第110話 クラーケンと暴走幼女
クラーケンの猛攻を前に、ちょっとばかり膠着状態に陥った私達。
無数のイカ足を相手に、ティアラちゃんの状態異常とスイレンの魔法で対抗しているんだけど、まだ手が足りない感じがするね。
というか、私が役立たずなのが悪くない?
いや、たぬ吉はデコイで攻撃を逸らしてくれてるし、チュー助はティアラちゃんが陥った状態異常のリカバリーに奔走してくれてるし、タマもクモの巣で防御とかしてくれてるんだけど、私がやれること何もないの。
うーん、どうしよう?
「私の手持ちで意味がありそうなのって言ったら、これくらいかな?」
悩んだ末に取り出したのは、前回のイベントでも勝利の決め手になった(らしい)呪いの大剣。斬ると《バーサーク》の状態異常を付与してくれる。
これをモンスターに使えば同士討ちに持ち込める可能性があるみたいだし、上手くすればイカ足同士で潰し合わせられるかも。
えっ、いくらなんでもイカ足全部クラーケンの一部なのに潰し合いなんて起きるわけないって?
まあ、やってみればわかるでしょ! 一番の問題は、ダメージをちゃんと通せるかどうかってところだけど!
「よーし、やってやるぞー! おりゃー!」
「ちょ、クレハ!? 危ないって、ストップストップ!!」
剣を片手に走り出したら、スイレンからの制止の声。
もしかして、やらかした? と思ったけど、時既に遅し。
私の頭上に、ぶっといイカ足が迫っていた。
あ、やば。
「ぎーぎー!」
と思ったら、私の周辺にいきなり無数のクモの巣が出現し、イカ足を瞬時に絡めとる。
これって、タマの《創巣》スキルに《遅延発動》を合わせたトラップだよね? いつの間に仕掛けたの?
というか……めっちゃくちゃ数が多いんだけど、私の周りにだけ仕掛け過ぎじゃない?
「ぎー……」
「わわわっ」
イカ足の動きが鈍った隙に、私の体がクモ糸で引っ張られる。
そのお陰で、なんとかイカ足の攻撃範囲から逃れられたんだけど……勢いはそれで止まらなかった。
「えっ、ちょ、タマ?」
ぐいーん、と大きく円を描くように、私の体が振り回される。
嫌な予感……と呟く私の予想を一切裏切ることなく、タマはそのまま私をイカ足目掛けてぶん投げた。
「ぎーー!!」
「うひゃああああ!?」
凄まじい勢いで吹っ飛んだ私の体が、クモの巣に絡め取られたイカ足に激突する。
今度こそ死んだかと思ったけど、例によって《不死の加護》が発動したお陰で死に戻りは避けられたみたい。
うぅ、タマ、私に何か恨みでもあるの!? めっちゃくちゃ怖かったんだけど!?
「あ……クレハちゃん、足が一本、バーサークになってるよ……!」
「おおー、一発で通るのはさすがクレハだね」
抗議したいところだったけど、タマの加速もあって抱えていた剣によるダメージが通ったお陰か、イカ足が一つ《バーサーク》の状態になっていた。
そして狙い通り、他の足を狙い始める暴走イカ足。自分でやっといてなんだけど、どうなってるんだろうねこれ。
『足一本だけ暴走して他の足襲うってどうなってんのこのイカ』
『足一本一本に頭があるんじゃね』
『どんなイカだよw』
なんか棚ぼたというか、タマに武器としてぶん回されただけな気はするけど、みんな喜んでくれてる(?)みたいだからよしとしよう。
ただ、イカ足は全部で十本もあるし、その中の一本を暴れさせただけじゃまだ不十分だ。
同じやり方はもう無理だし、他にバーサークを付与する方法なんて……。
「ク、クレハちゃん! 今度は私をバーサークにして!」
「あ、そうか。ティアラちゃんをバーサークにすれば、仮面の効果でイカ足全部に付与出来るね」
悩んでいたら、ティアラちゃんが早速解決策を見付けてくれた。
すぐに実行しよう、と思いながら剣を構えるんだけど……うーん、ティアラちゃんみたいに可愛い女の子を斬り付けるのって、ちょっと抵抗あるなぁ。
「大丈夫、私、クレハちゃんになら全身切り刻まれても気にしないから……!!」
「いや、それはさすがに気にしようよ!?」
私の内心を察して気を遣ってくれたのはわかるけど、もうちょっと自分の身を大事にしようね?
とはいえ、お陰で吹っ切れたのも事実だ。
「それじゃあ、行くよ? 出来るだけ優しくするからね」
「う、うんっ……!」
ぎゅっと目を閉じたティアラちゃんに向け、コツンと剣をぶつける。
途端、ティアラちゃんにも《バーサーク》が付与され、それはすぐにフィールド全てのイカ足に伝播していく。
一斉に自分で自分を傷つけ始めたイカ足に、コメント欄は大盛り上がりだ。
『うおぉ、つえぇw』
『クレハちゃんとティアラちゃんのタッグ、もはや多数の敵を相手取る上では無敵では?』
『本当なら敵も強くなるし普通にこっちも攻撃してくるし、ここまで上手く行かないだろうけどな』
『そこはまあ女神クオリティよ』
『だけどティアラちゃん運悪いしどうなるか分からんぞ』
確かに、敵が同士討ちしてくれるのはいいけど、ティアラちゃんもバーサークになってるから、何か不都合が起きるかもしれない。
そう思って、ティアラちゃんの様子を確認すると……ガバッ、と。
なぜか、私が押し倒された。
「あれ、ティアラちゃん?」
「今私はバーサーク状態だから同士討ちしちゃってもそれは状態異常のせいだよだからこれは仕方ないことなのクレハちゃんごめんねちょっとだけだから……!!」
「ティアラちゃん? ティアラちゃーん!?」
なんだか据わった目で私を見詰め、そのまま潰れそうなくらい力強く抱き締めて来るティアラちゃん。
ちょ、バーサークのせいで筋力アップしてるからいつもより強い!? 本当にダメージ受けそうなんだけど!!
「ああ!! ティアラ、どさくさに紛れて何してるの!? バーサークはフレンドリーファイアが有効になるだけで、別に同士討ちを強制する効果なんてないでしょ!?」
「それはお姉様の勘違いです。私は今異常なんです。クレハちゃんを襲っちゃうのも仕方ないんです」
顔を真っ赤にしながら、ティアラちゃんが私に体を擦り付ける。
よくわかんないけど、ティアラちゃんも暴走してるってことでいいのかな? それなら……。
「よいしょ」
「ほえ」
体を起こして、今度は私がティアラちゃんを押さえ付ける側に回った。
「スイレンー! ティアラちゃんは私が止めておくから、その間にクラーケン倒しちゃってー!」
「うぐぐ……! ティアラめ、クレハの性格を掴んで段々ずる賢くなってきたね……こうなったら私も……!」
なんだかブツブツ呟きながら、スイレンは無防備なクラーケンへと魔法を叩き込んでいく。
……なんか威力が高いと思ったら、スイレンもバーサークになってない? なんでティアラちゃんだけ暴れだしたの?
「もー、速攻で倒してやる!!」
いつにも増して過激な攻撃を見せるスイレンを見て疑問を覚えながらも、私は最後までティアラちゃんを押さえ付けて。
私達は無事、クラーケンの討伐に成功するのだった。
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