第41話 ドラゴンの猛威と宝箱
さて、目の前にいるのはめっちゃ強そうなドラゴンが一体。
それに対して、私が何をすればいいかと言えば……
「ゴンゾー、任せた!!」
「ブモォォォ!!」
モンスターに託して逃げ回るだけだ。
だって、何も出来ないからね!
「ゴアァァァ!!」
突っ込んでいくゴンゾーに対し、ドラゴンは雄々しく咆哮。真っ向から迎え撃つ。
《突進》スキルの効果で強化されたゴンゾーの体当たりが、ドラゴンの頭と激突し──
「ブルォ!?」
ゴンゾーの方が押し負けた。
「うっそ、ポチでもあっさり弾き飛ばされた攻撃なのに!?」
なまじあの威力を目の当たりにした上で仲間にしたからこそ、余計にその衝撃は大きかった。
「クレハは下がって! ティアラは援護お願い!」
「は、はい!」
せっせと距離を取る私と入れ替わり、スイレンとティアラちゃんが前に出る。
とはいっても、ティアラちゃんは私と同じく本人はあまり戦えないから、メインはルビィだけど。
「いくよ、《応援》! ルビィ、《デコイ》!」
「コンッ!」
ティアラちゃんのスキルでルビィが強化され、炎が大きく揺れ動く。
それに合わせて産み出された分身は、全部で五体もいた。
たぬ吉と同じスキルだけど、作れる分身の数が全然違うね。これも《応援》スキルの効果なのかな?
うーん、魔力不足で全然スキルが使えないんだけど……そっちもどうにかならないか、今度ティアラちゃんと話し合ってみようかな。
「ゴアァ!!」
明後日の方向に飛びかけた意識を、ドラゴンの声が引き戻す。
チョロチョロとドラゴンの周りを動き回るルビィのデコイ目掛け、振り下ろされる大きな前足。
鋭い鉤爪が地面もろともデコイを吹き飛ばし、衝撃によって周囲の数体が纏めて消されてしまっていた。
うわぁ、あれ喰らったらゴンゾーくらいしか耐えられないかも。すっごい威力。
「ナイス! 行くよスカイ、《ホーリーフラッシュ》! そして《サンダーボルト》!!」
ティアラちゃんとルビィの力で意識が逸れたドラゴン目掛け、スイレン達の得意技が炸裂する。
光と雷の合わせ技がドラゴンの体へ直撃し、激しいエフェクトが撒き散らされ──
「ゴアァァァ!!」
何の痛痒も感じないとばかり、ドラゴンはスイレンに向けてガパリと口を開く。
同時に、口内に真っ赤な炎が渦を巻き始めた。
「これはヤバそうだね、スカイ、《飛翔》!!」
「ブルル」
スカイが翼を広げ、スイレンと共に空を飛ぶ。直後、スイレン達がいた場所を薙ぎ払うように、紅蓮の炎がドラゴンの口から放たれた。
轟々と燃え盛る炎の勢いは凄まじく、距離を置いた私にまでその熱気が伝わってくる。
ひえぇ、鉤爪もヤバいと思ったけど、これはそれ以上かも。
とてもじゃないけど、まともになんて受けてられない。
「ブモォォォ!!」
けれど、そんな攻撃への恐怖なんてなんのその、うちのゴンゾーは真正面からドラゴン目掛け突っ込んでいく。
さっき弾き返されたばかりなのに、流石に無理があるんじゃ!?
