第99話 久々料理とティアラの餌付け
「ごめんねクレハちゃん……私のせいで余計な手間をかけさせちゃって……」
「ティアラちゃんのせいじゃないって! たまにはこんな日もあるよ!」
海エリアのど真ん中、採取ポイントが一つあるだけの小さな島で小休憩を取っている私は、隣でずずーんと深く落ち込んでしまっているティアラちゃんを必死に励ます。
いや、確かにここに来るまでに拾った宝箱は全部ハズレの空箱だったし、何度やってもサメのテイムが上手く行かなかったりと、中々巡り合わせが悪い状態が続いているけど。
『しかしほんと、女神とは逆の意味でティアラちゃんは俺らと同じゲームしてるのか疑わしくなってくるよな』
『一度お祓い行った方がいいのでは』
「……毎月、行ってるの……」
『oh……』
『まるで効果がねえ』
『筋金入りすぎる』
コメント欄とのやり取りで、更に落ち込んでいくティアラちゃん。
あーもう、みんなハッキリ言い過ぎだよ! とにかく、この話題を早く逸らさないと!
「そうだティアラちゃん! 休憩ついでに、料理作ってみようと思うんだけど、食べてみてくれないかな!?」
「料理……クレハちゃんの……?」
がばっ、とすごい勢いで顔を上げたティアラちゃんの瞳が、真っ直ぐに私へと向く。
予想してた何倍も食い付きが良いけど、お腹空いてるのかな? リアルで食べないと満腹にならないけど、大丈夫かな?
「うん、そうだよ。ほら、最近料理スキルの検証が進んだとかで、アイテムの組み合わせ次第で狙ったバフが安定して付けれるようになったみたいだから、私も色々と試してみたいし。それに、私の料理って大体うちの子しか食べないから、プレイヤーが食べた時にちゃんと美味しく出来てるのかなーって」
ともあれ、今そこに突っ込んでも仕方ないし、私は料理をする理由を並べ立てる。
実際、リアルの料理とゲームの料理は、単に手順が違うってだけじゃなくて、味の方も思ったような変化が起きないなんてザラにあるしね。
たまにバグって、野菜を材料にしてるのに肉料理が出来上がったりするし。うちの子はそれでもガツガツ食べてくれるんだけどさ。
「どうかな? 食べてくれる?」
「食べたい、クレハちゃんの手料理食べたい……!!」
「う、うん、ありがとう」
落ち込んでいたのが嘘のように、瞳を爛々と輝かせながらおねだりしてくるティアラちゃん。うん、ちょっと怖いよ?
でもまあ、私の料理を楽しみにしてくれるのは嬉しいし、早速作ってみますか!
「まず材料はー、んー、散々倒したサメの肉でいいかなー」
サメはちゃんと調理しないと臭みが強いって聞くけど、ゲームなら大丈夫。
後は、伝え聞く素材を組み合わせて狙ったバフを付けつつ仕上げるだけ。
「えーっと、《ミラクルバナナ》と、《飛翔キャベツ》と、後は《マンドラゴラ》と……」
『材料の名前だけ聞いてるともはや何かの怪しい実験だな』
『魚とバナナとキャベツと謎のファンタジーキノコだからな』
『てか、クレハちゃんの料理風景見るの久々だな。イベント以来?』
「あー、最近はうちの子達の料理を作り終えてから配信してたもんねー」
イベントの時はサンドイッチの販売で活躍した屋台も、あれきり使ってないし。
「みんな、私の料理見たいの?」
『見たい』
『クレハちゃんは気付いたら変なことしてるからな。ちゃんと監視せねば』
『そうでなくとも世話焼き幼女の料理風景を食い入るように見つめる腹ペコ幼女の図は尊い』
最後のコメントを見て、ふと隣に目をやれば、そこには確かに私の一挙手一投足を目に焼き付けようとするかのように真剣な眼差しのティアラちゃんがいた。
そんなに必死にならなくても、たくさん作るから大丈夫だよ?
