い? アタシが男だったら絶対付き合ってやるのに」


「アハハ、ありがとサクラちゃん。今がすごく楽しいからこれでいいの。サクラちゃんが人のこと心配してくれるって珍しいね」


「なんだよ、人を鬼みたいに。まあ正直に言うと、隠し事黙ってるの苦手なのよアタシ。ついポロっと言っちゃいそうで」


 なるほどね。サクラちゃんらしくて、ある意味安心する。

 

 でもね、サクラちゃんには黙ってるけど、告白しないのには理由があるんだ。



「ユウキの曲、結構アレンジしちゃったけど、ライブでウケるかな? やりすぎたかもって、実はちょっと心配してるんだよな」


「どうしたの、サクラちゃんらしくない! この間、練習見てた川部くんが『めちゃくちゃ格好いい! 俺も早くギター弾きてえ!』って褒めてたよ」


「マジで!? ギタリストに褒められると、余計に嬉しいな。ようし、川部の分もガンガンに弾いてやるか!」


 そう言ってサクラちゃんはエアギターを始めた。ギターが上手い人は、エアギターもカッコいいのかも。そんなサクラちゃんを、私はニヤニヤと見つめている。


 文化祭はもう目の前だ。

 


***



 大歓声の中、サクラちゃんのバンドが演奏を終えた。


 私も声を出して、飛び跳ねて、気付けば汗だくになってた。


 去年もものすごく盛り上がってたけど、今年は下級生からの『サクラ先輩』コールが凄かった! ほんと格好よかったよ、サクラちゃん!


 文化祭のライブステージは、次のバンドが最後。『ヘビーメロウ』、ユウキくんのバンドだ。


 サクラちゃん達のメンバーがステージを降りて、ユウキくん達が入れ替わりにステージに上がる。サクラちゃんだけがステージを降りず、エフェクターの調整をしているのを見て、観客がざわつき始めた。


「え? サクラ先輩、次も出るの?」


「なになに? ツインボーカル?」


 あちらこちらでそんな声が聞こえる。君たちは知らなくて当然当然。私なんて結成時の瞬間も横に居たんだよ、フフフ。


 その場に居ただけの私だけど、何故だか得意気になった。



 ドラムスティックがカウントを始める。


 一曲目は、クリーントーンのアルペジオでスタートする『きらめき』だ。イントロだけでどよめきが起こる。サクラちゃんのギターから歪んだ音が出ていないのが、新鮮だったのかもしれない。

 ユウキくんのボーカルがギターと重なった途端、会場は静まりかえり、皆が聴き入った。練習で何度も何度も聴いたのに。なんでだろう、涙が出そうになる。


 そろそろだ、サクラちゃんがこだわったギターソロ。


「きた!」


 川部くんのソロとは違って、大きく歪ませた音色が大音量で響く。速弾きじゃなく、一音一音が丁寧につま弾かれていく。


 ああ……ギターの音色だけで鳥肌が立ってしまう。すごいよ、サクラちゃん。私ギターでこんなに感動したのは初めてかもしれない。


 最後にまたクリーントーンのアルペジオで曲が終わったとき、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。


 いつもの『ヘビーメロウ』はバラードが多めだが、今回はノリの良い曲が多かった。その内の一曲は、サクラちゃんのバンドの曲もあった。ユウキくんが歌う、サクラちゃんのバンドの曲も新鮮で格好よかった。


「今日はありがとうございました! 本当は川部って奴がギターなんだけど、腱鞘炎になっちゃって、代わりにサクラが弾いてくれました。この場を借りて、ありがとうサクラ!」


 会場に大きな拍手が起きる。サクラちゃんは観客を銃で撃つようなポーズを取った。フフ、何やっても絵になるんだから。


「では、早いけど次が最後の曲です。『ブロッサム』 聴いてください!」


 歓声の中、ギターのイントロから始まった。これもサクラちゃんのアレンジでかなり歪んだ音だ。このアレンジも格好いい!


