第51話 不幸少女と炎の龍
私の名前はティアラ。自他共に認める不幸体質の生産職です。
何を作っても不良品ばかり、レアアイテムを素材にしても呪いの装備が出来上がってしまう私は、以前までは誰一人としてお客さんの寄り付かない、ダメダメな子でした。
でも、そんな私もクレハちゃんと出会って、毎日がすっかり様変わりしたんです。
誰も欲しがらないけど、狙ったから作れるわけでもない呪い装備を量産出来る存在は珍しいと、TBO最強剣士のゼインさんからギルドに誘われたり。
まだ誰も攻略していない隠しエリアを踏破するメンバーに、名前を連ねることが出来たり。
以前の私からしたら、夢のような日々。
それもこれも、全部クレハちゃんのお陰だから。
そのお礼に、イベント限定のアイテムを使った新しい装備をプレゼントしようと、そう思ってソロでイベントに挑んだんだけど……。
「私一人じゃ、無理だったのかな……」
私が今いる場所は、《深淵の樹海》エリア。第二の町のすぐ近くにあるレベリングスポットです。
そこで私は、ネギやカボチャ、トマトなど色とりどりの野菜を抱えたカモネギバード複数体に囲まれてしまいました。
元々戦闘が苦手な私は、採取を中心にptを稼ぐつもりで……こうならないために、こまめに相棒のルビィに《探知》を使って貰っていたんだけど、限界があったみたい。
草むらの陰から飛び出したカモネギバードに苦戦している間に、次から次へと集まってきてしまったのだ。
しかも……集まってきたカモネギバードの中に一体、金色の野菜を抱えた個体もいる。
あれはどうも、このイベント中に出るユニーク個体みたい。
倒せば確定で特級の野菜が貰えるけど、その分強さも桁外れ。私に勝てる相手じゃない。
クレハちゃんが開始早々いきなり出くわした以外はまだほとんど目撃情報もないって話だったのに、どうしてよりによって私の前に……。
「普通なら、ラッキーって喜ぶところなんだろうけどなぁ……」
この場にクレハちゃんがいたなら、きっと簡単に切り抜けられた。
でも、今は私一人しかいない。私も、私の相棒のルビィも戦闘はほとんど出来ないし、こういう時の時間稼ぎとして役立つ《フレアサークル》のスキルでも、この数を相手にしてはどうしようもない。
「やっぱり、私は今もダメな子だ……」
クレハちゃんと出会って、変われたと思った。でも、やっぱり今でも私は、一人じゃ何も出来ない。
この状況を切り抜ける手段だって、思い付くのは通りすがりの凄腕プレイヤーが助けてくれないかな、とか、そんな他人任せなものばかり。
でも、他人の戦闘に介入するのはマナー違反だ。期待するものじゃないし、しちゃいけない。
「ごめんねルビィ、私のわがままに付き合わせちゃって……」
「コン……」
クレハちゃんと一緒にいる中で強くなったと思い上がって、戦闘職でもないのに適正レベルギリギリのこんなところまで来てしまった。だから、ここで死に戻るのは当然の結果だと思う。
クレハちゃんやスイレンさんとの勝負をこんなところで投げ出すのは、二人に申し訳ないけれど……元々、私みたいな落ちこぼれが二人と競おうなんて無理な話だったんだ。
「クアァ!!」
木に寄りかかって縮こまる私達へと、カモネギバード達が迫ってくる。
痛みはないと分かっていても、やっぱり一方的にやられるのは怖い。
ルビィを抱き締め、ぐっと目を瞑りながら死に戻りの時を待ち──
「ゴアァァァ!!」
突如として、大気を震わせる咆哮が轟く。
一体何事かと目を開けて、声がした上空を見上げれば……そこには、深紅の鱗を持つドラゴンがいた。
「あれって……もしかして、クレハちゃんの……?」
「ゴアァッ!!」
私がその正体に気付くのと同時、クレハちゃんのドラゴン……ドラコは、その口から無数の炎を吐き出し、地上を焼き払う。
空の上から広範囲を一度に薙ぎ払う攻撃スキル、《バーニングバスター》。
その攻撃をまともに受け、カモネギバードの群れはみんな纏めて吹き飛ばされていた。
「す、すごい……」
その余りにも圧倒的な光景に、私は開いた口が塞がらない。
クレハちゃんは私よりも初心者で、プレイヤー本人のレベルもステータスも私よりずっと低い。むしろ、全プレイヤー最弱だ。
なのに、今はもうこんなにも強いモンスターを従えて、私じゃどうにも出来ない敵をあっさり撃滅してしまう。
