第97話 宝探しとサメ退治

 お宝探しの具体的な方法だけど、とにかく虱潰しに海エリアを見て回るしかないらしい。


 海の上をぷかぷか浮いてたり、海底に沈んでたり、あるいはモンスターの体に引っ付いてたり、はたまたボスモンスターが守ってたり……とにかく、色んな場所に色んな形で宝箱が落ちてるから、広大な海エリアを探索してそれを探しだそう、というわけ。


『ちなみに、今回のアイテムは譲渡不可らしい』

『どう考えても女神対策だよな』

『おのれ運営、俺らの貢ぎプレイを邪魔するとは!』


「いや、そもそも貢がなくていいから」


 視聴者のみんなは不満たらたらだけど、私としては一人だけあんなに山ほど貢がれたら色々と申し訳なくなってくるからやめて欲しい。


 まあ、みんなが楽しいならそれでいいのかもしれないけどさ。


「けど、そういうことなら、今回のメンツは中々良いチョイスだったかな?」


 私がこのイベントで連れていくことに決めたスターティングメンバーは、キュー太、ピーたん、ドラミの三体だ。


 移動する上でキュー太は必須だし、ドラコは海が苦手だから、代わりに新加入のドラミ。

 もう一体は結構悩んだんだけど、足場の乏しい海の上で力を発揮するなら、空を飛べるピーたんが一番かと思って連れてきたんだ。


 他のみんなはお留守番だよ。どうせ探索に出てると思うけどね。


「このメンバーでぐるーっと海エリアを巡りながら、お宝探しして……後はティアラちゃん、どんなモンスターが欲しい?」


「え、えっと、まずは普通にきじょ……じゃなくて、戦闘タイプがいいかな……!! うん、それがいいよ!」


「わかった、じゃあ良さそうな戦闘タイプいたら狙ってみようかー」


 騎乗タイプを最初にテイムして、自由に海エリアを移動出来るようにしたいかと思ってたけど、まずは戦闘タイプか。


 確かに、ティアラちゃんも仮面の効果で戦闘出来るようになったと言っても、トドメはモンスターがいないとダメだし、それもアリなのかな?


「……その方が、こうやってクレハちゃんとくっついていられるし」


「うん? 何か言った?」


「なんでもないよっ」


 私の背中にむぎゅっとしがみつきながら言うティアラちゃんに首を傾げつつ、私はキュー太に頼んで探索ペースを上げて貰う。


 思いっきり泳ぎ回ってもいいとわかった途端、一気にスピードを上げるキュー太についていけずにまた振り落とされるかと思ったけど、ティアラちゃんがしがみついてくれてるお陰で振り落とされずに済んでいる。


 なるほど、こんな形のシートベルトもアリなんだね。いや、ティアラちゃんをシートベルト扱いするなんて失礼か。


「キュオオ!」


「うん? ピーたん、どうしたの?」


 肩を切る……というより、速すぎて顔面に叩き付けられるような風の中でぼんやりと考え事をしていると、上空を飛んでいたピーたんが一声鳴き、急降下を始めた。


 どうしたのかと思えば、ピーたんが向かった先にはぷかぷかと浮かぶ宝箱が。


「おお、こんな風に落ちてるんだ! 見付けてくれてありがと、ピーたん」


「キュオオ」


 海面に浮かぶ宝箱の上に止まって自慢気に鳴くピーたんへ、ご褒美のクッキーを一つあげる。


 くるしゅうない、もっと寄越せと言わんばかりに平らげるピーたんをひと撫ですると、満足げに翼を広げて飛び立った。


「さて、宝箱には何が入ってるのかなー」


 流石に宝箱を開けるくらいは待ってくれるのか、お行儀良く隣につけて止まってくれたキュー太に感謝しつつ、宝箱に手を伸ばす。


 と、そこで、思わぬところから待ったが入った。


「ク、クレハちゃん、待って!」


「うん? どうしたのティアラちゃん」


「あれ、あれ見て! あれ!」


「あれ?」


 いまいち要領を得ない……でも切羽詰まった声に導かれるままティアラちゃんが指し示す先に目を向けると、そこには海面から突き出す大きな背びれがあった。しかも、それが音もなく徐々に近付いて来てる。


 うん、これって映画で大人気のあの魚だよね。そう、あれ。


「サメだーー!?」


「キシャアァァァ!!」


 私がその名前を叫ぶと同時に、海面から飛び出したのはまさにサメそのものと言わんばかりのモンスターだった。


 全体的にずんぐりとしたフォルムで、大きく開けられた口にはギザギザの歯が無数に並ぶ。


 全身を覆う鱗は鎧というよりもはやハリセンボンか何かみたいに刺々しくて、鮫肌ってこんなんだっけ? と思わず問いかけたくなる。


 で、そんなモンスター……二ドルシャークが、今まさに私達を食べようと迫って来てるわけで。


 うん、ヤバい。


「キュー!!」


「わぶっ!?」

「きゃ!?」


 私が命の危機を感じると同時に、キュー太は既に動き出していた。


 私達を連れたまま《潜水》スキルを発動し、海中に向かって急速潜航。二ドルシャークの攻撃をやり過ごす。


 でも、代わりに私達が開けようとしてた宝箱が、二ドルシャークに丸呑みされちゃった。ああ!?