 サビの部分は何度も練習したハモりの部分。三人で部活上がりの時は、一緒に歌いながら帰ったね。


『強さと優しさを秘めたキミは 俺の胸に咲いたブロッサム』


 練習中、サクラちゃんに「クッセー、サビだなおい!」と言われたユウキくんは「この曲はクサくていいんだよ」と笑っていた。

 

 私には分かる、『ブロッサム』はサクラちゃんを想って作った歌なんだよ、きっと。


 この一年間、いつも近くでユウキくんを見て来たから分かる。ユウキくんの視線の先には、いつもサクラちゃんがいた。


 曲が終わると、大歓声がアンコールの嵐に変わった。

 


***



「この制服着るのも今日で最後だって。早えなホント」


「ほーんと、あっという間だったね」


 今日は卒業式でした。卒業式のあと、軽音部の皆で部室に集まって、私達だけのミニライブをやった。ユウキくんの歌、サクラちゃんの歌とギター。特等席で見せて貰った私は、涙が止まらなかった。


 そして今、私達はいつものマックにいる。ユウキくんとサクラちゃんと私で。


「ユウキさあ、歌いながらボロボロ泣いてんの、何あれ。汚かったわ」


「目の前でコハルがボロボロ泣くからだろ! あれで泣かない方が鬼だわ、この鬼女!」


 二人は相変わらずだ。このやりとりも、なかなか見られなくなると思ったら少し寂しい。



「何かあった時って、いつもここのマックだったよね。またこうやって集まれるのかな? 私達」


「そういやそうだったな。サクラにギターやってくれって言った時とか、コハルの告白とか」


「コハルの告白! あれは衝撃だったな! 三人しか居ないのに、二人同時にフラれるんだからな!」


 笑いを堪えながらサクラちゃんが言う。流石のサクラちゃんも、ここは笑っちゃイケないと思っているのだろう。


「いいよ、笑えよ。もう大丈夫だ」


 ユウキくんもクスッと笑った。



//////////


 ——文化祭が終わった翌日。


 珍しく私から、ユウキくんとサクラちゃんをマックに誘った。


「コハルから誘ってくるって珍しいな。なになに? アタシ結構ワクワクしてるんだけど」


 誘った私が、今日は皆に奢った。その日も私はアイスカフェラテ。ユウキくんはコーラのSサイズ。サクラちゃんもコーラのSサイズだった。女子には優しいサクラちゃんなのです。


「もう、3年生は軽音部も引退だから、私、告白しようと思うの」


 突然の告白宣言に、サクラちゃんが息をのむのが分かった。


「サクラちゃん、私のこと好き?」


「コ、コハルの事? そ、そりゃ好きだよ。で?」


「私は……私はユウキくんが好き。そして、ユウキくんは多分、サクラちゃんが好き。どっちも、ライクじゃない方の……」

 

 二人を見ると、揃ってフリーズしてた。

 

「ホントは、ずっと言うつもり無かったんだけど……もしかしてユウキくん、私の気持ちに気付いてるんじゃないかなって。そうだとしたら、サクラちゃんに好きだって言いにくいのかなって。こういうのLINEで言った方がいいのかなって思ったけど、やっぱりこういうのは、会って言った方がいいのかもって……ご、ごめん、何言ってるか分からないよね……」


 途中から涙が出てきて、ちゃんと話せなくなる私。


「よく言った、えらいぞコハル。分かった、全部伝わった。ありがとう」


 サクラちゃんは私の頭を抱えて抱きしめてくれた。私は何に対して泣いてるのか分からなかったけど、涙が止まらなかった。


「ん? って言うか、ユウキがなんだって?」


//////////



 その日、私はユウキくんにフラれ、ユウキくんはサクラちゃんにフラれたのでした。


 その後の数日間はちょっとギクシャクもしたけど、進路相談なんかをする内に、いつもの三人に少しずつ戻っていったのです。


「そういやさ、コハルはなんでアタシに好きどうか聞いてきたの? 実はユウキよりアタシの事愛してるのかと思って、身構えたぞ」


「あー、あれはね。ユウキくんは私に好かれて、サクラちゃんはユウキくんに好かれてるのに、私だけ好かれてないのは寂しいなって思って。なんとなく三つ巴にしたかったの」


「なんだそれ!」


 二人は机をバンバン叩いて大笑いした。


 

 この春から、私とユウキくんは進学。サクラちゃんはライブハウスで働くことが決まっている。


 二人はずっと音楽を続けていくそうだけど、私はこれから何をしよう。


 私たちの新しい春は、もうそこまで来ている。





〈ユウキとサクラ 了〉

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ユウキとサクラ 靣音:Monet @double_nv

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