第37話 再攻略と一撃必殺

 料理の力で業火エリアを突破しよう、という、我ながら全力で運任せな提案は、なぜか満場一致で受理された。


 聞くところによると、レアアイテムを使ったバフ料理の成功率は、概ね5%程度。

 その上で狙った効果を引き当てるとなれば、もはや1%が生易しくなるほどの低確率だろう。


 そんな状況で、今手元にある料理に使えるレアアイテムは、マグイールから引き当てた《炎鰻の砂肝》ただ一つ。正直、一人くらいは『無理ゲー』とか言い出すかと思ってたんだけど。


 そんなわけで、スイレンやティアラちゃん、そして視聴者のみんなが静かに見守る中、料理した結果──


「さーて、リベンジ行くよー」


「お、おー!」


 無事私の料理で知力がバフされたスイレンを先頭に、私達は再び業火エリアへと足を踏み入れていた。


 元気良く拳を振り上げるティアラちゃんにほっこりしつつも、私はこの展開にはなんとも言えない微妙な気分を味わっている。


 いや、うん、私も運だけが取り柄だから、きっといけると思って提案したよ?

 でもこう、私ですら多少は失敗するかと思ってたし、もし万が一成功したらやべー! ってなるかなって期待もしてたんだよ。


『まあクレハちゃんだしな』

『運勝負最強』

『崇めろ、女神だ!!』

『クレハちゃんカワイイヤッター』

『カワイイヤッター』

『ヤッター』


 それがこの反応である。解せぬ。

 というかなんで崇め方がやったーなのさ、おかしいでしょそれ!


「あ……ふ、二人とも、来たよ!」


 そんな風に悶々としていると、早速ティアラちゃんがルビィの索敵によってマグイールを発見したらしい。

 マップ上に表示された赤点の一つが、明らかに私達を狙うように動き始めた。


 それに対して、待ってましたとばかりにスイレンが杖を構える。


「ふふふ、さっきはいいようにしてやられたからね、今度こそクレハの前で出来る先輩なとこ見せてあげるよ!」


「ギャオォォォ!!」


 溶岩を突き破り、姿を現した巨大鰻。

 マグマの熱で黒く炭化した表皮をくねらせ、間近にいるスイレンへと猛然と襲い掛かり、そして。


「《サンダーボルト》!!」


 スイレンお得意の雷が、マグイールに直撃。その一撃で綺麗に体力ゲージをぶっ飛ばし、見事逃げられる前に撃破することに成功していた。


「おおー! やったねスイレン! これでさっきみたいに囲まれずに進めるよ!」


「クレハの料理のお陰だよ、またご馳走してくれる?」


「うん、もちろん!」


 ここの攻略に必要だからね。


「よっし気合入ってきたぞー!!」


 私が頷くと、スイレンはやる気を漲らせてずんずんと先へ進んでいく。


 やっぱりスイレンも、ここを踏破したら手に入るっていう財宝は気になるのかな。

 この調子で頑張って欲しいところだ。


「むむむ……わ、私もがんばらなきゃ……! クレハちゃんのご飯、私だって……!」


 そんなスイレンに触発されてか、ティアラちゃんもメラメラとやる気の炎を瞳に灯し、ルビィの索敵と並行しながらピッケルを抱えてエリア中を駆け回っている。


 溶岩の熱にも負けないその気合に、私も負けてられないなと鼻を鳴らす。


「よーし、ピーたん、やるよ!」


「キュオォ」


 私の言葉を受け、今回連れてきた相棒のピーたんが翼を羽ばたかせる。


 私の指示も待たず高度を上げたピーたんは、そのまま勢いよく溶岩に向けて急降下し……って、ええ!?


「ピーたん、何してるの!?」


「キュオォ!!」


 驚く私を余所に、発動するのは《切り裂く》のスキル。

 さっき食べた料理のバフで威力の上がったその攻撃は、溶岩の下に隠れていたマグイールを直撃、そのまま空へと引っ張り上げる。


「おお、ナイス! 今だよスカイ、《ホーリーフラッシュ》!!」


「ブルルッ」


 上空に吊り下げられたマグイールに向け、スカイの角から放たれる一発の閃光。

 それがピーたんの攻撃で弱っていたマグイールに直撃し、見事打ち倒してみせた。


 ……わーお、すごい連携。


『マジか、鳥系モンスターだとこんなこと出来るのか』

『はえー知らんかった。今度指示してみようかな』

『カモメが海面近くの魚を捕って食うようなもんなのかな……』

『海じゃなくて溶岩だけどな。カモメじゃなくてハヤブサだし』

『つか相変わらずクレハちゃんとこのモンスターが有能過ぎる』

『その動きに合わせたスイレンの連携攻撃も見事』

『もうこいつ(以外)だけでいいんじゃないかな』


「ねえ、そのこいつってもしかしなくても私のことだよね!? いい加減泣くよ!? 私泣くからね!?」


 おかしい、同じように(?)テイムしたモンスターが活躍してるのに、スイレンは褒められて私は褒められない。


 ぐすん、いいもんいいもん、私には料理があるもんねーー!!