「じゃあ、今日からは朝の料理風景も配信しようかなー。取り敢えず、今は目の前の料理ね」
そんなことを口にしながら、改めて料理を進めていく。
テクニカル調理でもかなり簡略化されてるから、調味料で味を調整、みたいなのもあまりないし、ほとんど使った素材の組み合わせと……後は時の運が味を決めるらしい。
一度でも上振れて納得のいく味になれば、レシピ登録しておくだけでいつでも同じ味を再現出来るって話だけど……実のところ、私はこれまでイベントのサンドイッチ以外、一度もレシピ登録してないんだよね。
うちの子が探索で拾ってきた素材を使って、その場で思い付いた料理を作るのが私のこれまでのスタンスだったから当然なんだけど、これからは少しずつレシピ登録していこうかな?
なんてことを考えながら、作業を続けていくと……ついに料理が完成した。
ただ、見た目は完全にサンマの塩焼きになったけどね。
うん、なんで?
「料理名は……なんて言えばいいのこれ? 『サメとキノコのバナナ添え』とか言いたいけど」
『すっげー不味そう』
『見た目そのままサンマの塩焼きでよくね』
『本物のサンマ使って塩焼き作ろうってなった時困るだろそれ』
『適当に組み合わせてサメキノコのサンマ風塩バナナ焼きにすればいいんじゃね』
『天才現る』
『それだ』
「いや、十分ややこしいからねそれ」
混ぜ過ぎて原型もなにもあったもんじゃないよ。
「まあ、名前なんて後でいいや。それよりティアラちゃん、はい、あーん」
「ほえ!?」
出来たての料理を食べて貰おうと、箸を使ってティアラちゃんの方に差し出してみたら、なぜか顔を真っ赤にして驚きの表情を浮かべる。
あれ、何か間違った?
「……ああ、変な材料使ってたし、味見を先にするべきだよね。忘れてたよ」
私としたことが、ついうっかり。
というわけで、自分で作ったサメ料理をまずは自分でパクリ。
……うん、バナナとかマンドラゴラとか、変なもの使ってはいるけど、味はすごく良い感じ。
バナナ要素もキノコ要素も全くないのに、塩味はしっかり効いてるのがだいぶ謎ではあるんだけど。塩なんて使ってないよ?
「というわけで改めて。はいあーん」
深まる謎は置いといて、味に問題がないことがわかったので、もう一度ティアラちゃんに料理を差し出す。
けれど、なぜかティアラちゃんは益々顔を赤くしたまま動こうとしなかった。
「こ、これそのまま食べたらクレハちゃんと間接キス……!? ま、待って、私まだそんな、心の準備が……!」
「……食べたくない?」
「ううん!! 食べる!! はむっ!!」
「あ」
嫌なら無理には、と思って聞いたら、すごい勢いでかぶりついてきた。
もはや耳まで赤くなりながら必死にもぐもぐしてるティアラちゃんに、どういう言葉をかけたらいいかわからないけど……取り敢えず。
「えっと、味はどうかな?」
「お、おいしいれす!! すごく!!」
「そ、そう?」
これまたものすごい勢いで叫ぶティアラちゃんに押されながら、私はそれならともう一度サメ料理を差し出す。
それに逆らうでもなく、カチコチに固まったまま啄むように食べるティアラちゃんの姿は雛鳥みたいで、なんだか可愛い。
「もっと食べる?」
「た、たべましゅ!!」
噛みながらおねだりしてくれるティアラちゃんに微笑ましさを覚えながら、私はひたすら餌付けするようにサメ料理を食べさせていく。
途中、そんなティアラちゃんを羨ましく思ったのか、キュー太やピーたん、それにドラミまで割り込んで来て……お宝探しの休憩時間は、賑やかに過ぎ去って行った。
『こうしてると、本当にクレハちゃんのテイムモンスターみたいだよなティアラちゃん』
『クレハちゃんの前では基本的に大人しいヤンデレ』
『尊い』
『なお他の場所では』
『そこは気にしたら負け』
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