第93話 水着装備とタマの服
「ティアラちゃーん、ちょっとお願いがあるんだけど」
モンスター達のご飯を用意して、一通りみんなを満足させた私は、ティアラちゃんがログインするのを待ってその工房へと向かう。ちなみに、配信はしてないよ。
ティアラちゃんが、TBO内で所有している全財産をかけて用意したという拘りの工房。
鍛冶作業のための炉や、服を縫うためのミシン台。宝石類を削るための作業台などなど、全てが現状用意出来る最高品質だと言うんだから驚きだ。
私のホームに作るんだし、装備を作って貰うついでの我儘みたいなものなんだから、私が資金を出すって提案したんだけど……なぜか拒否されてしまった。
自分で用意した方が既成事実を作れる、とかなんとか言ってたけど、未だにその意味はわからない。
「あ、クレハちゃん、いらっしゃい! どうしたの? 装備のデザインならちょうど出来たから、これから作るところだよ!」
そんなティアラちゃんは、私が顔を見せるとぱあっと華やぐような笑顔を浮かべ、駆け寄ってくる。
うーん、ティアラちゃんはいつ見てもかわいいね。子犬みたい。
けど、そんなティアラちゃんの表情は、私が手を繋いでいるタマを見付けるなりビシリと硬直した。どうしたんだろ?
「……クレハちゃん、その子は?」
「この子はタマっていうの、ほら、イベントで手に入った卵あったでしょ? それが孵って進化したの」
「え……進化?」
ティアラちゃんにとっても予想外だったのか、きょとんと目を丸くして……なぜかほっと胸を撫で下ろしていた。
「よかった……クレハちゃんに赤ちゃんが出来たのかと思った……」
「いやいや、それはおかしいでしょ」
ここゲームの中だよ? それに、確かにタマは人型だけど、背中に思いっきり蜘蛛足生えてるからね? どう見てもモンスターだよ?
「それで、話を戻すんだけど……ティアラちゃんに、タマの服も作って欲しいなって」
「その子の服を……?」
「そうそう。ほら、せっかく人型なんだから、私達みたいにお洒落してあげたいなって。こんな薄着じゃ教育上よろしくないしね」
「っ……!」
まあ、ゲームで教育も何もないんだけど。
ぶっちゃけ、私よりたぬ吉の方が指導者としてすごいし。本当、どうしたら少し目を離した隙にこんな進化先を見付けて来るのやら。
そんな風に一人であれこれ考えていたら、ティアラちゃんはなぜか一人で顔をにやけさせていた。
どうしたんだろ?
「クレハちゃんと二人で教育……つまり子育て……三人でお揃いの服にして、海に遊びに……こ、これは実質家族同然? えへ、えへへへへ……!」
「おーい、ティアラちゃーん? どうしたのー?」
「なんでもないよ?」
急に明後日の方向を見て笑いだしたかと思えば、スッといつも通りの表情に戻るティアラちゃん。
うーん、本当に最近のティアラちゃんは独り言が多いなぁ。スイレンから変な影響受けてない? 大丈夫?
「それじゃあ、えっと、その子の分も含めて用意するから、ちょっと待っててね!」
「うん、わかった」
若干の不安を残しつつ、作業に入るティアラちゃんを邪魔にならない隅っこの方で見守ることに。
そういえば、こうしてティアラちゃんの作業風景を見るのは初めてかも。ちょっと楽しみ。
「よーし……やるぞー……!」
可愛らしく気合いを入れたティアラちゃんが、作業に入っていく。
インベントリからアイテムを出しては、各種作業場でメニューを操作して軽く作業。待機時間を利用して、他の作業場も並行して動かす。
リアルのこういう作業なら付きっきりでやるものだろうけど、ゲームだとなんだか料理みたいだね。というか、そういう生産系のスキルはある程度似たような仕様になってるのかも?