「私のお宝ーー!!」


『わろた』

『こんなことあるのねw』

『倒したら吐き出すのかね?』

『それより、まだ来てるぞあのサメ』


「シャアァァァ!!」


「ほんとだ、めっちゃ追って来てるー!?」


 お宝を食べられたことにショックを受ける暇も、スキルの効果で海中でも普通に喋れることに感謝する暇もなく、私は全速力で逃げるキュー太から振り落とされないように思い切りしがみつく。


 ティアラちゃんも同じことを考えているのか、さっきよりも一層ぴったりと私に張り付いて動かない。


 ……急な襲撃に驚いて怖がってるのかな? よし、ここは私がなんとかしないとね!


「まあ、私は他力本願なんだけどね! ドラミお願い、《応援》!」


「コオォ!」


 水中だと視界が悪くてほとんど見えないんだけど、なんとなくそこにいるかなーって方に手を向けてスキルを使えば、ちゃんと成功を示すエフェクトの光が見えた。


 後は任せた、と思っていると、ドラミは水中で思い切りブレスを吐き出す。


「コオォォ!!」


 ドラミのブレスは水属性。水中で水のブレスなんて意味あるのかな? なんて一瞬頭を過るけど、問題はなかったみたい。


 水の代わりに巨大な渦潮が発生し、二ドルシャークを呑み込んで海面へと吹き飛ばす。


 私達ごと。


「ちょっとドラミー!? 私達まで巻き込んでるってー!!」


 そんな叫びも虚しく、私とティアラちゃん、そしてキュー太は思い切り空中まで投げ飛ばされてしまった。


 これ、着水どうすればいいの!?


「キュー!」


 ぐるぐると回る視界の中、ろくに考えも浮かばない私と違って、キュー太は冷静だった。

 下に向かって《水鉄砲》を放ち、落下の勢いを減衰。見事な軟着水でノーダメージのまま生還する。


 ふう、危なかった。あとは、サメがどうなったかだけど……。


「キュオオ!!」


 空を見ると、空中に投げ出された二ドルシャークは、ピーたんの起こした竜巻によってお手玉され、瀕死の状態にまで追い込まれていた。


 うん、いくらサメでも、空中じゃ何も出来ないよね。仕方ない。


「シャアァ……」


 ひゅるひゅると落ちてきた二ドルシャークが海面に叩き付けられ、《気絶》状態でぷかぷかと浮かぶ。


 うん、なんか可哀想なくらいボッコボコだったし、いまいち強さの程度もわかんないけど、戦闘タイプみたいだしちょうどいいかな?


「ティアラちゃん、テイムしてみる?」


「え? あ、うん……そうだったね。私、やってみる……!」


 私にへばりついていたティアラちゃんが、たった今目的を思い出したみたいな感じで、二ドルシャークに手を伸ばす。


「《テイム》……!」


 スキルの光が掌から放たれ、二ドルシャークを包み込む。

 瀕死の状態だし、状態異常にもなってるし、これはいける、と思ってたら。


「あ、あれ……?」


 普通にテイム失敗していた。


「うぅ、レベルは足りてるのに……《テイム》! も、もう一回、《テイム》!」


 何度も何度もトライするティアラちゃんだったけど、一向に成功しない。


 仕方ないので、状態異常をさらに重ねてみようと毒ポーションを使うと、《毒》の状態異常を引き当ててしまい……結局、テイムが成功する前に二ドルシャークの体力が尽きてしまった。


『あー……ダメだったか』

『今のサメ、別にユニークではないよな?』

『まあ結構強いけど通常個体だな。テイムもレベル足りてれば成功率は普通』

『あんだけ瀕死で状態異常まであってテイム出来ないとか、ティアラちゃんの不幸属性も大概筋金入りだよな……』


「ふ、ふえぇ……!」


「な、泣かないでティアラちゃん! ほら、テイムなんてもう一回挑戦すればいいんだからさ! それより、ほら、宝箱! 中身一緒に確認しよ! ね!」


 こうして、私はティアラちゃんを慰めて、サメを倒した戦利品(?)とばかりにもう一度現れた宝箱の中身を確認するんだけど……これがまた見事に空っぽだったことで、ティアラちゃんがまた泣いちゃう結果に終わることを、この時はまだ知らなかった。

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