第36話 新エリア攻略とバフ料理
「ぐぬぬー、突破出来なかった! 悔しい!」
手元で料理を作りながら、私は憤懣やるかたなしと言った感じに大空へと吠える。
《業火の坩堝》から撤退した私達は、《聳え立つ試練》のセーフティエリア──モンスターが侵入してこない安全地帯で小休止を取っていた。
お玉を手にぷんすこと喚き続ける私に、スイレンは苦笑する。
「初めて突入するエリアだし、ちゃんと生きて戻れただけ上々だよ。次はちゃんと対策して行けばいいし」
『それな』
『戦闘職一人生産職一人その他一人であの状況はむしろよくやったと言うべき』
『スイレンやっぱ強いよな』
「ちょっと待って、その他一人って何!?」
その他扱いはいくらなんでも酷くない!?
『逆に聞くがどう扱えばいいんだ?』
『少なくとも戦闘職ではない』
『生産もしてなくね?』
『テイマーはプレイヤー全員の呼称だからなし』
『やっぱその他だな』
「いや、それはほら……料理してるでしょ、料理!!」
ほら、と、私は出来上がったばかりの料理……もとい、少しだけ(スイレンが)倒したマグイールの素材を使って作った、マグイールの蒲焼きを見せる。
ティアラちゃんは「美味しい」と言ってくれて、もぐもぐと食べる姿は非常にほっこりするんだけど……。
『いやぁ……料理ほとんど役に立たんしなぁ』
『このゲームに料理人の枠はないです』
『というか、料理人ならやっぱりその他枠でいいのでは?』
「むっきーー!!」
情け容赦なくいらない子扱いするコメントを見て、カメラに向けて拳をぶんぶん振り回す。
すると今度は『可愛い』『可愛い』で埋めつくされていくコメント欄に、私はようやくからかわれていることに気付いて頭を抱えた。うぎぎ。
「ほらクレハ、そんなに怒ってると可愛い顔が台無しだよ? それより業火エリアの攻略法を考えよう」
「はーい……」
ひょいと私の体を抱き上げ、膝の上に乗せながら宥めに入るスイレン。
その自然過ぎる動きに私は無抵抗な人形の如く撫でられていると、ティアラちゃんが慌てた様子で割り込んでくる。
一人だと寂しいのかな? 取り敢えず、スイレンの代わりに私がぎゅってしてあげよう。
「マグイールからの不意打ち自体はティアラの探知で防げるけど、出てきた奴を叩いてもすぐに逃げられる上に仲間を呼び集められるのが厄介だね。そうなってくると、ティアラのルビィだけじゃ索敵要員も足りなくなってくる。というわけで、その対策には何が良いかな?」
抱き合う私とティアラちゃんを見てニヨニヨと気持ち悪い笑みを浮かべながら、スイレンがそう尋ねて来る。
この顔、候補は既に自分の中にあるけど、私達にもちゃんと考えさせようってことだね。
そうだなぁ、私の手札でひとまず思い付くのは……。
「一つは、私がたぬ吉を連れて探知要員を増やす、かな? 負担は変わらないけど、不意打ちでダメージは受けにくくなるよ。それか、ポチは少しあのエリアで戦いづらそうだったから、ピーたんを連れて行ってパーティの攻撃力を上げて、逃げられる前に倒す」
「で、でも、モンスターの攻撃はプレイヤーのものと違ってAI任せな分、タイムラグが……同時攻撃前提の作戦は、打ち漏らしも出やすいんじゃないかなって……」
「うーん、なるほど」
私を離すまいとしがみつくティアラちゃんを撫でながら、私は首を捻る。
目指す方向としては悪くなさそうだったんだけど、モンスター任せだとタイミングが合わないのか。
『いや、クレハちゃんならいけるのでは?』
『なんとかなるっしょ(超楽観)』
『クレハちゃんのモンスター優秀だからな』
「いやそうかもしれないけどさ。ちなみに、スイレンは何を考えてるの?」
