第50話 桜野菜とカモネギバード
「イベントイベント楽しいな~♪」
『まだ始まったばっかりで何もしてない件』
『クレハちゃんが楽しそうだからいいんだよ』
『クレハちゃん可愛い』
『クレハチャンカワイイヤッター』
ついにイベントが始まったTBOにて、私は適当な歌を口ずさみながら、いつものように配信しつつフィールドに向かう。
まず最初に選んだのは、《迷いの森》エリア。以前お姉ちゃんと一緒に来た、初心者向けレベリングスポットだね。
第二の町周辺でも良かったと言えば良かったんだけど、私のレベルはともかく今回連れて行くメンバーがみんな戦闘向きじゃないからね。
イベントも始まったばかりだし、まずはここで肩慣らしだ。
「それで、えーっと……イベント中はどんなアイテムを集めればいいんだったかな」
騎乗モンスターである巨大毛玉魔獣、モッフルの上に乗ったまま、私はインフォメーションからイベント詳細に目を通す。
まず、イベント概要。
春も半ば、多くの作物が実りをつけ、収穫祭の時期が訪れた。
しかし、そんなところへ現れたのが、野菜好きの厄介なモンスター、カモネギバード。
この子が大発生し、そこら中の畑から野菜を奪ってしまったのだ。
こうなっては、春の実りに感謝を捧ぐ収穫祭が行えない!
収穫祭まで残り二週間、テイマー諸君、収穫祭を無事に執り行うため、カモネギバードから野菜を取り戻すのだ!
……って感じ。
カモネギバードが持っているアイテムは、《桜ネギ》、《桜トマト》、《桜大根》、《桜キャベツ》など、春を連想させる名前がついた野菜が様々。
種類の違いは特に意味もないんだけど、それぞれに《傷んだ桜ネギ》《桜ネギ》《上質な桜ネギ》《特級桜ネギ》と四段階にレア度が別れていて、下から順に1pt、5pt、10pt、20ptと一つのアイテムから獲得できるイベントptの量が異なる。
どのカモネギバードを倒してもいいんだけど、高レベルなモンスターほどレアアイテムを落とす可能性が高いんだって。
それから、イベント期間中は探索や採取によってもそれらのアイテムが手に入るから、戦闘が苦手な人は無理に戦わなくてもいいらしい。
「流石にこの森で特級クラスのレアアイテムは手に入らないと思うけど……ひとまず、採取中心にやっていこっか。いくら初心者エリアだって言っても、今回は戦闘系の子が誰もいないし」
「ポン」
「チュー」
私の膝の上に乗ったたぬ吉と、頭の上に乗ったチュー助がそれぞれに鳴き声を上げて了承してくれる。
いや、本当に了承してくれたかどうかは分からないんだけどね。
「あ、いた、カモネギバード!」
採取中心と言った傍から、早速見つけてしまったカモネギバード。
鳥ではあるけど飛ぶことは出来ないようで、翼を手のように器用に使ってネギを担いで走り回っている。
ただ……。
「え、なんか強くない?」
そのカモネギバード、なぜかレベルが15もあった。
いや、この辺りの適性レベル、10以下なんだけど。そんなに強くていいの?
しかも、なんか抱えてるネギが金色に輝いてるんだけど……あれはデフォルトなのかな?
『なにこいつ、カモって名前の癖に無駄に強いな』
『これだと初心者キツくない?』
『いや分からんぞ、レベルが見かけ倒しの可能性がワンチャン』
『イベントだし、初心者向けの経験値ボックスだったり……するのかなぁ』
視聴者のみんなも困惑しているようで、いまいちリアクションに困ってるみたい。
うーん、どうしようかな。
「ひとまず、ちょっとちょっかいかけてみよっか。モッフル、お願い出来る?」
「フワラ~!」
ひょいと私が地面に降りると、それを合図にモッフルが突っ込んでいく。
見た目は結構コミカルで、あんまり強そうじゃないし、視聴者のみんなが言う通りどうにかなるかも……と思ったんだけど。
「クアー!!」
「フワッ!?」
モッフルの《突進》スキル(相変わらず指示してないけど勝手に使った)を真っ向から受けて、しっかり耐えるカモネギバード。
なにこれ、普通に強くない?
