第74話 連携攻撃と作戦会議
カモネギソルジャーとレタスカイザー、二種類のボスモンスターの群れを相手に、少しずつ態勢を整えていくプレイヤー達。
流石にボスラッシュにはついていけないと思ったのか、始まってすぐの頃より大分人数は減った気がするけど、問題なく耐え凌ぐことが出来ている。
でも、目標はあくまでカモネキング一体。あいつにダメージを与えないと、いくら耐えても意味ないんだよね。
いや、野菜はいっぱい集まるから無意味じゃないけど。
「でも、せっかく参加してるなら王様への攻撃にも参加したいよね! ティアラちゃん、行ける?」
「うん!! クレハちゃんとなら地獄までだって一緒に行くよ!!」
「いや、地獄には行かないけどね!?」
ティアラちゃん、優しいんだけど、時々変なこと言うなぁ。
流石に私は地獄に落ちるほど悪い子じゃないよ。……悪い子じゃないよね?
「よーし、それじゃあみんな、突撃ー!!」
若干のどーでもいい不安を覚えながら、私はいつものように指示を出す。
それを受けて、モッフル達はボスモンスターの群れを高速で掻い潜りながら突っ込んでいく。
「うひゃあ~!?」
右へ左へ、上へ下へ。
ジェットコースターさながらの急旋回や上昇下降を繰り返し、跳ね回るモッフル。
私はもうついていけなくて完全に目を回してたんだけど、ティアラちゃんはそんな私をしっかりと抱き留めて固定してくれていた。
おお、ティアラちゃんすごいね、こんな状況でも全く動じないなんて。
私の同類だと思ってたけど、全然そんなことなさそう。
「大丈夫大丈夫怖くない怖くないクレハちゃんが見てるクレハちゃんが見てる頑張る頑張る頑張る……」
「ティアラちゃん、何か言った~~!?」
「ううん、なんでもない」
仮面をつけたままだと表情が分からないけど、キリっとした声がかっこいい。
モッフルに振り回されている最中も、ティアラちゃんは仮面の効果で周囲のボスに状態異常を振りまいてくれてるから、突破するだけならさほど苦労もなく。
私達はついに、カモネキングの目の前までやって来た。
「うひゃあ、近くで見るとめちゃくちゃ大きい!!」
カモネギソルジャーも相当に大きいんだけど、カモネキングの大きさはその比じゃない。
まるで、ビルか何かを相手にしてるみたいなサイズ感だ。
こんなの本当に倒せるのかな? って気分になるけど、まずはやってみなきゃね!
「援護するね、クレハちゃん……!」
そのタイミングで、ティアラちゃんがポーションを飲み、状態異常を起こす。
仮面の効果で《麻痺》状態に陥ったカモネキングは、一瞬だけその動きを止め……けど、すぐに復帰してレタスを投げつけて来た。うわわっ!?
「っ、ダメ、耐性が高すぎて一瞬しか止められない……!」
ティアラちゃんの仮面の効果は、自身が状態異常に陥った時、周囲の一定範囲にいる敵にも同様の状態異常を与える。
だけど、その状態異常から復帰するまでの時間は、そのモンスターの耐性に依存するみたい。
だから、弱いモンスターがいくら群がって来てもティアラちゃんの前では無力だけど、その分ボスモンスターに対しては効果が弱くなっちゃうんだって。
「一瞬しか効果がないなら、タイミングを合わせて叩くしかないよね。ティアラちゃん、ルビィの攻撃準備お願い。ドラコも、頼んだよ!」
「う、うん!」
「ゴアァ!」
私が杖を構えると、ティアラちゃんとドラコがそれぞれ反応を返してくれる。
よーし、私のほぼ唯一の見せ場だ、運勝負いっくよー!!
「《炎精霊の杖》、発動ーー!!」
同一エリア内で、ステータス異常と炎耐性や炎属性攻撃の変動を起こす杖を起動し、ドラコとルビィの援護を行う。
適応されたのは……ドラコとルビィがそれぞれ《知力アップ(小)》と《炎属性攻撃アップ(中)》、そして王様が《炎耐性ダウン(大)》!
「よしっ、大当たり!! やっちゃえドラコーー!!」
「ルビィ、《バーニングフレア》!!」
『安定の引き運』
『これでこそクレハちゃんだよなw』
『これは勝ったな』
ステータス変動とタイミングを合わせ、ドラコとルビィの《バーニングフレア》が王様に叩きつけられる。
うちの子の最大火力、そこに杖の援護までついて、更には《桜特攻》の効果まで。
これだけあれば、相当にダメージも入ったはず!
……と、思ったんだけど。
「あれ、全然減ってない!?」
二体のモンスターから攻撃を受けた王様の体力ゲージは、ほとんど減少していなかった。
いや、ほんのちょびっと減ってるような気がしなくもないけど、こんなの誤差に等しいよ。
『あー、まあ全プレイヤーが攻撃に参加する想定で作られたボスだろうからなw』
『流石に個人の力で倒すのは無理があったか』
『まだクエストの終了時間まで丸一日以上あるし、そんだけの時間総攻撃されること前提の体力なんだろ』
「ぐぬぬ」
言われてみれば確かにそうなんだけど、自慢の攻撃がこれだけ効果薄いと悔しいね。
ラスボスだからこれが普通、って言われたらそうなのかもしれないけど、どうせならもっとどっかーん! って体力削れるところが見たくなってきた。
「クレハちゃん、大変! 囲まれちゃってる!」
「え? あ、ほんとだ、いつの間に!?」
周りを見ると、気付けばカモネギソルジャーやレタスカイザーの集団に包囲されて、逃げ場がなくなっていた。
いくらうちの子達でも、流石にこの数は厳しいかも……!!