なんだか、急にクレハちゃんが遠くに行っちゃったような、そんな寂しさを覚えていると……ふと、そこでカモネギバード達がみんな瀕死になりながらも、一体も倒されていないことに気が付いた。
「なんで……あ、そうか。あのドラコはクレハちゃんが連れてるわけじゃなくて、探索中なんだ……」
このゲームは、他のプレイヤーが探索に出したモンスターと出会うと、モンスターを介して交流することが出来る。
その中に、戦闘中に出会うと助太刀してくれる、お助けシステムもあるんだ。
あくまで、スキル一発だけの支援。それも、決してトドメは刺さず、必ず体力が1は残る。
テイムしようとしているプレイヤーのところに介入してトドメを刺してしまい、余計なトラブルを起こさないためのシステムなんじゃないかと言われているけど……私には、ドラコからの、そしてクレハちゃんからのメッセージだったんじゃないかって感じられた。
そんなところで腑抜けてないで立ち上がれ、ちゃんと戦え、って。
「……そうだよね。忘れるところだった」
ドラコと戦った、《業火の坩堝》エリア。そこでクレハちゃんが口にした言葉を思い出す。
──失敗したら、何度だってやり直せばいいんだよ。だってゲームだもん、それが許されるのがこの世界だよ? そうやって何度も挑んで失敗して、一緒に目的に近付いていく時間を楽しむのが、ゲームの醍醐味ってものじゃないかな?
──大丈夫大丈夫、ダメでも本当に死ぬわけじゃないんだから、全身全霊で当たって砕けよう! きっとその方が楽しいよ。
「私は、まだやれる……! やろう、ルビィ!」
「コン!」
失敗したと嘆くには、まだ早い。死に戻ってすらいないのに諦めるなんて、クレハちゃんに顔向け出来ない。
だから、散々お膳立てされた後で情けないけど、私は全力でカモネギバード達に挑みかかった。
敵の体力はたった1。でも、私もルビィも打たれ弱いから、油断すればあっという間に死に戻るギリギリの戦い。
一生懸命アイテムを使って、スキルですらない通常攻撃で一体ずつ倒していって、そして……。
「クアァ……」
ついに、ユニーク個体を含む全てのカモネギバードを倒した。
「はあ、はあ……やった、やったよルビィ!」
「コン!」
全てが終わり、私はルビィと喜びを共有し合う。
あんまりカッコいい戦いとは言えなかったけど、それでも最初の一歩としては十分だと思う。
私は、ここから始めるんだ。
生産職だからって弱さに甘えたりしない、クレハちゃんと肩を並べられるくらい強い私を!
「その、ドラコもありがとう。これ、クレハちゃんにお礼」
そんな私の戦いを最後まで見守ってくれていたドラコへ、手に入ったばかりの《特級桜ネギ》を渡す。
今回はドラコが……クレハちゃんの支援があったから勝てた。
だから、これはクレハちゃんが受け取るべきものだと思う。
「ゴアァ」
そうして桜ネギを受け取ったドラコが、返礼として私にくれたのは《アークミノタウロスの髑髏》だった。
……これ、この樹海エリアのフィールドボスだけど、もしかして探索中に撃破してたりする?
いや、まさかね……。
「ゴアァッ」
更にそれでは留まらず、ドラコは私のルビィにスキルを伝授してくれた。
《バーニングフレア》……さっき使った《バーニングバスター》の単発版。超強力な炎属性のスキルだ。
「本当に、ありがとうドラコ。私、一生懸命がんばるから……だから、クレハちゃんによろしくね!」
「ゴアァァァ!!」
任せろと言わんばかりに吼えたドラコは、そのまま空へと飛び立っていく。
それを見送った私は、その場でぐっと拳を握り締める。
「よーし、やるぞー……おー!」
気合いを入れ、ひとまず今後の方針を練り直す。
取り敢えず、ドラコがくれたこのアイテム、装備品に使えるし……これを元に、何か自分用に作ろうかな?
それに、今の戦闘でルビィのレベルもぐっと上がったから、もしかしたら進化も……。
「え……」
そう思ってルビィのステータスを見た私は、その進化先に思わぬ選択肢が生えていることに驚いた。
ルビィの種族はファイヤーフォックス。その進化先は、バーニングフォックスという……一言で言えば、子狐のルビィを成長させたようなモンスターになるはずだった。
でも、今のルビィの進化先には、バーニングフォックスともう一つ。
《九尾狐》の名前が輝いていた。
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