第111話 ドロップ運と配信者の鑑

 クラーケンを無事討伐し、さーて目的の《海魔の卵》を入手しよう……と思ったんだけど。


「んはぁ……! やっぱりクレハは最高だわ……!!」


 なぜか私、宝箱を目の前にスイレンから足止めを食らってます。


 いや、なんで?


「お姉様!! クレハちゃんが困ってますよ、それくらいで離れてください……!」


 私に抱き着いて離れないスイレンにしがみつき、引き剥がそうとするティアラちゃん。


 ちょっと乱暴なやり方なのに、スイレンがどことなく嬉しそうにしているのは気のせいかな?


 あと、苦しいから抱き締める手はもうちょっと緩めてね?


「いいじゃん、ティアラだってバーサークにかこつけてクレハを堪能したんだし! 私にもクラーケン撃破の報酬頂戴!」


「スイレン、報酬は私じゃなくてそこの宝箱だよ。間違ってるよ」


「か、かこつけてなんてないです……! 私は状態異常でクレハちゃんを襲っちゃっただけで、他意はないです……!」


『いやティアラちゃんそれは無理あるってw』

『バーサークにプレイヤーの動きを縛る効果ないからw』

『素直にクレハちゃん好きだって言えばいいのに』


「ち、ちが……! いや、その、クレハちゃんのことは好きだけど、でもそうじゃなくて……!」


 配信コメントを見て、ティアラちゃんがものすごく焦ってるけど……えっ、バーサークに同士討ちの効果ないの? フレンドリーファイアだけ?


 あと、私がスイレンに入れたツッコミはスルーなのかな? 全く離される気配がないんだけど。


 いや、別にベタベタされるの好きだからいいんだけどさ。


「まあいっか。えーっと、これで《海竜の宝玉》と《海姫の涙》と《海魔の卵》が揃うから……あとはなんだっけ?」


「《海王の牙》、《海神の矛》、《海鬼の角》、《海鳳の羽》の四つだね」


「まだ半分も終わってないのかー、多いなー」


 涙はそうでもないけど、卵の入手もといクラーケンの撃破は大変だったからねー。


 しかも、牙以外はまず入手出来る場所を探すところから始めないといけないから……うーん、間に合うかな?


『クレハちゃんなら余裕でしょ』

『てか何なら今頃クレモン達が集めて回ってるのでは』

『今頃さっきのサメがボッコボコにやられてたりしてな』


「あはははは、そんなことないでしょさすがに」


 確かにうちの子は優秀だけど、今度はアイテム四つだよ? それも、ボスクラスの難易度の奴が連続するんじゃないかって言われてるレベル。


 それをそんなポンポンプレイヤーと関係ないところで持って来てたらゲームにならないでしょ。あははー。


「みんながクレハくらい運良かったらどんなゲームも成立しないけどね」


「まるで私がこのゲームを崩壊させてるみたいな言い方はやめてくれない?」


『俺はクレハちゃんだけ別ゲーしてると思いながら見てるが』

『絶対に同じことは出来ませんって配信動画のページに注意書きしといた方がいいレベル』

『運営絶対頭抱えてるぞ』


「みんなまで!?」


 いや、確かにレベル1のまま思ったよりやれちゃってるし、元々あったゲーム性とはだいぶ違うことやっちゃってるかなーとは思うけどさ。


 うぐぐ、なんだか定期的に似たようなやり取りしてる気がするけど、認めたらなんか負けな気がする。


「よーし、早く宝箱開けて帰ろっかー」


『誤魔化し下手か』

『さすが幼女、可愛い』

『可愛い』

『クレハチャンカワイイヤッター』


「うっさーい!」


 ワイワイと騒ぎながら、私達はクラーケン討伐によって出現した宝箱を開け、それぞれにアイテムを確認する。


 えーっと、《海魔の粘液》、《海魔の足》、それから……。


「あ、ほら見て、海魔の卵ないよ!! ほら、私だってダメな時はダメなんだよ!!」


『嘘だろ』

『クレハちゃんが狙いのアイテム一発で引けないとかバグなのでは?』


 まさかの出ないことがバグ扱いには物申したいところではあるけど、確認したらスイレンとティアナちゃんは引けてるからバグじゃないね。


 ふふん、どうよ、私だってちゃんとみんなと同じゲームやってるんだよ!


『失敗したことでここまでどや顔出来るのクレハちゃんくらいだろw』

『守りたいこの笑顔』

『いじめたいこの笑顔』

『通報した』

『てかなんで引けなかったのに喜んでんだw』

『譲渡不可だからまた来なきゃいけなくなるのにな』

『それがクレハちゃんだから』

『なんか納得したわ』


「なんか思ってたのと反応違う」


 もうちょっと私を普通の女の子扱いしてくれてもいいんだよ?


 とはいえ、確かにもう一度来るのは面倒だよね。どうしよっかなー。


「チュー」


「あれ、どうしたのチュー助」


 そんな風に思ってたら、チュー助が私の足元にすり寄ってきた。


 そして、いつものようにポンと置かれる相手モンスターからスキルで奪ったアイテムが一つ。


 一抱えもある大きな卵……って、え?


「それ、《海魔の卵》じゃん!? 《もの盗り》スキルで回収してたの? え、いつの間に!?」


『噴いた』

『なるほど、確定ドロップじゃないこととスキルで回収も出来るという二つの情報を一度に提供してくれたのか』

『さすがクレハちゃん、配信者の鑑』

『さす女神』


 いやうん、実際嬉しいし、助かるんだけど、なんだか余計私の評価が変なことになった気がする。


 隣でひたすらキラキラした目を向けてくるティアラちゃんを見ながら、私は少しばかり遠い目をするんだけど……


 この後、ホームに戻ったら探索に行ってた子達が本当に他のお宝を集めて来ていたという事実を知っていたら、これくらいまだ普通だったと思えたかもしれない。

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