「どっせーーーい!! クレハちゃん、大丈夫かしら?」
「あ、お姉ちゃん!!」
すると、そんな包囲の一角を吹っ飛ばしながら、お姉ちゃんが救援に駆け付けてくれた。
それだけじゃない。
「クレハは相変わらず無茶するね!」
「だがいい一撃だった、流石俺が見込んだプレイヤーだ」
「私もいるわよ~」
「スイレン、それにゼインさんとスピカさんも!」
スイレン、ゼインさん、スピカさんと、続々現れた知り合いによって、ボスモンスターの包囲網はあっという間に崩壊し、撤退するスペースが出来上がる。
それを見るや、指示も待たずにモッフルが飛び跳ねて移動を始め、私達は辛くも危機を脱することが出来た。
ふう、助かったー。
「みんな、助かったよ! ありがとう!」
「クレハちゃんのためだもの、これくらい当然よ♪」
「どちらにせよ、ひと当てしてみる必要があると思っていたからな。クレハがやってくれたお陰で、色々と情報も集まったことだし、これで本格的に作戦が組み立てられる」
お礼を告げると、お姉ちゃんが笑顔で答え、ゼインさんは戦術的な話? で助かったと言ってくれた。
でも、作戦かー、どうするんだろ。
「作戦と言っても、地道に削っていくしかないんじゃないかしら~? トッププレイヤーの攻撃でもあの程度じゃ、小手先の作戦なんて意味ないと思うわよ~?」
「それはそうだが、そうした少しの積み重ねをするにも押し引きの立ち回りを決める必要がある。ああもボスモンスターで囲まれていては、それするにも一苦労だしな」
ゼインさんとスピカさんの会話を聞くに、やっぱり難しいみたい。
ボス軍団の攻撃を掻い潜って、王様に攻撃して、その後もボス軍団の攻撃をやり過ごしながら引いたり再攻撃したりっていうのが面倒みたいだね。
「んー……なら、いっそ全プレイヤーで一斉にどばー!! って突っ込んで、ばー!! って攻撃したらどうかな? いちいち押したり引いたりなんてしなくて済むし、一気に体力ゲージが削れたらきっと気持ちいいよ!」
『いやいやクレハちゃん、それは雑過ぎるw』
『出来たら苦労しないぞw』
それなら、ということで私が思いついたことを提案すると、視聴者のみんなに突っ込まれてしまった。
ううむ、ダメかー。
「……いや、案外悪くないんじゃない?」
すると、そんなやり取りにスイレンが口を挟んで来た。
一体どういうことかとみんなが視線を集める中、スイレンは悪戯っこのような笑みを浮かべて私を指差した。
「クレハは今や、多数の信者を抱える有名配信者だよ。しかも、今回のイベントで桜サンドなんてものを大々的に売りさばいたから、もはやTBO随一のアイドルと言っていい存在と言えるね」
「いやいや、アイドルは大袈裟じゃ?」
『でも実際、こんなイベントの最中なのに視聴者数はめちゃくちゃ多いしな』
『もはやTBOやってないけどクレハちゃんは見たいって奴までいる』
「えぇ!?」
そんなところへ、まさかの視聴者コメントから同意が飛んできた。
いやいや、アイドルなんてそんな……え、違うよね?
「なるほど、クレハちゃんが錦の御旗になって、全プレイヤーに時間指定の特攻を指示するわけね。ギルド単位でならよくあることだけれど……」
「ゲーム全体で、とまでなると中々ないな。だが、クレハならあるいは……」
お姉ちゃんとゼインさんも、なんだか乗り気になって来てる。
いや待って、みんなで一気にどばーっと攻めればいいんじゃと言ったのは私だけど、その中心になるプレイヤーはゼインさんとかの方が……。
「どうせやるなら、他の配信者にも呼び掛けてみたらいいんじゃないかしら~? みんなノリが良いし、クレハちゃんのことも知ってるでしょうし……盛大なコラボ企画と思えば、乗って来る人は多いと思うわよ~?」
「有名配信者の一人であるスイレンもここにいることだしな。他の配信者についても、何人かは俺が交流を持っている。連絡係は請け負うとしよう」
突っ込む暇もないままに、ゼインさんとスピカさんの二人がどんどんと話を纏めていく。
もはや、私が最初に考えていたよりずっと現実味を帯びて来た作戦についていけず、助けを求めるようにティアラちゃんを見ると……ぐっ、と拳を握りながら、にこやかな笑顔を返された。
「がんばって、クレハちゃん。私、誰よりも傍で応援してるよ!」
「あ、あはは、うん、がんばるよ……」
……と言っても、何をがんばればいいのかも分からないけどね!?
そんな内心の叫びは、結局形になることもなく。
こうして私は、TBO全プレイヤーに参加を呼び掛ける一大作戦、その中心人物として担ぎ上げられることになるのだった。
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