第92話 タマの進化

「ギギ! ギーギー!」


「タマ、そんなに興奮してどうしたの? お腹空いた?」


 海底神殿の探索から帰って早々、ドラミの迫力に驚いて気絶してしまったタマが目を覚ましてから、やたらと私にすり寄って何かを訴えかけて来る。


 ご飯なら今から作るから、ちょっと待っててね。ちょうど神殿でたくさん魚肉(?)が獲れたところだからさ。


『え……クレハちゃん、サハギンの肉料理するの?』

『どう考えてもゲテモノな件』


「まあ、食材カテゴリに入ってるし大丈夫でしょ」


 いや、魚は魚でも二足歩行の人型(?)だったから、美味しそうかと聞かれたら全力で否定するけど。


 一応、説明文には知る人ぞ知る珍味って書いてあるし、案外食べてみたら美味しいのかなって。


 えっ、美味と珍味は違うぞって?

 あはは……何が違うんだろ? え、同じじゃないの?


「ポン!」


「わわわっ、たぬ吉までどうしたの?」


 私が視聴者コメントに反応していると、たぬ吉が突然私の腕に頭突きしてきた。


 別にゲームだから痛くないんだけど、どうしたのさ?


「ポンポン!」


「んー?」


 そんなたぬ吉が指差したのは、私が開いていたメニュー画面。

 ちょうど、インベントリを開こうとしていた腕に頭突きされたためにタップする場所がズレて、テイムモンスター達の管理画面が開かれていた。


「ポン!」


 首を傾げる私に、たぬ吉が再度頭突き。

 衝撃で動いた手は吸い込まれるように画面上をタップし、タマのステータスが開かれた。


 満足そうなたぬ吉の顔を見るに、目的はこれだったみたい。


「一体どうしたのさー……って、あれ? タマ、進化出来るようになってる?」


「ギギ!」


 どやぁ! とばかりに、タマが胸を張るような仕草を取る。


 あれ? 私、まだ一回もタマと一緒にフィールドワーク出てないよね?

 それが、今日一日で20レベルって早すぎない?


「まあ、進化出来るようならさせちゃおうかな? えーっと選択肢は、マザータラテクトと……アラクネ?」


 アラクネって確か、人と蜘蛛が合体したみたいなモンスターだっけ?


 えっ、そんなのになれるの?


『このゲームアラクネなんていたのか』

『初めて聞いたわ』

『つーかその初めてをモンスターが勝手に見つけ出してプレイヤーに催促するという謎な状況』

『クレモンだから仕方ない(脳死)』

『クレモンだから仕方ない(諦観)』


 どうやら、みんなも知らないモンスターみたい。


 ともあれ、マザータラテクトより珍しいみたいだし、タマもこっちが良いみたいだから、アラクネに進化させようかな。


「じゃあ、行くよタマ」


「ギギ!」


 どこか緊張が滲むタマを微笑ましく思いながら、私は進化先をアラクネで決定する。


 途端、光に包まれるタマの体。


 元々蜘蛛としては大きかった体が更に大きくなり、私より一回り小さいくらいのところで成長が止まると、一気に光が弾けて──


「ぎーぎー♪」


 小さな、愛らしい黒髪の女の子が現れた。


 え、何この子、可愛い。



名前:タマ

種族:アラクネ

タイプ:探索・陸上

レベル:20

体力:170/170

魔力:240/240

筋力:40

防御:50

敏捷:50

知力:60

器用:100

幸運:80

スキル:《操糸》《毒糸》《捕獲》

特殊スキル:《人形劇》《創巣そうそう



「えっと……タマ、なんだよね?」


「ぎーぎ、ぎーぎー!」


「あはは、ごめんごめん、あまりにも変わり果ててるから、つい」


「ぎーぎー♪」


 文句を言うように頬を膨らませるタマの頭をそっと撫でると、そのままむぎゅっと抱き着いて来た。


 アラクネというと、上半身が人間で下半身が蜘蛛の姿をしてるのが基本だと思うけど、タマの場合は人間の体をベースに、腰の辺りから蜘蛛の足が八本生えて広がっているような見た目をしていた。


 人の体だからか、随分と表情豊かで人懐っこいその様子は、見ていてとても癒される。


『マジか、この子欲しいんですけど』

『虹卵手に入れればワンチャン』

『仮に引いても進化出来るかわからんのだが。通常進化だとマザータラテクトだろこれ』

『進化条件なんだろう』

『勝手に育ったから誰もわからん』

『嘘やん……』


 変貌を遂げたタマを前に、コメント欄には嘆きの声が多数届く。


 ふふん、残念だったねみんな、タマはうちの子だよ!


 ただ、一つだけ気になることもある。それは……。


「タマ、ちょっと薄着すぎない?」


「ぎ?」


 こてん、と首を傾げるタマの現在の服装は、蜘蛛糸を巻き付けたみたいな最低限の肌着のみ。


 露出過多ってことはないんだけど、せっかく可愛くなったのにこれじゃ寂しい。


「よーし、それじゃあせっかくだし、ティアラちゃんにタマの服も作って貰おうか。きっともっと可愛くなるよ!」


「ぎぎー!」


 私の言葉の意味がわかっているのかいないのか、嬉しそうにはしゃぐタマを再び撫でる。


 うーん、もはやモンスターというより、妹でも出来たような気分だよ。


「けどその前に……まずはご飯からかな?」


 ただ、今はまず、冒険から帰ったばかりのみんなを労わなきゃならないなぁと、疲れた様子のキュー太やポチ、そしてドラミの後ろでいつにも増して小さくなってるドラコを見ながら思った。


 ドラコ、ひょっとしてドラミが苦手だったりする?

 でもドラミはドラコを嫌ってる様子もないし、属性的な苦手意識かな?


 まあ、同じ釜の飯を食べればきっと慣れるよね!


 そんな風に考えながら、私はせっせと料理に取り掛かるのだった。

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