第91話 クレモン達の修行風景
クレハが海底神殿に挑戦している頃──
第二の町近くの森の中、ポイズンタラテクトのタマが、モッフルと激しい戦闘を繰り広げていました。
「ギギギ……!」
「フワラ~」
とはいえ、喧嘩をしているわけではありません。これは全て、タマの修行なのです。
その証拠に、モッフルが繰り出すタマへの攻撃は全て、《触腕》スキルによる毛の束によるものだけで、お得意の跳ね回りながらの突進等は一切行っていませんでした。
「ギギギ……!」
それでも、まだ生まれたばかりのタマには少々厳しい戦いです。《操糸》スキルを駆使し、糸を巧みに操って迎撃しますが、大先輩には中々敵いません。
それでも、タマは諦めることなく挑み続けます。
それもこれも、今よりもっと強くなるために。
進化して、今より愛らしい姿になるために。
そう、タマは孤高に生きる蜘蛛のモンスターですが、実はとっても寂しがり屋だったのです!!
「ギギギ!」
「フモッ!?」
そんな想いで頑張った甲斐あってか、ついにタマの糸がモッフルの体に届きました。
モッフルはまだ本気を出していないとはいえ、ようやく届いた大戦果です。
「ギギー!」
「ポン、ポン」
喜びの声を上げるタマの元に、師匠たるたぬ吉がやって来て労います。
これだけスキルに熟達すれば、十分いける、と。
「ギギ……!」
緊張を滲ませながらも、タマは覚悟を決めた瞳で森の奥へと進みます。
その先に待つのは、この森のフィールドボス。
始まりの町を抜けたプレイヤーが次にぶつかる壁と言われる、アークミノタウロスです。
「モオォォォ!!」
巨大な体に、大きな戦斧を担いだ二足歩行の牛。
ドラコがおやつ感覚で定期的に倒しているにも関わらず、クレハちゃんはその姿すらまともに拝んだことのない、何なら美味しいお肉程度にしか思っていない、ちょっぴり哀れなモンスター。
心なしか、たぬ吉やモッフルを見て少し怯えているようにも見えてしまいます。
そんなアークミノタウロスですが、今回はたぬ吉もモッフルも静観の構えを見せていることに気付きました。
どうやら戦うのは、目の前にいる弱そうな蜘蛛一匹だけだと。
これなら勝てる、そう考え、アークミノタウロスは嗤いました。
日頃苛め倒されている鬱憤を、仲間らしきこの蜘蛛で晴らしてやると。
そう考え、戦斧を構えて一歩踏み出したアークミノタウロスは──
「モオォ!?」
一歩目から、足元に仕掛けられていた蜘蛛糸に引っ掛かり、盛大にすっ転んでしまいました。
一体いつの間に、と慌てて体を起こそうとするアークミノタウロスですが、それより早くタマが這い寄って来ます。
「ギギギギ!」
「モオォ!?」
転んで満足に動けないアークミノタウロスを、糸で雁字搦めに縛り上げていく。相手の動きを制限する、《捕獲》スキルです。
当然、その糸は触れただけで状態異常を引き起こす、《毒糸》スキルの産物でした。
指一本動かせない状態でもがくアークミノタウロスですが、足掻けば足掻くほどに糸が食い込み、《毒》が累積してダメージはドンドン増えていきます。
更にそんなアークミノタウロスへ追撃をかけるべく、自身の牙に毒糸を絡み付けたタマが噛み付きました。
「ギギギ!」
「モ、モォ!?」
スキルでもない、通常攻撃の牙ですが、《毒糸》の効果を合わせることで威力がアップ。十分なダメージとなってアークミノタウロスを襲います。
こうなっては、フィールドボスといえどなす術はありません。じわじわと体力を奪われていき、やがて倒れました。
一応、推奨討伐レベル25のモンスターなのですが……クレモンの前では形無しです。
モブ以下の雑な扱いをされるアークミノタウロスには、涙を禁じ得ません。
「ギギー!」
「ポンポン!」
「フワラ~!」
当然ながら、そんな草葉の陰で泣く存在のことなど知らないクレモン達は、タマの勝利を祝って賑やかにワイワイと騒ぎだします。
後にその様子を撮影したどこぞのストーカー君が拡散した動画によって、またも運営の人々が揃って頭を抱えることになるのですが、それはまた別の話。
クレモン達にとって今重要なのは、タマが目的のレベルと条件を満たしたということなのですから。
「ポン!」
「ギギ……」
たぬ吉に促されたタマは、モッフルに乗り込んでホームへと帰ります。そろそろ、冒険を終えたクレハが帰って来る頃のはずだからです。
クレハより少しだけ早く帰宅したタマは、今か今かとご主人様の帰りを待ち……。
「ただいまー!」
「ギギ!」
クレハの声を聞くや、一目散に外へ飛び出すタマ。
早く自分の成長した姿を見て欲しい……否、
そんな想いでクレハの元に向かったタマは、
「コオォォ!」
目の前にいた見知らぬ青いドラゴンを前に、完全に硬直してしまいました。
「あ、タマも帰ってたんだ。ほら見て、新しい仲間だよ。アクアドラゴンのドラミっていうんだ、仲良くしてあげてね。……って、あれ? タマ?」
「ギィ……」
「タマー!?」
驚きのあまりひっくり返ったタマを介抱すべく、クレハは大慌てで駆け寄ります。
頑張り屋さんで、クレハがいない間にずっと強くなったタマですが……どうやら、メンタルの方はまだまだ修行が足りなかったようですね。
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