「ルビィ、《フレアサークル》!」
そんな私の心配を汲み取ってくれたのか、すかさずティアラちゃんが援護に回った。
周りを炎の壁で覆うだけのスキルだけど、それによってゴンゾーの姿が隠れ、ドラゴンが反応出来ないでいる。
「ブモッ!!」
「ゴアァ!?」
無防備なドラゴンの横っ腹に、今度こそゴンゾーの《突進》が突き刺さる。
ゴリッ、と減少した体力ゲージに合わせてたたらを踏んだドラゴンへ、再度スイレンが急接近していく。
「チャンス! 私のとっておき、いかせて貰うよ」
スカイの上で、カッコよくくるりと杖を回転させるスイレン。
すぐさま魔法の発動準備に入り、上空に黄金色の魔法陣が展開されていく。
「《サンダーフォール》!!」
魔法陣から放たれるのは、雷の滝。
黄金の雷光がバケツをひっくり返したような勢いでドラゴンの頭上へと降り注ぎ、その真っ赤な体を打ち据えていく。
「よーし、幸先良いね!」
こちらは大した被害もなく、大ダメージを与えることに成功したスイレン達。
けど、ドラゴンも流石はボスモンスターと言うべきか、これだけやったのに、まだ体力の半分も削られていなかった。
「ゴアァァァァ!!」
「うおっと!?」
ドラゴンが空中のスイレンに向け、炎のブレスを吐き出す。
それを回避しつつ、スイレンはスカイを地上に降ろすんだけど、今度はそれと入れ替わるように、ドラゴンが翼を広げて上空へと舞い上がった。
「うわ、やっぱ飛ぶんだ。これは厄介だね」
空という絶対的に優位なポジションから、私達を悠々と見下ろす真紅の王者。
そして当たり前と言うべきか、空に浮いた状態のままガパリと口を開き、次々と炎の塊を地上の私達目掛け放って来た。
「あわわわ!?」
「ティアラちゃん、大丈夫!?」
「だ、だいじょうぶ!!」
スイレンはスカイの機動力もあってスイスイと躱すけど、ルビィを抱えたティアラちゃんは少し危なっかしくて、このままだと攻撃を受けてしまうんじゃないかと心配になる。
え、私? 思いっきり後ろまで逃げてるから全然へっちゃらだよ!
『うーん、流石ドラゴン、シンプルに強いな』
『アイテムなしの状態だと下手に被弾したらそのまま終わりそうだし、キツイねえ』
『スイレンのペガサスなら回復もあったけど、数少ない攻撃要員だから回復に魔力割けないしな』
『スイレンの魔法でもあまり一気に削れてないから手数は減らせない』
『大技使うには隙も大きいし、動きを把握しきれてない状態じゃ厳しいか』
ドラゴンの能力を前に、視聴者のみんなも厳しい見込みでいるみたい。
ティアラちゃんの援護の下、スイレンとゴンゾーが暴れている現状。こうしてドラゴンが空を飛べると分かったからには、もう一押し何か決め手が欲しいってところかな。
それなのに、二人が一生懸命戦ってくれてる中、言い出しっぺの私がこうして後ろの方でじっとしてていいのだろうか?
……いいわけないよね!
「とはいえ、私に出来ることは本当に何もないしなー……」
スキルは使えない、指示は出しても出さなくても変わらない。
そんな私に出来ることがあるとすれば、ドラゴンを観察することだけ。
せめて何か弱点の一つでも見付けられないか、と空を飛ぶドラゴンを眺めていると……ふと、気になることを見付けた。
「そういえばあのドラゴン、空飛んでるのにあまり最初の位置から動いてないような」
空を飛んでるんだから、もっとこのボス戦エリア全体を飛び回った方が攻撃を喰らいにくいはずなのに、飛んでるだけでほとんど移動しない。攻撃が来ても、多少の回避行動を取るだけだ。
そりゃあ、完全に逃げに徹するボスなんて相手にしてもつまらないし、空の上で回避行動を取られるだけでも十分厄介なんだけど……それにしたって、ただ浮くだけなんてちょっとカッコ悪いし、何か他に理由が……。
「……そういえば、エリアの奥にある宝箱、そのままだね」
ここに到着してすぐに見付けた、私達の目的でもある宝箱。それは、戦闘が始まった今も尚、ばっちりそこに鎮座したままだった。
もしかしたら、あれがあそこにあるからドラゴンも動かないのかな?
「あの宝箱の中に、何かドラゴンの討伐に役立つものが入ってたりするかも。よーし、そうと決まれば!」
「あ、クレハちゃん!?」
ティアラちゃんの驚いた声を振り切って、私は走り出す。
もしかしたら、本当にただそこにあるだけの演出なのかもしれないけど、どうせ私には他にやることなんてないし。
だったら、試せることは全部試さなきゃ!
