第95話 イベント開始と浮き輪装備

 ティアラちゃんと泳ぎの練習をしたり、スイレンがティアラちゃんとお話してより仲良くなったり(?)と、賑やかな日常を過ごしていると、やがて私にとって二度目となるイベントの開催が告知された。


 その内容は……。


「宝探し?」


「そうそう、広い海エリアの色んなところに隠されたお宝を見付け出して、大儲けしようって感じのイベント」


 スイレンの話を聞きながら、私はほえ~、と目の前にあるクッキーをつまむ。


 いつもなら自分で焼いたやつを食べるんだけど、今食べてるこれは他のプレイヤーが作ったやつ。かなり美味しい。

 よくわかんないけど、最近は料理スキルを取る人が増えたことで検証が進んで、プロ級の腕を持つ人も続々と現れてるらしい。


 私も料理は数少ない特技ではあるんだけど、流石にプロには勝てないし、食べると色々と参考になる。


 うちのモンスター達は、なぜか私の作ったのばっかり食べてるけど。これも美味しいよ?


「海エリア、私はまだあんまり知らないところまで行けてないけど、そんなに広いの?」


「広い広い。クレハじゃなくても迷子になる人が続出するくらい広いよ」


「むう、その言い方はなんか納得いかない」


 私、別に迷子になんてならないし。

 いや、確かに牧爺のホームで迷子になったけど、あれはチュー助を追い掛けた結果だからノーカンなんだよ。


「クレハの場合、迷子になった先でまた未知のエリアとかアイテムとか見付けそうだけどね。あ、いや、溺れた先だっけ?」


「海底神殿の話なら、ドラコに潜って貰っただけで溺れてませんーー!!」


「いや、思いっきり溺れてた記録が動画として残ってるんだけど」


「ぐぬぬぬ……でもいいもんね、ティアラちゃんに水着作って貰ったから、もう溺れないし!」


「ああ、水着装備の《潜水》スキルだけじゃ結局泳げるようにならなかったから、浮き輪も追加で作って貰ったっていう?」


「うがーー!!」


 遠慮も容赦もないスイレンの指摘に、私は頭を抱える。


 そう、私は海エリア実装から今日までの二週間ほど、ティアラちゃんにほぼ付きっきりで泳ぎ方を教えて貰ったのに、全く泳げるようになれなかった。


 何なら、リアルでもお姉ちゃんが市民プールに連れていってくれたし、目の前にいるスイレン……もとい、その中身(?)である渚とだって時間がある時にプールに行って練習したけどダメだったの。


 我ながら、どんだけ筋金入りのカナヅチなんだって話だよね。幸運の女神は泳ぎの女神には見放されてるの。ぐすん。


 と、まあそんなわけで、一向に上達しないままイベントの日取りが近付いた私へ、ティアラちゃんが新たにプレゼントしてくれたのが浮き輪装備。


 水着に備わった《潜水》スキルとは別に、海エリアでの水泳をサポートしてくれるアイテムだ。



名称:太陽の浮き輪

種別:アクセサリー

効果:なし

能力:《浮揚》

装備制限:なし


スキル:浮揚

効果:この効果が発動している間、水中に潜れなくなる。水中にいる場合、水面まで強制的に浮上する。



 ティアラちゃんにしては珍しく……って言ったらなんだけど、特にデメリットもなく必要なスキルが付与されるだけの装備だ。


 これがあれば、いくら練習しても改善しない私のカナヅチ事情を無理矢理直せるってわけ!


 ……いや、うん。散々練習に付き合わせちゃった挙げ句、追加の装備まで作らせちゃったティアラちゃんには、本当に頭が上がらないよ。


 流石に申し訳ないなと思って謝ったら、二人きりでイベント参加してくれたらいいよって言ってくれたんだけど。


 "二人きり"ってところをやたら強調してたけど、なんでだろうね? まあ、私としては特に断る理由もないけどね。


「そういうわけで、夏のイベントはティアラちゃんと協力してやるよ。あんまり一緒にやれないかもだけど、ごめんね?」


「なんか上手く抜け駆けされた感じがするけど、分かったよ。私も新しく育てた水棲モンスターと連携を調整したいし……それに、ゲームで遊べない分は、リアルでクレハを堪能させて貰うしね!」


「ああ、夏休みだし、またお泊まりする?」


「いいけど、お風呂はちょっと考えさせて」


「???」


 何を考えることがあるんだろ?

 私と一緒にお風呂入るのは嫌なのかな? と思って聞いたら、「違うから! むしろ至福の時だから! 至福過ぎて死にそうなのが問題なの!」なんてよくわからないこと言われたし。


 お風呂に入るだけで至福過ぎるって、スイレンは一体普段どうやってお風呂に入ってるの? まさか入ってない? だとしたら、ちょっとスキンシップは遠慮したいんだけど。


「私は今、クレハの将来が非常に心配だよ。いい? くれぐれもお菓子に釣られて知らない人についていっちゃダメだからね?」


「スイレンは私をなんだと思ってるの!?」


「知ってる人だからって油断しちゃダメだからね? 特にティアラとか、二人きりだからってあんまり無防備に接してると食べられるよ?」


「ティアラちゃんのこともなんだと思ってるの!?」


 全くスイレンは、本当に時々よくわからないこと言うんだから。


 私を食べるとかなんとか、ティアラちゃんは妖怪じゃないんだよ?


「うん、食べるって言葉の意味も伝わらないことが心配になる理由なんだけど……クレハには純粋なままでいてほしいからなぁ……」


 悩ましい……と、スイレンがどこか遠くを見るような目で空を見上げる。


 食べるに食べる以外の意味なんてないでしょ、と思いながら、私はぼけーっとしてるスイレンの口にクッキーを突っ込んだりしつつ。


 私はもうじき始まるイベントに備え、何をしようかと頭を悩ませるのだった。

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