「私としては、知力バフで魔法威力を上げたいかな、一撃で倒せれば安定するし。ただ、バフアイテムって大抵高いから、上手く行っても赤字になるかもしれないんだよね」
効果時間も短めだし、と、スイレンは肩を竦める。
うーん、確かにスイレンの魔法が強化されれば、それが一番だよね。
その手の状態異常が引けるまで私の回復薬でランダム状態異常をチャレンジする、のは……流石に私でも厳しいしなぁ。
「キュオォォ」
「あ、ピーたん、おかえり」
そんな風に悩んでいると、探索に出ていたピーたんが帰ってきた。
今回は何を拾ってきたのかな、と思ったら、《黒毛オークの肉》が一つ。
へー、初めて見るアイテムだなぁ。で、今回もこれで料理してくれと。もー、わかったわかった。
「ちょっと待っててね」
ティアラちゃんとスイレンに断りを入れ、私は再び料理に取り掛かる。
肉の丸焼きとかいいかな、と思いながら、早速オーク肉を取り出すと……
「ちょ、ストップストップ!!」
なぜかスイレンに止められた。
「どうしたのスイレン?」
「どうしたもこうしたも、それレアアイテムの黒毛オーク素材じゃん。そんなの料理に使うなんて勿体ないよ、売ればすっごく高いのに」
「えっ、そうなの?」
『そうだぞ』
『一つ三万Gは越える』
私がそう呟くと、コメント欄からも賛同の声。
ひえー、三万は中々高いね。アイテム一つの値段じゃないよ。
「キュオ、キュオォォ!」
とはいえ、ピーたんは早く作れとばかり、地面をペシペシと翼で叩く。
うん、最初は反抗的だったけど、最近はすっかり小生意気なお子さまみたいな反応するようになってきたね。可愛い。
「うーん、まあ、これはピーたんが取ってきてくれたものだしね。ピーたんが食べたいなら、作ってあげなきゃ」
『クレハちゃん優しい』
『俺だったら絶対作らんわ』
『モンスターの餌で十分だしな』
割りと酷いことをさらっと言う視聴者のみんなに苦笑しつつ、予定通りの丸焼きを作る。
それこそアニメや漫画で見るような、骨付きの美味しそうな肉があっさりと出来上がり、私もちょっとくらい食べたいなぁ、と思いながら詳細を見ると……。
名称:黒毛オークのステーキ
説明:高級黒毛オークの肉をじっくり焼いたステーキ。一口食べるだけで天にも昇る美味を味わい、全身から活力が漲る。
効果:筋力アップ(小)、持続時間三十分。
何やら、変な効果がついていた。ほわい?
『え、ちょ、料理でバフ効果つくなんて聞いてないぞ』
『どういうこと!?』
『今ちょっと調べてみたら、料理スキル研究してた奴が、一部のレアアイテムを使って料理すると持続時間の長いバフがつく……ことも稀にあるってコメントつけてた』
『稀にかよ』
『一応バグじゃないのね』
『持続時間は長いけど発生率低すぎるし、高価なレアアイテム消費してまでこんなもん狙うくらいなら素直にバフアイテム買った方が安上がりだって結論で締められてるけどな』
『これはひどいw』
一気に盛り上がるコメント欄を見つつ、私はなるほどと頷いた。
レアアイテムを使った料理にはバフ効果がつくと。
そういうことなら……私の活躍チャンスってことだよね。
「スイレン、業火エリアの攻略法、決まったよ」
「あはは、何となく予想つくけど……一応聞こうか?」
このまま行くと、私はいつまで経ってもその他扱いから昇格しないからね。
だから、ここは私の運と──料理スキルの力で突破しよう。
「私の料理でスイレン用の知力バフを引き当てて、その力でマグイールの群れを突破するよ!!」
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