第112話 とあるブロガーのクレモン観察日記

 俺の名はコウタ。突然だが、俺もついに隠しエリアを見付けた。


 海エリアの中で突然立ち込める深い霧、その中心部に漂う幽霊船だ。


 しかし、俺が第一発見者だと言い張るのは少し悩ましい部分もある。なぜなら……。


「キュオォォォ!!」

「キュー!!」


 真っ先にその幽霊船に攻撃を仕掛けたのは、俺が追い掛けていたクレモン……ピーたんとキュー太の二体だったからだ。


 モンスターが未発見のエリアに勝手に探索に出掛けて戦闘をおっ始めるなんておかしな話だが、この程度のことではもはや誰も驚かなくなっているし、戦闘風景までじっくりと撮影させて貰わないとな。


 ……こう考えると、みんな大分毒されて来たな。俺もだが。


「ウオォォ……」


 幽霊船にいたのは、海賊スケルトンという名のアンデッド達。

 海賊らしいバンダナやカットラスを装備しており、動きは鈍いが頑丈で何より数がいる。


 本来であれば、船に乗り込んで来た敵を数で囲んで動けなくし、持ち前の頑丈さで耐えながら袋叩きにしていく……そんな感じのコンセプトで設定された敵なんだろうが……残念ながら、クレモンには通じなかった。


「キュオォ!」

「キュキュー!」


 ピーたんはそもそも空を飛んでいるため、船の上をノロノロと歩く海賊スケルトンでは包囲など出来るはずがない。


 逆に、水棲モンスターのキュー太は船の上であっさりやられるかと思いきや、船の縁に上がっては一撃だけ攻撃して海に潜り、反対の縁から再度攻撃を仕掛けるヒットアンドアウェイ戦法によって、完全に敵を翻弄していた。


 それも、ただ闇雲に繰り返しているわけじゃない。

 縁に上がる瞬間はどうしても無防備になることを分かっているからか、攻撃の際にギリギリまで敵を引き付けつつ安全に上がれそうなポイントを把握し、潜水と同時に一直線にそちらへ移動を開始する徹底ぶり。


 まるで、熟練のFPSプレイヤーだな。

 これがAIのランダム挙動だというんだから、最近のAI技術の進歩は凄まじいなぁ(棒)。


「むしろ、こうして撮影してる俺が死にそうだ。どうしようか」


 カメラを回しながら、マストの上にまでよじ登った俺の眼下には、不気味な呻き声を上げながら迫り来る亡者の群れが。


 クレモン達は上手いこと自分へのヘイトを消しているが、俺はそこまで器用に立ち回れないんだよ。困ったぞこれ。


「キュオォ!」


 若干途方に暮れていたら、俺を狙っている海賊スケルトンに向けてピーたんが空から援護の攻撃を放ってくれた。


 体よく囮に使われているような気もするが、こちらもクレモンをダシに読者を稼いでいるブロガーなので持ちつ持たれつだろう。


 この調子で、出来れば早めに処理して貰いたいところだ。じゃないと俺が死ぬ。


「キューキュー」


「あだだだもっと上に上がれって言いたいのか分かったから水鉄砲を飛ばさないで!!」


 他力本願全開で撮影していたら、キュー太にケツをひっぱたかれた。物理的に。


 仕方ないので少しは真面目に逃げに徹していると、すぐにキュー太はスケルトンの処理に戻っていく。


 サボっているとまた叩かれるので、しばらく撮影はオートにするか。うむむ。


「ウオォォォォ」


 そうして逃げ回ることしばし。さして時間もかからずスケルトン達を処理した二体の前に現れたのは、通常よりも一回り大柄なスケルトンだった。


 キャプテンハットを被り、片方の手がフックになっているのはよくある船長なんだが、手にした武器がなんと長大な矛だ。


 もしやあれは、《海神の矛》では? 海神というくらいだからポセイドンと戦うのではと巷では予想されていたが、まさか幽霊船の海賊が持っているとは思わなかった。


「キュオォ!!」

「キュー!」


 そんなレアアイテムを抱えたボスモンスター……キャプテン・スケルトンを相手に、果敢に挑みかかる二体のクレモン。


 エースのドラコやドラミもおらず、数もたったの二体。流石にボスを相手に厳しいのではないかと思ったんだが……クレモン相手には不要な心配だったらしい。


 キャプテン・スケルトンの主な攻撃手段は、矛を使った物理攻撃と、そこから発生する雷属性の魔法攻撃。

 圧倒的な攻撃範囲は船のほとんどを埋めつくし、逃げ場らしい逃げ場を根こそぎ奪い取るほどの広さを誇っているんだが、例によって海の中まではカバーしていないらしい。


 反対に、空の上にはしっかりと遠距離攻撃を飛ばすことが出来ているんだが、先ほどまでとは一転してピーたんが回避に徹することでヘイトを稼ぎ、キュー太の攻撃を刺さりやすくしている。


 その上、度重なる攻撃でキュー太にヘイトが向けば、今度は積極果敢に空から攻撃を仕掛け、すぐさまヘイトを集め直す完璧な立ち回り。

 キュー太が顔を出すタイミングも絶妙で、一度に入るダメージ量は微々たるものなのに非常に安定した戦いが展開されていた。


 ……いつも思うが、クレモン達はクレハちゃんがいない時の方が強くなっているような……い、いや、きっと気のせいだろう。うん。


「キュオォォォ!!」

「キュー!!」


 そうして、長い時間をかけてチクチクとダメージを蓄積していった果てに、ついにボスの討伐に成功した二体。


 念願の矛も手に入れたらしく、ホクホク顔で船を後にした。


「最初から最後まで、連携もそうだが相手との相性まで完璧だったな……まさか、分かっててこの二体で来たのか……?」


 地上を走るポチやモッフルでは、スケルトンの群れを対処出来なかった。

 それに、体の大きなドラコやドラミでは、ボスの雷を回避しきれなかっただろう。


 こうなることを最初から予想して……あるいは、事前にそういう相手であることを偵察してからメンバーを選んで戦闘を……?


「普通ならそんなわけないと笑い飛ばすところなんだが、クレモンだしな」


 次は、その可能性を考慮してクレモンを観察してみるか。そうしたら、もっと面白い絵が撮れるかもしれない。


 囮役を続けた果て、海賊スケルトンによってマストの上から吊るされたまま放置されている俺は、そんなことをメモに記しながら。


 さてどうやって帰ろうかと頭を悩ませるのだった。

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