レベル1の最強テイマー～幸運極振りの初心者ゲーマーはもふもふ軍団を従え最強へ至ります～

第73話 ボスラッシュと加速する勘違い

「「「うぎゃあーーー！？」」」

　楽しげなお姉ちゃんとは裏腹に、ボスの群れに呑み込まれたプレイヤーが次々と死に戻って行く。

　そんな中で、自らボスの群れに率先して身を投げたのはゼインさんだった。

「落ち着け、ボスと言えど数の上ではこちらが有利だ！！ 四人一組で一体ずつヘイトを集め、周りとぶつからないように広く展開しろ！ エリアの特徴を活かせ！！」

　その的確な指示で、浮き足立っていたプレイヤー達は徐々に落ち着きを取り戻す。

　同時に、ゼインさん自身もスピカさんと二人一組になってボスに立ち向かい、次々と撃破していく。

「私も行くわよ～！」

「負けませんよ、サクラさん！」

　それに釣られて、お姉ちゃんとスイレンもまた飛び出していく。

　スイレンが空から雷を落とし、お姉ちゃんが地上で走り回る。

　嵐のような二人の猛攻に巻き込まれ、ボスってなんだっけ？ と言いたくなるようなスピードでカモネギソルジャーやレタスカイザーはその数を減らしていく。

　それでも、まだまだ多いし、追加もどんどん来る。

　これじゃあ、いつまで経っても本体の王様に攻撃出来ないよ。

「よーし、ティアラちゃん、私達も行くよ！ 乗って！」

「う、うん」

　すぐに助力するべく、私はティアラちゃんの手を引いてモッフルの上に乗る。

　するとすぐに、モッフルが《触腕》スキルで私達の体を固定してくれたけど……まだ操作に慣れてないのか、ティアラちゃんと纏めて縛られてしまった。

　完全に体が密着してて、これじゃあ上手く動けないよ。

「ちょっとモッフル、これじゃあティアラちゃんが戦えないよ、解いてー！」

「う、ううん、大丈夫、大丈夫だからこのままで！！」

「え、そう？ ならいいけど……」

　なぜか余計に強く体を密着させてくるティアラちゃんに疑問符が浮かぶも、まあ本人が離れたくないというならそれでいいかと、そのままモッフルに乗って前へ出る。ティアラちゃんの相棒であるルビィは、その横で並走だ。

