第49話 朝のお茶会と新たな勝負
「へ~、じゃあティアラちゃんはその《炎鱗の勾玉》ってアイテムを狙うんだ?」
「うん、装備を作るのにすごく有用なアイテムだから……」
ついにイベントがお昼から始まるとなった日の朝。
私のホームに訪れたティアラちゃんと、二人きりでお茶をしていた。
当然と言うべきか、明日から始まるイベントで何を狙うかという話になった際、ティアラちゃんが挙げたのがその勾玉。装備を作ったりするときの素材アイテムになるらしい。
ティアラちゃんは生産職だし、やっぱりそういうの欲しくなるよね。
「それを使って、クレハちゃんの杖を作り直し……こほん、強化してあげるね」
「え、嬉しいけど……いいの?」
「うん。クレハちゃんの動画のお陰で、私も有名になったみたいで、お客さんいっぱい増えたんだ。だから、そのお礼だよ」
「あはは、それはティアラちゃんががんばったからだと思うけど……でも、ありがとう、嬉しいよ」
スイレンと一緒にプレイしたせいか、最近は視聴者数の伸び方がえげつないし……確かに、私の動画による宣伝効果もあるのかもしれない。
でもそれにしたって、ティアラちゃんに何の魅力もなければ意味がないはず。
だから、ティアラちゃんのお店が繁盛してるなら、それはティアラちゃんの実力だと思うんだよ。
それはそれとして、作ってくれるのは嬉しいからありがたく貰うけどね。
「それに……クレハちゃんが、私が作った装備以外を身に付けてるのは嫌だし……」
「うん? 何か言った?」
「ううん、なんでもないよ」
ニコニコ笑顔のティアラちゃんに、「そう?」と首を傾げる。
まあ、ティアラちゃんがなんでもないと言うなら、そうなんだろう。
「だからね、イベントの間は本気でフィールドに籠ろうと思ってるの。だから、しばらくクレハちゃんと遊べなくなっちゃうけど……ごめんなさい」
「ううん、いいよいいよ。確かにティアラちゃんと遊べないのは寂しいけど、私もがんばって上位目指すつもりだし……たまには協力じゃなくて、勝負するのも楽しいよ、きっと」
「勝負……?」
「うん、どっちがいっぱいポイント稼げるか、勝負しよ!」
せっかく順位付けがあるんだしね。トップは狙えないかもしれないけど、友達とどっちが上に行けるか競うのは楽しそうだ。
「もし勝ったら何かあるの……?」
「え? うーん、確かに賭けがあった方が面白いけど……まあ、負けた方は一つだけなんでも相手の言うことを聞くということで」
「っ……!!」
今のところ特にこれと言って思い付かないから、ド定番の賭けを持ち出してみたんだけど……なぜか、ティアラちゃんは息を呑む。
「なんでも……クレハちゃんに、なんでも……」
「ティアラちゃん? 嫌だった?」
「ううん、違うの! えっと、その……負けないからね、クレハちゃん!!」
「うん、私も負けないよ!」
まあ、私が勝った時にどうして貰うかなんて、全く思い付かないんだけど……なんとかなるでしょ、多分。
そんなことをティアラちゃんと話していたら、突然視界が誰かの手で遮られた。何事!?
「聞き捨てならないなー、クレハ~!」
「わわっ、この声、スイレン!?」
「当たりー」
手を離し、私と目を合わせるなり悪戯っ子のように笑う親友に、もう、と頬を膨らませて不機嫌さをアピールしてみる。
そしたら、膨らんだ頬を指で突かれて、ぷすん、と空気が抜けた。むにゅー。
「何するのさ、スイレン」
「私のいないところで、なんだか楽しそうな話をしてたからさー。負けた人が勝った人の言うことなんでも聞くんでしょ? 私も混ぜてよ、それ」
「えー、スイレンがいたらあっさり私達に勝っちゃいそうだしなー」
「やってみなきゃ分からないよ? クレハもフレアドラゴンをテイムしたから、戦力的には私とそう差はないだろうし。それに、ティアラもやる気みたいだし?」
スイレンに言われ、改めてティアラちゃんに目を向けると……そこには、メラメラと燃え盛る炎を幻視させるほどにやる気を滾らせるティアラちゃんの姿が。
「今度こそ負けません……クレハちゃんは私がもらいます……!!」
「ふふふ、私も負けないよ? そしてクレハもティアラも二人纏めて……ぐへへへ……」
うちのドラコよりも尚恐ろしい迫力で必勝を掲げるティアラちゃんと、なぜか気持ち悪い笑みを浮かべながら夢の世界へ旅立つスイレン。
なるほど、天国と地獄とはこういうことか。いや、ある意味地獄と地獄?
とんでもない別世界に挟まれることになった哀れなる子羊(私)は、もはや嵐が過ぎ去るのを待つように縮こまるしかないよ。どうしてこうなった。
「あ、ところでクレハ」
「うん? 何?」
「今日はクレハのモンスター達の姿が見えないけど、もしかして全員探索に出てる?」
「そうなんだよねー。最近はみんな、やたらと熱心に探索に出てくから、フィールドワークほとんど出来てないよ」
「それ、イベント大丈夫なの?」
「あはははは、わかんない!」
これでもかと胸を張りながら、開き直るように笑い飛ばす。
いや本当、イベントに向けてフィールドワークを増やそうと思ってたのに、みんな全然私と一緒に出掛けてくれないんだよね。
レベル差あるから多少は仕方ないにしても、もう少し一緒に遊ぼうよ。私寂しいよ。
なぜか、探索しかしてないのにみんなすごいレベル上がってるし、アイテムも山盛り持って帰って来るから、別にいいと言えばいいんだけどさ。
「……あ、そんなこと言ってたら帰ってきたみたいだね」
「ふにゃ?」
特に意味なく威張っていた私の顔をふにふにと弄んでいたスイレンが、不意にホームの入り口を見て呟く。
目を向ければ、確かにそこにはたぬ吉とチュー助、それにモッフルの姿が。
「おー、お帰りー、待ってたよー!」
いやー、このままだとイベント中もずっとお留守番になるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ。
戦闘系の子が誰一人いないままなのはどうかと思うけど……まあ、モッフルは戦えないこともないし、あまり強い敵にちょっかいかけなきゃ大丈夫でしょ。
「よーし、これでちゃんと勝負出来るね。二人とも、負けないよ!」
「にひひ、こっちのセリフだよ」
「私も……今回ばかりは、クレハちゃんにも譲らないから……!」
こうして私達は、それぞれの力で今回のイベント、『春の大収穫祭』に挑むのだった。
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