第100話 宝石献上と王女様
私の料理を食べて元気になったティアラちゃんは、その後もがんばって水棲モンスターをテイムしようとしてたんだけど……そっちは結局上手くいかなかった。
代わりに、宝箱の方は結構たくさんお宝が出るようになったから、今はその成果を持って《始まりの町》にあるお城へと向かっているところだ。
「お城って言っても……宝物は門の前にいる門番さんに渡すだけだから、王様にもお姫様にも会えないみたい……だね」
「そっかー、会ってみたかったけど、残念」
ティアラちゃんがネットで情報を集めながら、私に色々と教えてくれる。
うーん、イベントの中心人物としてしっかりビジュアルまで出てたんだから、会わせてくれてもいいと思うんだけどなぁ。
『嘘ついちゃダメだろティアラちゃんw』
『条件付きだけど会う方法はあるよ』
「…………」
「え、そうなの?」
視聴者からの思わぬ指摘に、ティアラちゃんがそっと目を逸らす。
まあ、誰でも間違えることはあるよね……と思ったけど、どうやらそうではないらしく、ティアラちゃんは思わぬ理由を語りだす。
「だって、その……クレハちゃんがお姫様と会ったら……私のこと、忘れちゃうんじゃないかって……お姫様、可愛いし……」
ごにょごにょと顔を俯かせるティアラちゃんに、私は雷で打たれたかのような衝撃を受けた。
何この子可愛い。
「大丈夫だよ、ティアラちゃん!」
「ひゃわっ、ク、クレハちゃん?」
そんなティアラちゃんを、私は思い切り抱き締めた。
困惑するティアラちゃんにめいっぱいの笑顔を見せながら、安心させるように言葉を重ねる。
「私がティアラちゃんを忘れることなんてないって。こんなに可愛いんだもん、何ならこのまま家に持って帰りたいくらいだよ」
「ほえぇ!?」
「だから心配しないで、新しい友達作るつもりで会いに行こうか」
顔を真っ赤にして硬直してしまったティアラちゃんの手を引いて、改めて門の方へ向かう。
途中、ティアラちゃんが「お嫁に貰うんじゃなくて、お嫁に行くのも良いよね、うん……」とかよくわからないことを言ってたけど、最近は私も慣れたもので、わからないことはわからないままスルーする。
私、バカだからね! 考えてもわからないことはわからないんだよ!
……うん、自分で言ってて悲しくなってきた。ぐすん。
「それで、お姫様に会う方法ってなに?」
『天然たらしがティアラちゃんを落としつつ他の子も狙ってる件』
『NPC相手でそれはないでしょ、多分……』
『会う方法ならあれ、アクアドラゴン倒した時に手に入った青い宝石あるでしょ。あれ献上したら謁見出来るらしいよ』
『正確には王様に、だけどな。その隣にお姫様がいて、特に何も喋らないけど宝石受け取って大喜びしてるとこだけ見れる』
「へ~、なるほど」
前半のコメントは置いといて、後半ではちゃんと知りたい情報を知ることが出来た。
あれ、イベント前に手に入れたアイテムだけど、まさかこんなところに関わるなんてね。
まだあったっけ……ええと……。
「あったあった。これを出せばいいのね」
宝石をインベントリから取り出し、指差し確認よし!
後はこれを門番さんに見せるだけ……と思いきや。
「あっ!!」
指差し確認したところで、うっかり手を滑らせて宝石を落としてしまった。
それはコロコロと地面を転がり、お城を守る壁に出来た小さな穴から中へするっと……って、ちょー!?
「なんでそんなところに穴があるのー!?」
『草』
『前から存在は知られてたけど特に意味はないやつ』
『何かしらのフラグになってるんだろうとは言われつつ、まだ誰もそれを見付けてない』
『これはまさか、クレハちゃんがまた一番乗り……?』
「そうなの!? これでイベント起きるかな!? ていうか起きて!!」
どうも視聴者のみんなの話を聞く限り、この小さな穴の中にアイテムを入れたらもう取り出せないらしい。
せっかくドラミから貰った(?)アイテムなのに、お姫様に会うことにも使えず無駄にするなんてイヤー!! 何か起きてー!!
「…………」
『何も起きないな』
『流石のクレハちゃんも今回は単なるドジで終わりか?』
『残念』
「ノォーー!!」
頭を抱えて思わず蹲る私に、コメント欄には『ドンマイ』の文字が多数。
うぅ、まさかこんなことになるなんて……ちゃんと渡す時までインベントリに仕舞っておけば良かったなぁ……。
「待って、クレハちゃん。壁の向こう、何か聞こえる……」
「え?」
軽く落ち込んでいると、ティアラちゃんが壁に耳を当てながら私を手招きした。
それに釣られて一緒に耳を済ませると、確かに子供の話し声みたいなのが聞こえてくる。
「この先はプレイヤーが入れないはずだし……NPCは意味のない会話はしないはずだから、きっと何かイベントが進行してるんだと思う。見に行ってみよう、クレハちゃん……!」
「でも、どうやって?」
いつになく前向きなティアラちゃんの意見に、私は壁を見上げながら答える。
モッフルでもいれば良かったんだけど、今は探索に出てていないんだよね。
「大丈夫、それなら……来て、ルビィ」
「コォン」
待機状態でインベントリに収納していたのか、ティアラちゃんの呼び掛けに応えてルビィが現れた。
なるほど、この子に掴まってこの壁を越えようと……でもあれ? この子って確か戦闘タイプじゃなかったっけ?
「それじゃあルビィ、お願い!」
なんとなく嫌な予感がする私を余所に、ティアラちゃんが何やら指示を出す。
それを受けたルビィは、私の体をむんずと咥えて持ち上げ……って、え?
「コォン!!」
思い切り、ぶん投げた。
「えぇぇぇぇぇ!?」
「町中なら落下ダメージは発生しないから、これで壁を越えられるよ……!」
「いや、理屈は分かるけどぉぉぉぉ!?」
私に続いて投げられたティアラちゃんの声を背に聞きながら、私は涙目で絶叫する。
ティアラちゃん、一見すると引っ込み思案で怖がりに見えて、やる時はすごい度胸あるよね!? 私だったら絶対やらないよこんなこと!?
……え、割と似たようなことやってたって?
それとこれとは違うからー!
「うむ、これは素晴らしい宝石じゃ、わらわのコレクションに……って、ぬおー!?」
「ふぎゃー!?」
ずてーん! と勢いよく墜落したところに、誰か人がいたみたい。柔らかな感触に受け止められ、幾分か衝撃が和らげられる。
ふう、助かったー。
「なっ、なっ、なぁっ……!!」
「うん?」
そこでふと、耳元で聞こえる声に気付いて顔を上げれば、私は自分の状況をようやく正確に掴むことが出来た。
私を受け止めてくれた(?)のは、可愛らしい一人の女の子。
翡翠色の髪を短く纏め、身に纏うドレスもまた機能性を重視するかのように丈が短く、これはこれで可愛らしい。
どこかボーイッシュな魅力を持つその子は、ちょうどついさっきまで私が思い浮かべていたイベントのキービジュアルに描かれた女の子そっくりで……。
「もしかして……王女様?」
「わらわを押し倒して、何をしとるかこの不埒ものーー!!」
「ふぎゃーー!?」
そんな王女様を押し倒すような格好で、至近距離からその顔を覗き込んでいた私は、当然の如くぶっ飛ばされ。
大笑いするコメント欄や大慌てするティアラちゃんを横目に、しばらく目を回す羽目になるのだった。
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