第75話 大演説と女神軍団
俺の名はコウタ。TBOの攻略ブログ……もとい、女神観察を生業としているゲーマーだ。
公式イベントのラストを飾るカモネギ大襲撃クエストもいよいよ後半、二日目も半ばを過ぎたところで、女神から思わぬ発信があった。
TBOを拠点としている多くの配信者と連携し、全プレイヤーに対し本日20:00にカモネキングへと総攻撃を仕掛けようという呼びかけだ。
期間は一時間。門の守りを捨てた短期決戦。
女神が配った桜サンドによるバフもあり、門の耐久に余裕がある今のうちに、一気に攻めて終わらせてしまおうという魂胆だろう。
当然、俺の所属する《女神教会》は全員参加だ。
ゼインの《曙光騎士団》も都合がつく連中は全員動くと情報が流れ、TBO始まって以来のお祭り騒ぎの気配を感じ取った野良のプレイヤー達もこぞって集結。
そして時間になった今、カモネキングと戦う専用エリアは、本当に全プレイヤーが集まったのではないかと思うほどに大量のプレイヤーでごった返していた。
「ゴアァァァァ!!」
そんな時、上空にドラゴンの咆哮が轟き、爆炎が噴き上がる。
派手な演出に全てのプレイヤーが顔を上げれば、そこには威風堂々と真紅のドラゴンの背に佇む桜髪のプレイヤーと、その腕の中に抱かれる女神の姿があった。
「諸君、此度はよくぞ女神クレハの呼びかけに応えて集まってくれた!!」
戦闘タイプであるドラゴンの上とは思えない、安定した体勢で立つプレイヤー……昨日一日だけでイベントランキングを駆け上がり、TBO中を激震させた女神の姉・サクラは、芝居がかった男勝りの口調で声を張り上げる。
距離を感じさせないその声は、問答無用で全てのプレイヤーを傾聴させる迫力に満ちていた。
「こうしている間も、各地の門はカモネギ軍団の攻撃を受けている。牧場爺さんがそのモンスター軍団を振り分けて侵攻を遅らせてくれているが、あくまでこの一時間を持たせる力しかないだろう。故に余計な言葉は重ねない、一つだけ言わせて貰う」
すぅ、と息を吸う気配が地上に伝わり……そのまま、大気を震わせる激励が発せられた。
「イベント最終日など待つ必要はない、今ここでボスをぶちのめし、運営に目に物見せてやれ!! 我らにかかれば、この程度のボスなど敵ではないと。ゲーマーの意地に懸け、運営の想定を超えてみせろ!! 案ずるな、諸君らなら出来る。なぜなら我らには、女神クレハの加護があるのだから!! ……さ、クレハちゃん、お願いね♪」
「う、うん、いいけど……大丈夫かなぁ……?」
サクラの演説に合わせ、女神が手に持った杖を空に掲げる。
同時に、輝く真紅のエフェクトが杖の先端から弾け飛び、紅葉のようにエリア全体に降り注ぐ。
その輝きは、プレイヤーやそのモンスター達に次々と吸い込まれていき──俺達全てに、力を与えた。
「筋力アップ極大だと……!? バカな、これほどのバフをこの一瞬で!?」
「こっちは炎属性攻撃アップ大だ!! 炎使いの俺に、なんてピンポイントな……!!」
「知力アップ、筋力アップ、防御アップ……! 全て小だが、これは強い……!!」
次々と発生するバフの嵐に、プレイヤー達は騒然となる。
あくまでランダムに発生するそれは、マイナス効果もあるはずだが……少なくとも俺の周囲からは、デメリットが生じたという話は聞こえて来ない。マイナスを受けても、悉くがそのプレイヤーにとってあまり意味のないマイナスばかりなようだ。
若干一名、涙を流す小さな女の子がいるという話は聞こえたが……まあ、誤差の範囲だろう。
「さあ、諸君らの力と勇気を以て、我らが女神に勝利を捧げよ!! クレハチャンカワイイヤッター!!」
「「「クレハチャンカワイイヤッター!!!!」」」
そんな女神の、奇跡にも等しいバフを受けて、プレイヤー全員の士気が上がっていく。
そりゃあそうだ、ただでさえ、女神からは《桜特攻》というバフをばら撒かれていたところに、更に追加のバフ。そして、こちらは女神を中心とした呼びかけでかつてないほど大量のプレイヤーがいて、相手は普段なら苦戦するようなボスが山盛り。
今なら、普通にやっていては絶対に出来ないような大火力を、多数のフォローを貰いながら全力で振り回せるんだ。
この状況に燃えないゲーマーなんていないし、この状況を作ってくれた女神に誰もが心酔する。
「やるぞぉーー!!」
「王様カモネギなんざ物の数じゃねえ、やっちまえーー!!」
「勝利を女神にーー!!」
誰もが目を爛々と輝かせ、山賊さながらの蛮勇を発揮しながらボスに挑みかかっていく。
「これは、イベントが終わったら俺みたいな追っかけも一気に増えそうだな……」
ライバル増加の予感に戦慄しながら、俺もまた武器を手に走り出す。
ともあれ、まずは目の前の敵を倒して……その成果を女神に献上してからだ。
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