第82話 水着おねだりと思わぬポロリ
「というわけで、ティアラちゃんに私の水中戦装備を作って欲しいなって!」
「クレハちゃんの……水着……」
渚が私の家にお泊まりした翌日、学校を終えた私はTBOにログインし、ティアラちゃんとホームで対面していた。
海エリア実装に向けた装備の新調について話を持ちかけると、中々見ないほどに悩ましげな表情を浮かべる。
どうしたんだろ、忙しいのかな?
「クレハちゃんの可愛い水着姿、見たい……でも、ゲームの中……それも配信をするってことは不特定多数の視線にクレハちゃんの姿が晒されて……ダメ、それはダメ、絶対ダメ、でも見たい……」
「ティアラちゃん?」
「な、なんでもないよ!」
突然ブツブツと独り言を呟き始めたティアラちゃんに声をかけると、慌てた様子で取り繕われてしまった。
うーん……。
「ダメなら無理にとは言わないよ? 多分、今の装備でもデメリットがあるわけじゃないと思うし」
「全然!! 全然ダメじゃないよ!! でもほら、その……わ、私もそういう装備を作るのは初めてだし、いつもデメリット効果ばっかりついちゃうから、どうしようかなって……!」
「あー、そういうこと。なら、今回は私も作るの手伝うよ、ほら、私が関わると縁起が良いらしいし」
「ほえ!?」
ティアラちゃんの不幸属性は中々根強いけど、私の運気も大概だからね。
流石に作るのは一緒に出来ないけど、材料集めとかから手伝えば、何とかなるんじゃないかな?
「というわけで、どんな材料がいる? 何なら私の手持ち材料から好きなの使っていいよ、プレイヤーのみんな、探索に出たうちの子に好き放題アイテム渡すから結構色々持ってるし」
「クレハちゃんと……一緒に……」
「あ、何なら私のホームで作ってみる? 今はお金も結構たくさんあるし、ティアラちゃんの工房を増設してもいい気がするんだよね」
「ほええ!?」
スイレンなんかも、「フィールドに出る前は必ずここに来てクレハの運気を吸うんだ! その方がレアアイテムが出る気がする!」って言いながら私のホームで深呼吸しまくって、ついでに私に頬擦りまでして出かけること多いし。
ほんとしつこいくらい毎回やってくから、きっと何かしら効果があると思うんだよね。
だからティアラちゃんもやってみたらいいんじゃないかな?
「そ、それってつまり、私もこのホームに住んでもいいってこと……!?」
「うん? まあ、ゲームの中のホームに住むも何もないと思うけど、ティアラちゃんになら好きに使って貰って全然構わないよ?」
「っ……!!」
私がそう言うと、ティアラちゃんがごくりと生唾を飲み込む音が聞こえて来た。
ゲームのアバターでもそんなこと出来るんだ。本当によく出来てるなー。
「こ、これってつまりクレハちゃんと同棲ってこと……!? だ、だめだよ早すぎるよ、だって私達まだお互い本当の顔も名前も知らないし、というかこれ実質プロポーズなんじゃ……!? はわ、はわわわわ……!?」
「? 嫌だった?」
「全然っ!! 嫌じゃないですっ!!」
「そ、そう? じゃあ必要な設備があったら言ってね?」
「うん、私、がんばってクレハちゃんの新装備作るね!!!!」
めちゃくちゃ食い気味に、首が千切れそうなくらいぶんぶんと縦に振り回すティアラちゃんに、私はちょっとばかり引き気味。
スイレンもそうだけど、ティアラちゃんも時々よく分からない反応するなぁ、何なんだろう?
「あ、そうだ、お互いの顔と名前で思い出したけど、せっかく夏が近いんだし、夏休みにリアルでオフ会とかしてみない? 住んでる場所によっては直接会うのは無理かもだけど、それならそれで連絡先とか交換したいなーって」
些細な疑問は横に置いて、前々からやりたいと思っていたことも一緒に提案してみる。
まだ私、ティアラちゃんのこと何も知らないんだよね。
まあ、TBOを一緒に遊ぶだけならそれでもいいんだけど、それにしたって私もずっとTBOにログインしてるわけじゃないし、他に連絡できる手段があったらもっと仲良くなれると思うんだ。
「ふえぇ!? ちょ、直接会うのは、待って、だめ、まだ心の準備が……!!」
「あはは、もちろん無理にとは言わないよ。こうして一緒に遊べるだけでも楽しいしね」
「あ、あう……でもその、連絡先はその……交換したい……かも……」
「ほんと? ありがと! じゃあまた後で連絡するねー!」
「う、うん……!」
よし、ティアラちゃんの連絡先ゲット!
装備を作って貰える約束も取りつけられたし、後は準備を進めながら海エリアの実装を待つだけだなー。
「ところでクレハちゃん、一つ聞きたいんだけど、いい?」
「うん? どうしたの?」
「えっと、いつもスイレンさんが一緒なのに、今日はどうしたのかなって……」
「ああ、スイレンなら今日は寝不足だからって家で寝てると思うよ。昨日は結構早めに寝たから、寝不足になる理由なんてないと思うんだけどねー」
ほんと、どうしたんだろ? と首をかしげていると、ティアラちゃんの目からスッ……とハイライトが消失した。
え、どうしたの?
「クレハちゃん、どうしてスイレンさんが寝た時間を知ってるの?」
「え? それは、昨日スイレンが私の家で泊まったからだよ。一緒のお布団で寝たから、知ってるのは普通だよね?」
うん、何もおかしなことは言ってないはず。
なぜか一緒にお風呂に入ったことは黙っててって言われたけど、お泊まり会くらい普通だから喋っても問題ない……よね?
「……そっか、スイレンさんがクレハちゃんの家にお泊まり……それも、一緒のお布団で……それで、寝不足……そっか、ふふふふ……」
「えっと、ティアラちゃん? どうしたの?」
「なんでもないよ、ふふふふ」
ティアラちゃんから、カモネギ大襲撃の時に見たのと同じ不吉なオーラが醸し出してる。
いや、本当にどうしたの!? 私何かダメなこと言った!?
「スイレンさんとは……今度お話しないと、ですね……」
私には何一つとして状況が飲み込めないけど……ただ何となく、今度スイレンに泣きつかれそうだなぁと、確信に近い予感を覚えるひと時だった。
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