　ちなみに、配信のコメント欄は謎の盛り上がりを見せていた。尊いって、何が？

　なんてことをしていたら、ちょうど目の前にレタスカイザーがやって来た。

「ドラコ、ピーたん、お願い！ 《応援》！！」

「ゴアァ！」

「キュオォ！」

　私の支援を受け、二体のモンスターが突っ込んでいく。

　レタスカイザーが何かアクションを起こすより早く、懐に飛び込んだドラコの鉤爪に切り裂かれ、怯んだところをピーたんの魔法攻撃が襲う。

　でも、当然ながらそれだけで勝てるほどボスは弱くない。

「フワッ、フワラ～！」

「え、もしかしてモッフルも戦いたがってる？ うーん、しょうがないな……じゃあ、これで！！」

　今にも跳び出しそうなくらいぽよぽよと体を揺らすモッフルを見て、私はすぐにインベントリから呪いの大剣を取り出し、モッフルをぺちんと叩く。

　攻撃すると、一定確率で《バーサーク》の状態異常を起こす剣の力が一発で発動し、モッフルの筋力を防御と引き換えに大幅に引き上げた。

「フワラ～！！」

　同時に放たれる、モッフルの《突進》スキル。

　私達が上に乗っていようとお構い無し、全速力でぶちかまされたモッフルの体当たりが、レタスカイザーをひっくり返した。

　正直目が回りそうだけど、上手くいったからよし！ 後はこの隙にみんなで攻撃すれば……。

「クエーッ！」

「わわっ、別のが来た！？」

　うちの子達がレタスカイザーに総攻撃を仕掛けているところへ、カモネギソルジャーがネギを振り回し襲い掛かって来る。

　ヤバいヤバい、流石にこの状況から防御は出来ないよ！

「──クレハちゃんとの時間を邪魔しないで」

　すると、いつの間にか私の体から離れたティアラちゃんが、その顔に髑髏の仮面を装着し、ポーションを口に含んでいた。

　なにそれ！？ と私が反応する暇もなく、迫って来るカモネギソルジャーと……更に、うちの子達に絶賛ボコられ中なレタスカイザーの防御が、一気に極大ダウンする。

「ルビィ、《バーニングバスター》」

「コォンッ！」

　そして放たれる、ルビィの爆炎。

　うちのドラコと同じ炎属性のスキルに焼かれたカモネギソルジャーは、あっという間にその体力ゲージを霧散させた。

　あ、ついでにレタスカイザーもドラコがトドメを刺したみたい。瞬殺だね。

『ティアラちゃんの攻撃えっぐ』

『キレたポイントがクレハちゃんとの逢瀬を邪魔されたことなの草』

『怒らせたらいけない子』

　コメント欄でも、今のティアラちゃんの戦法に戦々恐々としている。

　でも、私はそんなことより、ティアラちゃん姿の方に釘付けだった。

「ティアラちゃん、その仮面……」

「あ、その、クレハちゃん、これはその……」

「……かっこいいね！！」

「えぇっ？」

　このオドロオドロしい感じ、普段の愛らしいティアラちゃんとのギャップがすごくて、すんごい強そうだ。

　いや、実際この仮面の効果なのか、ボスモンスターのステータスを大幅に下げて援護してたし、強いんだけど。

「ティアラちゃんが作ってくれた剣もそうだけど、呪いの装備って感じでロマンがあるよね。今は可愛い感じのドレス着てるけど、次はいっそ思いきってそっち系の装備を作って欲しいかも……って、どうしたの？」

　私が思ったままの感想を口にしていると、ティアラちゃんは仮面をつけたまま蹲り、何やらぶつぶつと呟き始めた。

　どうしたんだろ？

「そ、そんな……だ、ダメだよクレハちゃん。いくらなんでも、私（・）が（・）欲（・）し（・）い（・）なんてそんな、まだ私達小さいし、思い切りが良すぎるよ……！」

「……んん？」

　あれ、また何か変な勘違いをしているような……気のせいかな？

「でも、うん、そうだね。私、このイベントは最後まで誰よりもかっこよく戦ってみせるよ。クレハちゃんが望んだ通りに！！」

「え？ あ、うーん、がんばって？」

　私は呪いの装備かっこいいし、次は私の分も作って欲しいなーって言ったつもりだったんだけど……まあ、ティアラちゃんが気合いを入れてくれるのは良いことだし、いいのかな？

『加速していく勘違い』

『というより思い込みがすごい』

『だがそれもまた可愛い』

『分かる』

『もはやなんでもありだなこいつらｗ』

　視聴者のみんなも、やっぱりティアラちゃんが勘違いしてると思う？

　でも、そういうちょっと抜けてるところが可愛いっていうのは分かるよ！

「よーし、行くよ、ルビィ！！」

「コォン！！」

　言うが早いか、ティアラちゃんはモッフルの上で立ち上がると、ポーションをガブ飲みし始める。

　途端、私達を仕留めんと近付いて来たモンスター達は大量の状態異常に苦しめられ、その動きを瞬く間に鈍らせていった。

　当然、そこを狙ってルビィは炎を撒き散らし、大暴れし始める。

「ゴアァ！！」

「キュオォ！！」

「フワラ～！！」

　それに追従するように、戦場を縦横無尽に駆け回るうちのモンスター達。

　モッフルが動く度に私は振り落とされそうになるんだけど、モッフルの《触腕》スキルで縛られてるのと……ティアラちゃんが不安定な私の肩をがっしりと抱いて離さないお陰で、どうにか飛ばされずに済んでいた。

「クレハちゃんは私のだ……誰にも手は出させない！！」

「お、おー、ありがとう……？」

　モンスターに対して（？）力強く宣言するティアラちゃんを眺めながら、私はどうにかそれだけ呟いて。

　激しさを増す戦闘の中、ひたすら人形のように振り回されるのだった。