第83話 卵の孵化とそれぞれの扱い
ティアラちゃんに新装備の作製を依頼したり、うちのホームをリフォームして工房を増設したり、その間になぜかスイレンがティアラちゃんに決闘を申し込まれたりと、いつも通り賑やかな日常を送っていると、ついに海エリアが実装された。
そして、実装のための大型アップデートが終わった、まさにその直後。
「おっ、来た!?」
中々孵らないなー、と思っていた二つの虹卵に、ついに罅が入った。
ぶっちゃけ、普通ならもっと早く孵るものだったらしいんだけど、私は伸びに伸びてこのタイミングだ。
フィールドワークの頻度だったり、戦闘数だったり、色んな条件で孵るまでの期間は前後するらしいんだけど、私の記録は知られている限りでは過去最長に近いらしい。
『アップデートで新スキルとかモンスターとか追加されるから、そのタイミングに来たら最高だなって話をしていた矢先にこれだよ』
『さすがクレハちゃんである』
『女神ならこれくらい当然なんだよなぁ』
「まるで私が狙ってやったみたいな言い方はやめてね?」
せっかくの虹卵だし、孵る瞬間は配信で流そうと用意したら、思ったのと違う話題で盛り上がってるし。
私のことはいいから、これから生まれてくるモンスターについて語ろうよ。
『どんなモンスターだろ』
『そらお前、水棲騎乗タイプだろ。このタイミングで女神が外すわけない』
『二つあるからもう一つは水棲戦闘タイプかな?』
『水棲探索タイプかもしれない。それで誰よりも早く海エリアの深奥でしか取れないはずのアイテム集めそう』
『あり得る』
『それだな』
『でもなぁ、戦闘タイプで探索に出て最速フィールドボス討伐も捨てがたいと思わんか?』
『悩ましいなそれは』
「ねえ、なんで水棲モンスター前提なの!? 違っても怒らないでね!?」
『運だけが取り柄と言いつついざそれを期待されると不安になるクレハちゃんかわいい』
『かわいい』
『クレハチャンカワイイヤッター』
「人の話聞いてる!?」
わいわいと盛り上がるコメント欄を余所に、卵の罅はどんどん大きくなっていく。
果たしてどんなモンスターが孵るのか。水棲モンスターかそうじゃないのか、なんだかんだでドキドキワクワクしながら待っていると──
「キュー」
まずは一体、虹色の輝きを放ちながら卵から孵ったのは、白いイルカみたいなモンスターだった。
卵から孵ったばっかりなのに、既に私を背中に乗せられるくらい大きいね。どうやって卵に入ってたのかな?
イルカだし、水がないこんな場所じゃ苦しいんじゃないかと不安になるけど……特にそんな様子はない。動きにくいだけで陸地でも平気みたい?
ヒレを器用に使ってよちよちとホームの床を這い回る姿は控えめに言って可愛いし、これは大当たりかも。
種族:クリアドルフィン
タイプ:騎乗・水棲
レベル:1
体力:50/50
魔力:60/60
筋力:10
防御:20
敏捷:30
知力:40
器用:15
幸運:10
スキル:《潜水》《水鉄砲》
特殊スキル:《透過》
『めっちゃええやんw』
『ステータスがレベル1にしては高いな、さすが虹卵』
『期待を裏切らないこの引きの良さ』
「あはは、私もちょっとほっとしてる。さて、名前は……キュー太にしよっかな。よろしくね、キュー太!」
「キュー!」
『キュー太て……オスなの? このイルカ』
『さあ……?』
『クレハちゃんの名付け基準はよくわからん』
大丈夫、私もパッと思い付いた名前にしてるだけで、深い意味は何もないよ!
「おっ、次の子も生まれそう!」
そうこうしているうちに、もう一個の卵も孵る寸前。
果たして次はどんな子か……と思いながら見守っていると。
「ギギギ」
種族:ポイズンタラテクト
タイプ:探索・陸上
レベル:1
体力:40/40
魔力:40/40
筋力:10
防御:10
敏捷:40
知力:40
器用:50
幸運:100
スキル:《操糸》《捕獲》
特殊スキル:《毒糸》《人形劇》
おっきな蜘蛛のモンスターが生まれてきた。
うん、なるほど。
『可愛くないな』
『ステータスも微妙だし』
『クレハちゃんでもハズレ引く時はあるか』
『まあこんなこともあるよな』
「ちょっとみんな、いきなり酷いよ!! いや、私も蜘蛛は苦手だけど!!」
「ギギ!?」
私達のやり取りを聞いて、ガビーン、みたいな感じでショックを受ける蜘蛛。
いや、まあ、ちょっと色合いは毒々しいけど、ゲームな中だけあってリアルほど不気味でもないし、デフォルメされてて愛嬌はちゃんとあるよ? だから元気出して? ね?
「と、取り敢えず名前! えーっと、せめて名前だけでも可愛い感じに……あ、タマはどう?」
『草』
『まさかの猫扱い』
『蜘蛛につける名前なのかそれはw』
『てか言うほど可愛い名前なのかそれ?w』
「ええ!?」
まさかの意見に、私は愕然とする。
そんな……タマって名前可愛いでしょ? 可愛いよね??
「ギギギ!」
でも当人は喜んでくれたのか、なんだか嬉しそうにすり寄って来る。
うん、こうしてみるとやっぱり可愛げがあっていいね。
慣れるまでもう少しかかりそうだけど。
「さて、こうして二体とも孵ったことだし、早速海エリアに遊びに行こうかな。ティアラちゃんの作ってくれる装備は完成までもう少しかかるみたいだし」
料理なんかと同じで、このゲームで装備品を作るのにも本来はさほど時間はかからない。
ただ、ティアラちゃんは今回の水中装備に相当気合いを入れているらしく、リアルの方でデザインから書き起こしているらしい。私の《炎精霊の杖》もイベント報酬で強化するついでにデザインを変更したいから、そっちも含めて頑張ってるんだとか。
いや本当、そんなに必死に作らなくてもいいんだよ? とは言ったけど、本人がやりたがってるから止めようがない。
ちなみに、またペアルックにしていいか聞かれたので快くオーケーしておいた。
別に許可なんて取らなくてもいいのにね。
おっと、話が逸れたね。
ともあれそういうわけだから、新しい子を育てる意味でもちょっとお先に海エリアを偵察に行きたい。
『けど、イルカのキュー太はともかく蜘蛛は泳げないのでは』
『戦闘タイプでもないしな』
「うーん、そうだねえ」
キュー太は騎乗モンスターだし、タマも探索モンスター。
新しいエリアに出向くのに、戦闘タイプなしっていうのは危ないし、そもそもちゃんと戦闘出来るのかもまだ分からない。
そんな状態で、生まれたばかりでレベル1のモンスターを二体も連れていくのは厳しいかな?
「ポン、ポン」
「ん? たぬ吉?」
すると、毎度いつの間にか現れるたぬ吉がタマの傍に寄って行って、何やらコミュニケーションを取り始める。
それが終わると、タマは何やら気合いを漲らせながらたぬ吉と一緒に探索に出掛けて行った。
え、今のやり取りに何があったの?
『よくわからんが、蜘蛛の方はたぬ吉が面倒見るみたいだな』
『良かったじゃん』
「うーん、そういうことなのかな? まあ、それならそれで、キュー太のスキルを先に検証してみようか。一緒に行くのは……ドラコ、ポチ、行くよー」
「ゴアァ」
「クオォン」
うちのモンスターの中でも特に強い二体を連れ、キュー太の育成を兼ねていざ行かん。
新実装の海エリア!
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