そんな風にゲームシステムに考えを巡らせる間にも、ティアラちゃんは真剣な表情で手を動かしている。
その鬼気迫る様子はまさに職人って感じで、なんだかカッコいい。
「クレハちゃんが見てるクレハちゃんが見てる絶対絶対成功させる良いとこ見せなきゃ絶対絶対絶対……」
何かブツブツ呟いてる気がするけど……集中してるとそうなるよねー、わかるわかる。
そうやって勝手に納得しながら作業を眺めていると、ついに装備が完成したのか、ティアラちゃんが笑顔で拳を握り締めた。
「出来た……!! クレハちゃん、これ、着てみて!!」
「うん、ありがとう!」
トレードで贈られて来たのは、私の水着装備と、タマの服。
タマの分は今さっき頼んだばっかりだけど、私に着せようか迷って子供っぽ過ぎるってことで一度はボツにした物らしい。
うんうん、私はお子様じゃないからね、その判断は正しいよ!
名称:赤百合の水着
種別:防具
効果:敏捷-50、知力-50
能力:《潜水》、《吸息》
装備制限:プレイヤー
スキル:吸息
効果:触れた相手の潜水可能時間を引き伸ばす。
私のは、赤を基調としたレオタードタイプの水着だった。
腰の辺りから花の花弁みたいにふわっとしたスカートが広がっていて、全体的にお花みたいな印象がある。
スキルも、《潜水》のスキルがあれば溺れなくて済むのは助かるね。《吸息》は……自分には使えないから、誰かに同じスキルを使って貰わなきゃダメだけど。
「うん、やっぱり、クレハちゃんかわいい……! そ、その、記念にスクショ、撮ってもいい……?」
「え? うん、いいよ、いつでもどうぞ」
なんか他人のスクショに自分を映らないようにする機能とかあるみたいだけど、配信者やっててそんなの制限したところで今更だしね。
フレンド相手なら、ティアラちゃんの言う通り記念にもなるし、じゃんじゃん撮ってよ。
「じゃ、じゃあ早速……!」
カシャシャシャシャシャ、とすごい勢いでスクショの効果音を響かせながら、ティアラちゃんが色んな角度から写真を撮る。
そんなにいる? と思うんだけど、なんか次に作る服の参考にしたいんだって。
じゃあ、しょうがないかな。
「ぎーぎー!」
「あはは、タマのことは忘れてないよ。タマも新しい服、似合ってるよ。かわいい!」
「ぎー♪」
私がティアラちゃんに写真を撮られまくっていると、タマが私の胸に飛び込んで来た。
こちらは、私が普段着てる《紅玉のバトルドレス》をより子供向けに拵えたようなデザインだ。
全体的に白を基調としていて、胸元には光輝く金剛石をあしらったブローチ。
ドレス全体に走る黒のラインは蜘蛛の巣みたいで、アラクネのタマらしい服装になってる。
名称:金剛石のバトルドレス
種別:防具
効果:筋力-50、防御-50、知力+20、幸運+50
能力:《遅延発動》
装備制限:モンスター
スキル:遅延発動
効果:スキル発動後、効果発揮までに一定時間の猶予を作る。
スキルの方は……正直、使い道がわからないけど。
というか、私は別にステータスがいくら下がっても問題ないけど、タマが下がったらマズイんじゃ?
まあ、元々そんなに高くないし、探索タイプだし、気にしなくていいかな?
「さて、それじゃあせっかくティアラちゃんが水着を作ってくれたことだし、もう一回海エリアに行こうかな。ティアラちゃんも行くよね?」
「わ、私も?」
「うん。ペアルックって言ってたし、ティアラちゃんの分もあるんでしょ? 一緒に遊ぼ!」
「クレハちゃんと一緒に、海で……わ、わかった、行く! がんばる!!」
「いや、別にがんばることはないと思うけど……?」
謎の気合いを漲らせるティアラちゃんに首を傾げつつ、私達はもう一度海エリアに向かうことに。
今度はダンジョン攻略じゃなくて、まったり遊べるといいな。
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