第38話 不意打ちと転移罠
リザードマンによる攻撃と、罠による不意打ち。
それら二つの要素に悩まされ、少しずつ消耗しながらも攻略を進めていく。
そんな中で、ちょっとした事件が起きた。
「きゃあ!?」
「ティアラちゃん!?」
リザードマンとの戦闘の合間、索敵と索敵の隙を突いて、ここまで鳴りを潜めていたマグイールが再出現した。
溶岩を突き破って現れた大ウナギに、ティアラちゃんが襲われる。
やばっ、助けなきゃ!
「ピーたん、お願い!」
「キュオォ!!」
私の声に反応してか、即座にピーたんが《サイクロン》のスキルでマグイールを迎撃してくれる。
相変わらず指示になってない指示に反応してくれたうちの子にありがたさを実感するも、スキルの余波がティアラちゃんにまで影響を及ぼす。
「わわわっ!?」
ダメージはないけれど、風に押されてティアラちゃんが少し吹き飛ぶ。
それだけなら、後で少し謝れば済むだけの話だったんだけど……事はそれだけで終わらなかった。
「ちょっ、そっちはヤバイ!!」
何かに気付いたスイレンが、唐突に慌てた声を上げる。
一体何事かと思ったけど、私もすぐにその理由に思い至った。
ティアラちゃんが飛んで行った先に、さっき索敵で見つけた罠がある!!
「え……え……?」
転がっていった先で、カチリとそのまま起動する罠。
その瞬間、ティアラちゃんとルビィが忽然とその姿を消してしまった。
「ティアラちゃん!? えっ、何が起こったの!?」
『あちゃー、よりによって転移罠踏んだか』
『このエリアのどっかにランダム転送する罠』
『生産職とか支援職がこれ踏んだらほぼ確殺だからめっちゃ害悪なんだよな……』
なにその罠、理不尽過ぎない?
「しかも、場合によっては転移先にモンスターハウス……やたら大量のモンスターが待ち構えてるパターンもあるんだよね。もしそうなったら……」
ティアラちゃんじゃ助からない、と。
よし、それなら!
「スイレン、私行くね!!」
「え、行くってまさか……」
「ティアラちゃんのとこ!! スイレンはマップ見て私達のところまで来て!」
「いや、だからその罠ランダム転移で……! クレハなら一発で引けるかもしれないけど」
『異様に運のないティアラちゃんのことだし、モンスターハウス引いてそうなんだよな……』
『モンスターハウスの中突っ込んだら、クレハちゃんも二の舞になるだけでは?』
みんなからストップをかけられるし、実際その通りだとは思う。
私が転移すればピーたんもついてくるとはいえ、私自身は貧弱な料理人(?)でしかない。戦闘出来ない以上、何ならティアラちゃんの足手纏いになる可能性だってある。
それでも……ティアラちゃんが危ないかもしれないなら、ここで動かない選択肢なんて私にはない。
「行くよピーたん!! とりゃー!!」
「キュオォ!!」
「もうしょうがないな、イチかバチかなら私も付き合うよ、よいしょ!!」
躊躇なく地面に露出した罠を踏み抜いた私に付き合って、スイレンまで一緒に転移してくれた。
一瞬の浮遊感の中でそれをありがたく思いつつ、目を開けると──
「……おおぅ」
目の前には、山のようなリザードマン達がいた。
うん、団体さんだねー。
「ク、クレハちゃん!? どうしてここに……!」
そして後ろには、いましたよティアラちゃんが。ルビィを抱きかかえ、モンスター達に怯えるように縮こまっている。
傍らにはピーたんだけ、残念ながらスイレンはいない。
当然ながら、目の前のリザードマン達は臨戦態勢。とても見逃してくれそうな空気はなし。
となれば、やることは一つ!
「当然、ティアラちゃんを助けに来たんだよ。さあ、逃げるよ!」
「ひゃわ……!?」
ティアラちゃんの手を取って起き上がらせ、走り出す。
転移したその場所は小部屋のようになっていて、出入り口は一つだけ。その周りをリザードマン達が固めている形で、全員突破しなきゃ脱出は不可能。
私に戦闘力なんてないけど、やれるだけ足掻いてみせる!
「とりゃあーー!!」
ひとまず、インベントリからありったけの回復薬・毒を取り出し、適当にばら撒く。
ただでさえノーコンなのに一気に投げすぎて、ほとんどはそこらへんの地面や壁に当たって無駄に終わったけど……いくつかはしっかりと前に立ちはだかるリザードマン達にヒットする。
「グギャッ!?」
「ギャッ、ギャウゥ……」
「グギギギ……!」
麻痺、睡眠、移動不可、攻撃不可。そういった状態異常によって、過半数のリザードマンが一時的に行動不能に陥る。
残るリザードマンは五体。うち二体は毒状態で、残る三体はそもそもポーションが当たらなかった。
そんな五体が立ちはだかる場所へ突っ込んでいく私達を追い越すように、ピーたんが空中から突撃していく。
「キュオォ!!」
ピーたんの鋭い鉤爪がスキルによって強化され、リザードマン達を切り裂く。
ダメージとそれに伴うノックバックで、二体のリザードマンが押しのけられ、道が開いた。
「グギャア!!」
強引に突破しようと走る私達へ、横からリザードマンが襲いかかって来る。
ティアラちゃんを狙ったその攻撃は、私自身の体を盾にして防御。《不死の加護》で一度だけ耐える。
「ギャギャア!!」
でも、二体目はどうしようもない。
ピーたんは攻撃のために離れた直後だし、不死の加護だってCTがある。
どうしようかと迷っていると、リザードマンは私達へ向けて持ち前の爪でひっかこうとした刹那、その動きを不自然に硬直させた。
よく見れば、さっき適当にばら撒いたポーションの一部が、リザードマンの足元で水たまりを作っている。どうやら、それを踏み抜いてデメリット効果が発揮されたみたいだね。
こんなこともあるんだ、と、麻痺状態になったリザードマンの横を抜け、更に前へ。
もはや出口は目と鼻の先というところで、ついに最後の一体が立ちはだかった。
「流石に、これ以上は……!!」
期待すべき奇跡はもうない。それでも、運よく攻撃が当たらない可能性を信じてひたすら前へと足を進める。
そんな時、背後のティアラちゃんが声を張り上げた。
「ルビィ、《フレアサークル》!」
「コンッ!!」
ティアラちゃんが抱えていた火狐から放たれた炎が、私達とリザードマンの前で炎の壁を生成、一瞬だけその視界を遮った。
このエリアの敵はあまり炎が通じないんだけど、それでも足止めとしては十分だ。
「ナイスティアラちゃん! よし、今のうちに行くよ!!」
「う、うん……」
少しだけ覇気のないティアラちゃんの声を聞きながら、私はとにかく足を動かし続けて。
どうにかこうにか、モンスターハウスからの脱出に成功するのだった。
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