「な、泣かないでクレハちゃん、私はクレハちゃんと一緒にいられるだけでとっても楽しいから!」


「うぅ、ありがとうティアラちゃん、私の味方はティアラちゃんだけだよ!!」


「ふえぇ!?」


 感極まって抱き着くと、ティアラちゃんは陸に打ち上げられた魚のように口をぱくぱくさせながら手をバタつかせる。


 強く抱き締め過ぎて苦しかったのかな? と思って少し離れると、途端にシュンと名残惜しそうな顔をされてしまったので、もう一度抱き締める。


 すると、今度は固まったまま動かなくなってしまった。うーん、なんというか、コロコロ反応が変わって面白くなってきたよ。えいえい。


『クレハちゃんがティアラちゃんで遊び始めた件』

『これは遊ばれてるティアラちゃんを哀れむべきなのか、良かったねと言うべきなのか』

『本人嬉しそうだからいいんじゃね?』

『取り敢えずてえてえって言っとけばいいんだよ!!』

『てえてえ』

『カワイイヤッター』

『ここでもそれ使うのか(困惑)』


 ほっぺをつついたり頭を撫でたりしてたら、コメント欄が騒がしい。


 流れが早くてほとんど目で追えないけど、まああまり遊び過ぎてもスイレンに悪いし、早く先に進もう。


 ……と思って振り向いたら、当のスイレンも私達の方を見てスクショを連写してた。

 いや、遊んでた私が言うのもなんだけど、マグイールの方は大丈夫なの?


 えっ、ピーたんが全部順番に炙り出してくれたからこの近くのマグイールは片付いたって?

 うん、視聴者のみんなじゃないけど、うちの子優秀過ぎない?


「さて、クレハの可愛いコレクションも増えたし、ここからサクサク行くよー」


「待って私のコレクションって何」


 非常に気になる一言が飛び出たので追及してみるも、ひらひらと躱されて全く取り合って貰えない。


 そんなバカみたいなやり取りを挟みつつも、攻略は順調に進む。

 マグイールの群れを突破し、次のエリア。


 すると今度は、水陸両用ならぬ溶陸両用? なフレアリザードマンというトカゲ頭の人型モンスターが現れた。


 これはレベル15で、マグイールより強いは強いんだけど……厄介かというとそうでもない。


 溶岩の中にいても平気というだけで、別にずっとそこで潜んでいるわけでもなく、戦う時はきっちり陸上。マグイールみたいに仲間を呼んだりもしないから、スイレンとスカイ、ピーたんで楽に各個撃破出来る。


 とはいえ、じゃあ楽に攻略出来るかというとそんなこともなかった。


「あ、クレハ、そこダメ!!」


「えっ」


 カチッ、と。

 私が踏み抜いた地面から、スイッチのような音が響く。

 一体何事かと思った直後、私は地面から突然噴き出した煙に呑み込まれてしまう。


「きゃわー!? な、なにこれ!? げほっ、げほっ」


「罠だよ、早くこっち来て!」


「ク、クレハちゃん!」


 心配する二人の声を頼りに、大慌てで煙から脱出する。

 もう、なんでこんな山の中に、明らかに機械的な罠があるの!? おかしくない!?


「大丈夫? どこかステータスに異常は!?」


「あはは、ひとまず大丈夫だよ。……あー、魔力が空っぽになってた」


 大慌てで残り僅かなポーションを準備するティアラちゃんを宥めつつ確認すると、私の魔力ゲージがゼロになっていた。


 まあ、私は元からテイムしか使えないし、大して痛くないね。


『クレハちゃんが真っ先に罠踏むとか何事かと思えば実質無傷で草』

『針山とか毒ガスだったら即死だったもんな』

『不幸中の幸いというか』

『むしろ踏んだのがクレハちゃんなのが運が良いな』


「踏んだ時点であんまり良くはない気もするけど、まあ確かに」


 これを踏んだのがスイレンやモンスター達だったら、大分痛かったところだしね。

 そういう意味では、確かにラッキーかも。


「このエリアは罠があるって分かったことだし、ここからは慎重に行こうか」


「うん、分かった」


「は、はい、気を付けます」


 スイレンの意見に頷きつつ、私達は更に奥へと向かう。


 あくまでここは特殊な隠しエリアだし、それほど長くは続かないはず。


 となれば、そろそろボス戦も近いのかなと……そんな予感を覚えながら。

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