第72話 決戦エリアと王様登場
ワールドクエスト二日目、ちょっとだけ前線の空気も味わってみたいなー、なんて理由でカモネギ軍団との戦闘に参加した私は、予想以上にやる気を漲らせたモッフルに全力で振り回されていた。
いや本当、今日はどうしたのモッフル? 新しいスキル試してみたくなっちゃった?
そんな感じで、モッフルの上で目を回しながら成り行きを見守っていると……急にパタリと、カモネギ達の姿が消えた。
「……あれ、どうしたんだろ?」
『カモネギ軍団の勢力ゲージが消えたな』
『クエストクリアってことじゃね?』
『でもその割りには通知も何もないな』
私の呟きに、配信を見ているみんなも疑問の声を上げる。
一体何事だろうかと、北門エリア全体に困惑の空気が立ち込めた時──不意に、それまで青で表示されていたカモネギ軍団の勢力ゲージが赤色に変わり、一瞬で全快。
そこには新たに、《カモネキング》の名が記されていた。
インフォメーション
・カモネギ軍団の侵攻失敗を受け、ついにカモネギ達の王、カモネキングが動き出した。全プレイヤーはカモネキングの生み出すモンスター軍団の再侵攻を食い止めつつ、決戦エリアにてカモネキングを撃破せよ。
「なるほど、最終決戦ってわけだね」
『決戦エリアってどう行くんだ?』
『やっぱ中央広場の転移ポータルでは?』
『でもこっちの防衛も必要そうだけど、どうすんだ?』
コメントで言われている通り、このエリアにも再びカモネギバードが現れ始めた。
これを放置したら、多分また門が削られて負けになっちゃうよね?
それはダメだから……うーん。
「まあ、考えても仕方ないか。モッフル、ピーたん、ドラコ、私達はラスボスキングにちょっかいかけに行くよ! 他の子はそのまま、ここで探索支援を続けてね」
どうせ一度探索に来たら、時間になるまで場所は変えられないし。
その辺りの融通が利かないのが、探索支援の欠点だね。
まあ、今までみたいにカモネギソルジャーはいないみたいだし、きっとみんなだけでどうにかなるでしょ!
「よーし、俺らもギルドを半分に分けて、女神に続く者とクレモン達と共にここで戦う者に別れる!! 行くぞーー!!」
「「「うおぉーー!!」」」
周りのプレイヤーの人達も、私に同調して人数分けを始めていく。
どうでもいいけど、クレモンって何?
いや、なんか聞くだけで頭痛くなりそうな気配があるから、聞かないけど。
そんな微妙な心境になりつつ、北門エリアを後にした私は、他のプレイヤー達と中央広場に雪崩れ込む。
するとそこには、当然のように他の門からやって来たプレイヤーもいて……中には見知った顔がいくつもあった。
「あ、スイレン、ティアラちゃーん!」
「クレハ!」
「クレハちゃん」
私がモッフルの上から手を降ると、それに気付いた二人が駆け寄って来る。
あ、ティアラちゃんが途中で人ごみに呑まれちゃった。
「ふえぇぇ~!?」
「おっと、大丈夫かしら?」
「あ、ありがとうございましゅ……」
すると、そんなティアラちゃんをキャッチしたのは、私のお姉ちゃんだった。
それを見るや、私はモッフルの上から飛び降りてお姉ちゃんの元へ向かう。
「お姉ちゃーん!」
「おっと、ふふ、クレハもこっちに来たのね」
「うん、最終決戦なんて楽しそうだし! お姉ちゃんも来たんだね」
「ええ、
飛び込んだ私を抱き止めながら、お姉ちゃんは悪戯っぽく笑みを浮かべる。
なんだろう、これは一筋縄じゃ行かない予感。
「な、なにがあるか知りませんけど……クレハちゃんは、私が守るので大丈夫です……!」
「わわっ」
何が待っているのかと考えを巡らせていると、私の腕にしがみつくようにティアラちゃんが抱き着いて来た。
お姉ちゃんに対して「むむむ」って感じで威嚇してるけど、なんだか子犬みたいで微笑ましい。
いや、そもそもなんでお姉ちゃんを威嚇してるのかわからないけど。
あ、そうか、勝負してるからかな? ティアラちゃんって結構負けず嫌いだもんね。
「ふふふ、頼もしいけれど、クレハの前で"アレ"を披露するのはもういいの?」
「ふえ!? そ、それはその……」
慌てるティアラちゃんを眺めながら、アレって何? と首を傾げる。
……あ、そうだ、ティアラちゃんの戦い方が怖いとかなんとか、スイレンが言ってたやつか。
お姉ちゃんも知ってるのに私だけ知らないなんて、なんだか疎外感。むぅ。
「よくわかんないけど、私はどんなティアラちゃんだって大好きだよ! だから見せて欲しいな!」
「クレハちゃん……! うん、わかった、私、クレハちゃんのために思いっきりがんばる!」
ふんす、と可愛らしく気合いを入れるティアラちゃんを見て、ほっこり。
いやー、やっぱりティアラちゃんは見てて癒されるねー。
「うーん、知らぬが仏とはこのことか……」
「スイレン、何か言った?」
「いや、何も。ティアラに好かれるのはいいけど、将来大変そうだなぁって思っただけ」
「???」
ティアラちゃんに好かれるなんて光栄じゃん。何が大変なんだろ?