「クアッ、クアッ!」
「フワフワ~!」
ド近接でぶつかり合い、凌ぎを削るモッフルとカモネギバード。
モッフルの方がレベルは上なんだけど、いまいち攻めきれてないなぁ。
カモネギバードの方もあまりモッフルにダメージを通せてないから、防御のステータスが高いのかもしれない。
「うーん、どれもこれもこの調子なんだとすると、イベントptを稼ぐの大変そうだなぁ」
うちの戦闘系の子達がいればまた別だとは思うけど、こうもしぶといモンスターを相手に乱獲同然にアイテムを集めなきゃならないのは正直厳しい。
「ポン!」
「チュー!」
「たぬ吉? チュー助も、どうしたの? ……って、あ、こら待って!」
どうしたものかと悩んでいたら、たぬ吉とチュー助の二体が戦闘の只中に飛び込んでいった。
君たち戦闘苦手でしょ! 危ないから戻ってきなさーい!
「ポンー!」
そう思った傍から、たぬ吉はカモネギバードの正面で《デコイ》のスキルを発動。分身してヘイトを集める。
当然、スキルの効果に釣られたカモネギバードは、分身を倒すべく手に持った金のネギを振りかぶるんだけど……そこで、思わぬ事態が発生した。
「ポンポンポンー!!」
なんと、うちのたぬ吉が輝きだしたのだ! 物理的に!
いや、本当に何事!?
『これ、《発光》スキル?』
『珍しいもの覚えさせてるな、クレハちゃん』
「私はこんなスキル知らないんだけど!!」
いつの間にこんなの覚えたのたぬ吉は!
と思っている間に、光を浴びて目を眩まされたカモネギバードは、怒ってたぬ吉本体を叩くべく移動を開始。
「ポンー!」
すると、今度は再び分身のたぬ吉が発光。カモネギの注意を引き付け直した。
それに釣られてまたもカモネギが動きだすと、もう一度本体が発光し……その繰り返し。
分身と本体、それぞれが順番に光ることでヘイトを押し付け合い、カモネギバードはどちらに手を出すべきか決めあぐねるように両者の間でウロウロと彷徨っている。
え、何このコンボ。強くない?
「チューッ!」
そこへ颯爽と飛び込んでいくのは、アイアンラットのチュー助。
アイアンラットとは言うけど、ぶっちゃけさほど頑丈でもない、素早さ全振りの動きで彷徨うカモネギに急接近すると……なんと、《もの盗り》スキルでカモネギの持つ金のネギを奪い取った!
『《特級桜ネギ》を入手しました』
「わあ、たぬ吉もチュー助もすごい!」
『何がすごいって、ここまでクレハちゃんただ見てただけという』
『モッフルが正面から戦って注意を引き、タイミングを見てたぬ吉がヘイト操作でループを作り、チュー助が目的のアイテムだけ搔っ攫う完璧な連携』
『これが一切の指示を受け付けないAIのランダム挙動の結果ってマジ??』
『これくらい優秀なモンスターうちも欲しいんですけどどこでテイム出来ますか』
『クレハちゃんしか飼ってないので無理です』
『クレハちゃんのモンスター有能過ぎる……』
視聴者のみんなも驚いているようで、一気にコメント欄が賑やかになる。
そして、当のネギを奪われたカモネギバードはと言えば、アイデンティティを喪失してもはやただの走るカモになったのがショックだったのか、「クワーッ!?」と大泣きしながら逃げていった。
うん、なんかごめん。
でも、今ので一応撃破扱いになるみたいだね。アイテムだけじゃなくて経験値も入ったみたいで、たぬ吉のレベルが一つ上がった。
「思ったよりカモネギバードが強くてどうしようかと思ったけど、今の感じで行けば私達でもやれそうだね」
『何がすごいって、防御高めで普通なら倒すのに無駄に時間がかかるストレスモンスターの最適攻略法を、初見一発目から暴いて配信で拡散しているというね』
『これがクレハちゃんの幸運補正か』
『モンスター強すぎ』
思わぬ展開に、盛り上がりを見せるコメント欄。
そんな光景を尻目に、私はテンション高く声を上げた。
「よーし、たぬ吉、チュー助、モッフル、この調子でがんばるよー! おー!」
「ポンー!」
「チュー!」
「フワラ~!」
拳を振り上げると、三体のモンスターもそれぞれが元気に鳴き声を上げ、追従してくれる。
さーて、今日はどこまで行けるかな!
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