第113話 探索成果と婚約者

 クラーケンの巣から無事生還した私は、今日のところはお開きということでティアラちゃんやスイレンと別れ、ホームの中にいた。


 ログアウト前に、今日の戦果を確認するためだ。


「さーて、みんなは何を集めてきてくれたのかなー」


 私がフィールドワークをしている間、連れて行けなかったモンスター達はいつも勝手に探索に出て、あっちこっちでアイテムを集めて来るから、それを生配信で確認するのが結構な人気コーナーになってる。


 特に、『今回は貢ぎプレイが出来ないからクレハちゃんの勝敗はクレモンの働きにかかってる!』なーんて言ってるプレイヤーにとってはめちゃくちゃ気になるみたいで、さっきから色んな予想がコメントに流れていた。


『宝箱いくつ拾って来たかな』

『そりゃ百越えは固いだろ』

『でも今日は探索のエース達が軒並みクレハちゃんと一緒だったからキツくね』

『それを軽く越えていくのがクレモンクオリティだろ』

『確かに』

『いやここは量より質で七海宝物持ってくるかも』

『まさかの未発見エリアを未発見のまま踏破か』

『ボス情報なんも分からんままアイテムだけかっさらうのか』

『過度なネタバレを避けることで運営にも配慮するプレイヤーの鑑』

『なんだ女神か』

『そうだよ』


「ねえみんな、この前は情報集めてくれる配信者の鑑とか言ってなかった? 真逆でも鑑っておかしくない?」


『何してもクレハちゃんだからな』

『可愛いは正義』

『クレハチャンカワイイヤッター!』


 もはや私を持て囃して崇めることそのものを楽しんでいる節がある視聴者のみんなに苦笑しながら、早速モンスター達の探索結果を開き──


・海王の牙×1

・海神の矛×1

・海鬼の角×1

・海鳳の羽×1

・宝箱×315


「…………んんん??」


『噴いた』

『本当に持ってきてんじゃねえかw』

『しかも綺麗にまだ持ってないやつだけ集めてコンプリートである』

『宝箱も百越えという俺らの予想をトリプルスコアでぶっちぎって来たな』

『流石クレモン』


 視聴者のみんなが好き勝手口にしていた予想すら上回る戦果に、もはや私は何も言えない。


 いっつもみんなに『こいつら本当にAI? 実は中に人間入ってんじゃね?』なんて冗談(?)で言われてるけど、私もなんだか疑わしくなってきたよ。


「これで宝物は七つ全部コンプリート……でいいよね?」


『お姫様のクエスト最速クリアおめでとう』

『ゼイン今いくつだっけ?』

『確か三つかな』

『これは勝ち確』

『クエスト達成したからってイベントまで勝てるとは限らんけどなw』

『姫様喜ぶな』

『むしろ驚くんじゃね』


 またもワイワイと盛り上がるコメント欄。

 まあ、この結果は私にとっても予想外だったし、こうなるよね。


 ぶっちゃけると、開封が終わったらそのままログアウトするつもりだったんだけど……んー。


「よし、それじゃあ今日はもうちょっとだけ、お姫様のクエストだけ達成しに行ってみよっか」


『おっ、いいねー』

『どんな報酬が待ってるか楽しみ』


 みんなの声をバックに、私はホームを後にする。


 向かった先は、例の壁。モッフルの力を借りて飛び越えれば、そこには既にスピナ姫が待ち構えていた。


 ……もしかして、ずっとここにいたの? お姫様、暇なのかな?


「む? なんじゃ、こんなに早く現れおって。もうギブアップか?」


「ううん、アイテム集まったから、納品しに来たの」


「まあ、そうじゃろうな、あれは七つの海を支配する超強力なモンスター達に守られておる、そう簡単には……って、え゛っ」


 あまりにも予想外だったのか、お姫様らしからぬ大口を開けて驚愕を露わにするスピナ姫。


 しかも、驚き過ぎたのかそのまま固まっちゃったよ。そんなにしてると顎外れちゃうよ?


「んー……よいしょっと」


「ぷあっ!? 何をするのじゃお主!」


「え? 全然口閉じないから、閉じれなくなっちゃったのかなって。手伝ってあげようと」


 顎に手を添えて口を閉じさせてあげたら、怒られちゃった。

 なんか顔赤いけど、勢いが強すぎて舌でも噛んじゃったのかな?


「違うわ! お主がわけのわからぬことを抜かすから驚いておっただけじゃ! ほ、本当に全部集めたのじゃろうな?」


「うん、集めたよ。ほら」


 インベントリに入っていた宝物を、全部その場に出現させる。

 それを見て、スピナ姫は目をまん丸に見開いた。


 ……口の次は目が閉じれなくなる、なんてことはないと思うけど、そのまま飛び出しちゃわない? 本当によく驚くなぁ。


「まさか、わらわのためにここまでしてくれるとは思わなんだ……」


「いやうん、お姫様のためっていうか、そういう約束だったしね?」


 私の無礼を許す条件って話だったと思うんだけど、忘れちゃったのかな?


「これまで、欲しい物は全て父上が何でもわらわのために用意してくれた……じゃが、ここまで身を挺してわらわに尽くしてくれた者は始めてじゃ……」


「いや、身を挺してくれたのは私じゃなくてうちのモンスター達だけどね?」


 私が頑張ったのって、宝玉と涙と卵の三つだけで、後はうちの子が勝手に拾って来たやつだし。


「我が儘放題の駄目な姫じゃとずっと言われておったのに……どうしてここまでしてくれたんじゃ?」


「え? ……えーっと……可愛いから?」


 全くこっちの話を聞いてくれないまま尋ねられ、取り敢えずパッと思い付いた理由を述べる。


 すると、スピナ姫は益々顔を赤らめ、ボン、と頭上から湯気すら上がった。


 凄いエフェクト出てるけど、大丈夫?


「……本当に、そう思うかの?」


「え、うん。そりゃあ思うけど」


「……分かった。それでは、報酬をやろう」


 ここで報酬の話? と疑問に思う私を余所に、スピナ姫が歩み寄って来る。


 顔に手を添え、上を向かされた私は……そのまま、キスされた。


 …………ほえ??


「これよりお主は、わらわの婚約者じゃ。末長くよろしく頼むぞ」


「えっ。……えぇーーー!?」



『特別クエスト《ワガママ王女の無茶振り案件》を達成しました』

『称号、《王女の婚約者》を入手しました』



称号:王女の婚約者

効果:イベント期間中、納品した宝によって得られる報酬が大きく増加する。



 まさかの事態に、コメント欄はかつてないほどの盛り上がりを見せ。


 私は突然の事態についていけず、ただただ混乱するのだった。

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