第98話 とあるブロガーのクレモン観察日誌
俺の名はコウタ。そろそろ専業ブロガーを目指そうか本気で悩んでる新米ゲーマーだ。
まあ、俺の人気はほぼ女神のおこぼれだから、あまり調子に乗ると痛い目を見そうなのが問題だがな。
「さて、今日のクレモンはどうしてるかな……」
悩むのもいいが、まずは俺のブログを待ち望んでいる人達のため、女神の情報を集めることにする。
何せ、今日は夏イベントの開始日だ。
クレモンは時々、他のプレイヤーにとって攻略の助けになるようなとんでも行動を取るからな。ちゃんと記録しなければ。
「……よし、いたな」
新たにテイムしたクラゲの相棒(一応水棲騎乗モンスターだ)の上に乗り、海エリアを漂うように航行していた俺は、ついに目的のクレモンを視界に収める。
アークキマイラのポチと、アラクネのタマ。名前だけなら犬猫コンビに見えなくもない二体だ。
「実際には、美女と野獣ならぬ幼女と野獣なんだがな」
我ながらしょうもないことを呟きながら、二体の様子を観察する。
どちらも水棲モンスターではないはずなんだが……ポチは器用な犬掻きで水上を泳ぎ、タマは蜘蛛糸で出来たイカダらしき物に乗りながら、前を進むポチに糸を括り付けることで引っ張って貰っているらしい。
……賢いというレベルではないんだが。相変わらず、クレモンはぶっ飛んでいる。
だが、イカダというのは良いな。
いくらシステムアシストが入る騎乗モンスターといえど、その上で武器を振るうには限度があるが、これなら誰もが十分に実力を発揮出来るはずだ。
うん、やっぱりクレモンの動きは参考になるな。なんで検証勢が情報を纏めるよりも早くモンスターがそれを実行出来ているのかは謎だが。
「しかし、海エリアで陸上タイプのモンスターが探索を行っても、大してアイテムを持ってこれないという話だが……クレモンはどうするつもりなんだ?」
海エリアの採取ポイントは、ポツポツと点在する小さな島や、イベント中のみ現れる海上を漂う宝箱を除けば、ほぼ海中に存在する。
当然だが、海中に潜って活動可能なのは水棲タイプのみだ。
ポチのように泳ぐだけなら、陸上タイプのモンスターも出来ないことはないんだが、戦闘行動が一切取れないために敵モンスターに襲われるとひとたまりもないなど、デメリットが大きい。
飛行タイプなら、空の上からモンスターを仕留めて素材を集めることも出来るんだが……果たしてこの二体が、どうやって海エリアを探索するつもりなのか。
期待半分、不安半分に観察を続けていた俺は、ふとあることに気が付いた。
タマがポチに括り付けている蜘蛛糸……海中にも伸びていないか?
「ぎー、ぎぎー!」
「クオォン!」
俺が違和感に気付くとほぼ同時に、ポチの挙動に変化が生まれた。
それまでただ海を漂っていたのが、近くの岩場に一直線に向かって上陸したのだ。
そして、タマの体も共に小さな陸地へと引き上げたポチは、海中へと続く蜘蛛糸を咥え込み……。
「クオォォォン!!」
思い切り、引き上げた。
ザパーン、と盛大な飛沫を上げながら飛び出して来たのは、大きな蜘蛛の巣と……そこに張り付いた、宝箱の山だった。
……底引き網漁か? モンスターが? 自力で?
うん、全く意味が分からない。
「クオォォ」
「ぎーぎー♪」
大量の宝箱にご満悦そうな声を出しながら、二体のモンスターはせっせと自らの戦果を集めていく。
陸上モンスターの収集効率としては異常というレベルじゃないな。前回のイベントもクレモンのレアドロップ率が大概だったが、今回は更にパワーアップしていないか?
ちなみに、底引き網漁の難点として、関係ない物……クズアイテムやモンスターがかかってしまうという無駄にリアルな様子も見られるんだが、持ちきれないアイテムは蜘蛛の巣イカダに山積みにし、敵モンスターに関しては陸上に引き上げられたことで身動きが取れなくなっているところをサクサクと狩り、二体の経験値になっていた。
高効率過ぎて笑うしかないな。
しかも、これは女神自身狙ってやっているわけじゃないから、誰も真似出来ないというのがポイントだ。
アイテム譲渡を封じられたことで女神のトップはなくなったかと思ったが、案外いけるんじゃないか?
「いやしかし、これをブログに載せたらどうにかこうにか同じようなことを実践出来ないか試す奴も出てくるよな……ゼインとか、女神のやらかしをほとんどチェックして自分のプレイに取り込んでいるし」
正直何をどうしたらこれを真似出来るのか見当もつかないが、トッププレイヤーの頭の回転は俺とは比べるべくもない。きっと上手い手を考えるだろう。
「前回のイベントは女神の単独トップで終わったが、今回はどうなるかな……と、ん?」
今後の展開に期待を膨らませていると、引き上げた巣から獲れるアイテムとモンスターを粗方獲り尽くしたポチとタマが、何やら小さなモンスターを前に戸惑っている。
一体何かと思えば……そこにいたのは、小さな毛玉のモンスター、ケマリンだった。それも、二体。
「なんでケマリンが海にいるんだ……?」
こんなところにケマリンは出没しないし、誰かプレイヤーのモンスターだろうか?
それにしても、こんなところに探索に出すメリットはほとんどない気がするんだが。選択ミスか?
よく分からないが、溺れていたらしいケマリン二体を保護したタマとポチは、そのまま町へ戻るつもりらしい。
「……なんだったんだ、あれは?」
最後の最後に、よく分からない邂逅を目にしてしまったが……まあ、特に面白い映像でもないし、ここはカットでいいか。底引き網漁の様子をメインに、今日のブログを更新しよう。
そんなことを考えながら、俺もまた相棒のクラゲに指示を出し、町へと引き返すのだった。
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