第96話 イベント詳細と宝探し
ついに、夏のイベント──『海賊テイマーの宝探し』が始まった。
その昔、七つの海を制覇しその主たる七体の水棲モンスターを従えた伝説の海賊が、ある時忽然と姿を消し、集めたお宝だけが持ち主不在のまま海の各地に取り残されてしまう。
これまで、その噂を頼りに名だたる海の男達が宝探しに挑んだものの、かつて伝説の海賊を主と定めた七体のモンスターやその眷属達が行く手を阻み、誰一人としてお宝を手にすることは敵わなかった。
そんな状態で月日が過ぎた今、時のワガママ王女様が世界一の財宝を誕生日に欲しいと言い始め、親バカな王様が伝説のお宝の入手に法外な報酬を吹っ掛けたもんだからさあ大変。
世は再び、大海賊時代に突入しようとしていた──みたいな内容。
長いから三行で纏めると、ワガママ王女様の誕生日プレゼントを用意するために、テイマーのみんなはお宝探ししてね♪ だ。
うん、前回は割りと逼迫したお話だったけど、今回はスルーでもいいんじゃないかな? と思わなくもない。
イベントはその過程と報酬を楽しむもので、裏の事情はオマケみたいなものだし、別にいいんだけどね。
「ワガママ王女様かー、どんな子だろうね?」
「えっと、イベントのキービジュアルにイラストが載ってた……よ?」
「え、そうなの?」
ざぱーん、と波飛沫を音に聞きながら、海エリアの只中でイベント内容に思いを馳せていた私は、お揃いの水着で一緒にキュー太に乗っているティアラちゃんからそう指摘される。
試しにイベントページへとアクセスすると、そこには確かに翡翠の髪を持つ可愛らしいお姫様のイラストがついていた。年齢はティアラちゃんより上っぽいけど、スイレンよりは下かな? 中学生くらい?
「へー、すごく可愛いね。こんな子のワガママなら聞いてあげたいかも」
「えっ」
というか、スイレンなんかは絶対やる気出してるよね。
スイレン、こういう小さい子すごく好きだし。
「……クレハちゃん、こういう子、好きなの?」
「え? うん、人並みには?」
「そっか……うん、そっか……私、負けない」
「???」
なぜか対抗心を燃やし始めたティアラちゃんに、私ははてと首を傾げる。
ティアラちゃんも十分過ぎるくらいに可愛いと思うよ?
『クレハちゃんがまーたティアラちゃんを煽ってる』
『ヤンデレに燃料を与えてしまったか』
「みんなも何をわけわかんないこと言ってるのさ」
イベント開始ということで、いつものように始めていた配信のコメントには、これまたいつものようによくわからない言葉が並ぶ。
煽るも何も、一般論を言っただけだよ。ていうか、君らも可愛いと思うでしょ? この王女様。
「それにしても、ティアラちゃんは新しい水棲モンスターテイム出来なかったんだね。虹卵はどんな子だったの?」
「えっと、それは……普通のケマリンが二体だったから、探索頑張って貰ってるの……」
『虹卵から普通のケマリンが出ることなんてあるのかよw』
『そこまで不運だと逆にレアではw』
「あ、あはは……」
視聴者からのコメントに、ティアラちゃんは曖昧に笑う。
狙ってたような子じゃなかったとはいえ、自分のところに生まれてきてくれたモンスターを悪く言うような言葉は口にしたくないのかな。
いつもちょっとした言葉遣いも気に掛けちゃう、優しいティアラちゃんらしいね。
「じゃあさ、お宝探しのついでに、ティアラちゃんの水棲モンスター探しもしちゃおうか!」
「え!? いやでも、私、これまでテイムなんてロクに成功したことなくて……クレハちゃんがイベントを楽しむ時間が減っちゃうんじゃ……」
「大丈夫だよ、GWのカモネギイベントより時間はたくさんあるんだし。それに……私はティアラちゃんと一緒に遊べるなら、それがイベントでもそうじゃなくても楽しいよ」
ゲームの楽しみ方は色々あるけど、今回はティアラちゃんと一緒に遊ぶんだから、二人で楽しめることしたいよね。
それに、普段テイムがほとんど出来ないティアラちゃんが、配信の中で大物テイムに成功したら視聴者のみんなも盛り上がって楽しめるんじゃない?
うん、そう考えるとなんだか楽しくなってきた。
「クレハちゃん……そんなに、私のことを……えへ、えへへへ……!」
「ティアラちゃん? 大丈夫?」
「うん、大丈夫。今ならドラゴンだって一人で倒せる気がするよ!」
「そ、そう? ならいいけど」
私、ドラコにしろドラミにしろ、テイムには成功してるけど……もしテイム不可だったら普通にどっちにも負けてたと思うんだよね。
それをこんなに自信満々に言えるなんて、やっぱりティアラちゃんはすごいなぁ。
『なんだかこの二人、また会話が噛み合ってない気がするんだが』
『いつものこと』
『ティアラちゃんもクレハちゃんも平常運転ということで』
視聴者のみんながまたなんか言ってるけど、最近はまた結構見てくれる人が増えたから、全部に反応してられないんだよね。よくわからないことなら尚更。
というわけで、今はそんなことより大事なことを尋ねることにした。
「ところでみんな、お宝探しって、具体的に何すればいいの?」
『『『「…………」』』』
視聴者のみんなと、ついでにティアラちゃんにまでどこか暖かい眼差しを送られて。
私は、そっと目を逸らすのだった。
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