まあ、スイレンがよくわかんないこと口にするなんていつものことだし、気にしなくていいか。
「ふふふ、さあ、そんなことより、早く行かないとラスボスの登場シーンを見逃すわよー」
「あ、待ってよお姉ちゃん!」
はいどいてどいてー、と進んでいくお姉ちゃんに釣られ、私とティアラちゃん、スイレンと纏まってポータルを潜る。
そうして辿り着いた場所は、これまでとほぼ同じ、ただ広い平原。
そこには既にたくさんのプレイヤーがいて、奥には一体の巨大なモンスター……カモネキングがいた。
「うわぁ、なにあれすごい」
思わずそう呟いてしまうくらい、その巨大なカモネギは奇怪な風貌をしていた。
まず、体型はでっぷり太り気味。
ドラコよりも大きな背丈と相まって、距離があるはずなのにその威圧感が凄まじい。
一方で、その顔は体に比してかなり小さく、野菜で彩られた緑の王冠を被った姿はコミカルな印象を見るものに与え、どことなく愛嬌すら感じられる。
太っているせいか、その場に座り込んだまま動く様子もないそれが、今回のラスボスということらしい。
「あれ、戦えるの……?」
ラスボスと言うくらいだし、体力は多いんだと思う。
でも、とてもじゃないけどこの数のプレイヤーを相手に戦えるようには見えない。
あんまり一方的だと、いじめてるみたいでちょっと気が引けるんだけど。
「行くぞぉーー!!」
「一番槍は貰ったぁーー!!」
そんな風に思っていたら、一部のプレイヤーが先行してカモネキングに突っ込んでいく。
私も慌てて追い掛けようかと思ったんだけど、お姉ちゃんに制止された。
「待ってクレハちゃん、ちょっと見てなさい?」
「え?」
どういうことだろうと思いながら、もう一度カモネキングを見る。
武器を手に、相棒のモンスターと共に迫って来るプレイヤー達を目にしたカモネキングは、のっそりとした動きで懐から巨大なレタスを取り出した。
「グエ~」
「「うおわぁ!?」」
野太い鳴き声と共に投擲されたレタスが、プレイヤー達を押しつぶす。
その圧倒的な威力に、先行していた内の半数近くが一発で死に戻っちゃった。ひえぇ。
「怯むな、この動きなら連射は出来ねえ! 今のうちにやっちまえ!」
それでも構わず、残った半数がカモネキングへと向かう。
でも、その歩みは突如として彼らに襲いかかった蔦の攻撃で阻まれてしまった。
「ぎゃー!?」
「なんだこのレタス、動くぞ!?」
それを実行に移したのは、カモネキングが投げ付けた巨大レタス。
それが動き、全身から蔦を生やし……イベント中、フィールドボスの代わりとして出現していたボスモンスター、野菜王レタスカイザーとなってプレイヤーの前に立ちはだかった。
「グエッ、グエッ、グエッ」
しかも、一体だけじゃない。
カモネキングが野菜を投げる度、それらがすぐにボスモンスターとなって動き出す。
更には、各門の防衛戦からいなくなっていたカモネギソルジャーの集団までもが、カモネキングを守るように次々と姿を現したのだ。
「なん……だと……」
「ボスモンスターが、こんなにも!?」
今まで相手にしていたカモネギ軍団を彷彿とさせる勢いで増えていく、ボスモンスターの群れ。
そんな圧巻の光景を前に固まるプレイヤー達を横目に、お姉ちゃんは得意げに語った。
「さあ、カモネギ大襲撃イベントを締め括る、全プレイヤー参加型のボスラッシュクエストよ。みんな、頑張ってぶっ飛ばしましょ♪」
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