「ゴアァァァ!!」
「わわわ!?」
走る私の目の前に着弾した炎を見て、慌てて足を止める。
ドラゴンも、何もしてない私を好き好んで狙うようなことはしてないけど、私の撃たれ弱さじゃ今みたいな流れ弾であっさり死んじゃう。気を付けなきゃ。
……いや、同じことか。
「ええい、女は度胸だ! うりゃーー!!」
敏捷値も低い、リアル反射神経も大したことない私が、気を付けたところでドラゴンの攻撃を躱せるわけない。
だったら、覚悟を決めて一直線。最速最短で宝箱を目指す方がまだマシだ!
「ちょ、クレハ!? それは流石に無茶だって!!」
「ゴアァ!!」
ドラゴンの攻撃を回避していたスイレンから、そんな忠告が飛ぶと同時。突然、ドラゴンが私の方を見た。
いやいや、流れ弾はまだしも、そんな風にガッツリ狙って来るなんて想定外だよ!?
あ、ちょ、ブレスはダメ! 私骨も残らないから!! いや、ゲームで骨なんてないんだけど!!
「ブモォォォ!!」
「うひゃああああ!?」
すると、ドラゴンのブレスが私へ降り注ぐより早く、ゴンゾーが後ろから思い切り体当たりをぶちかましてきた。
いや、これは単に移動してたゴンゾーに私が轢かれただけ、なのかな? 勢いと体格差のせいで弾き飛ばされたけどダメージはなく、私はギリギリのところでブレスの影響範囲から逃れることが出来た。
「ブモォ……!」
「ゴンゾー!」
代わりに炎に呑まれたゴンゾーがダメージを受け、その体力ゲージを大幅に減らす。
元々、スイレンが対峙した瞬間に撤退を選ぶくらい頑丈だったモンスターだからか、どうにか一撃耐えることは出来たみたいだけど、流石に二度目はなさそうだ。
でも、そんなゴンゾーの決死の行動のお陰で、私はもう宝箱の目の前にいる。
「さーて、鬼が出るか蛇が出るか、はたまた何も起こらないのか。どうなるかな……!」
大急ぎで、私は宝箱に手をかける。
そのまま、思い切り開けようとして……!
「ちょ、これ開かないんだけど!!」
『いや、それは流石にねw』
『今開いたら困るというかなんというか』
『ボス倒したご褒美だからな、そういうのは』
「ぐぬぬ」
それじゃあここまで頑張って接近した意味がないじゃん。と、思わず溜息を吐きそうになった私だけど、そんな悠長に構えている暇はなかった。
なんと、ドラゴンが一直線に私目掛けて突っ込んで来たのだ。
「ゴアァァァ!!」
「ちょっ、えぇ!?」
「クレハ!!」
突然の事態に全く反応出来なかった私の下へ、スカイに乗ったスイレンが飛び込んで来た。
地面を這うような滑空で私の体をかっさらい、ドラゴンの鉤爪を回避。そのまま、大急ぎで距離を取る。
「全く、無茶するねクレハ! というか、そういうことするならせめて一言相談からね!!」
「ごめんごめん! なんというか、この宝箱にギミックか何かあるのかな、と思ってさ!」
「まあ確かに、ボスを倒したご褒美なら、最初からそこにあるのはおかしいとは思ったけど……って、ちょっと待ってクレハ」
「え?」
「なんで宝箱抱えたまま移動出来てるの?」
「あっ」
スイレンに言われて気付いたけど、私は宝箱を開けようとした状態のまま助けられたせいで、宝箱を持ったままスカイの背に乗せられていた。
これ、持ち運べたんだね。こんなに大きいのに。いや、私が小さい?
どっちにしろ、開かない宝箱を持てたからなんだって話なんだけどさ。
「ゴアァァァ!!」
「ちょっと待って、なんかドラゴンがめちゃくちゃ私達を追って来てる!?」
宝箱のことは置いといて、なんだかドラゴンがすごい血眼になって私達を追って来てるのが凄く怖い。
急になんなの!?
「あー……その宝箱、開けられないけど持ち運べばボスドラゴンのヘイトを集める効果があるんだね」
「な、なるほど。ってことは、これ早く元の場所に戻した方がいいの?」
「いや、そのままクレハが持ってて」
ただ狙われるだけの箱なんて、私が持ってたらすぐにやられておしまいだ。
そう思ったんだけど、スイレンはそんな私を見て、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「ヘイトの完全なコントロールが出来る
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