第33話 暴走サイと崖下落下
「それじゃあチュー助、探索お願いね」
「ヂュッ!」
そそくさと探索に出向くチュー助……新しくテイムした仲間のアイアンラットを見送って、私はほっこり。
「いやー、こんなに素直に言うこと聞いてくれる子はたぬ吉以来だね!」
『言うこと聞いてないだけで役には立ってるからセーフ』
『むしろ肝心なところではクレハちゃんより優秀』
『指示も待たず結構適切な動きするもんな』
『やっぱクレハちゃんいらない説』
「う、うるさーい!」
全くこの視聴者達は、人が気にしてることをズバズバと言いおってからに。
私だって少しくらいは役に立って……立って……立ってるよね? ね?
「大丈夫大丈夫、クレハはそこにいるだけでみんなに幸運バフかけてるから!」
「私もその、クレハちゃんがいるだけで元気になれるし、良いことだっていっぱい起きるし……その、何も出来なかったとしても、ずっと一緒にいて欲しい!!」
「……うん、ありがとう」
それ、結局私は幸運だけの女ってことでは?
と思ったけど、スイレンはともかく必死に全身でフォローしようとしている気配を醸すティアラちゃんにそれを指摘する度胸は私にもなく、内心でさめざめと泣きながらそれを受け入れることに。ぐすん。
ええい、こうなったら本当にみんなの度肝を抜くくらいの事件起こして、何もしなくても仕事になってることをアピールしてやるー!!
「さーて、大分鉱石も集まって来たね。討伐の方も、ロックゴーレム三十体は片付いたし」
などと決意したはいいものの、ただクエストを消化するだけの時間にそうそう事件なんて起きるはずなく。
私の役目も、結局ひたすらピッケルを振り下ろすだけでもうすぐ終わってしまいそうだ。ぐぬぬ。
「うーん、ドロップ率がいくら良くても、これじゃあ絵面が地味過ぎるし……何か変なこと起きないかなー」
「いや、クレハがそれを言うと本当に洒落にならないからやめて」
私のボヤキに、スイレンが顔を引きつらせる。
いやだって、一応私も配信者だし? 何か面白いこと起きてくれないと困るというか。
「あ、スイレンさん、クレハちゃん、正面からモンスターです!」
そんなやり取りをしていたら、ティアラちゃんのルビィが敵性モンスターの存在を検知した。
すぐにスイレンがスカイに乗って前に出て、珍しくポチもそれに続く。
またゴーレムかな? と思いながらモンスターの出現を待っていると……。
「ブモッ、ブモォ!!」
でっかい、サイみたいなモンスターが現れた。
種族:バクシンライノ
レベル:25
「あ、あれはダメな奴」
そしてそれを見た瞬間、スイレンは踵を返し逃走に入った。
って、早!?
「スイレン、ダメって何が!?」
「あれは他のエリアに比べたら割と頻繁に出るユニークなんだけど、やたらと頑丈で全然倒せない! その癖敏捷が高くて……《突進》スキルで突っ込まれたら、ノックバックで山から叩き落とされて即死するよ! 止めてくれる壁役がいるなら別だけど……いないなら、そうなる前にとにかく逃げる!」
直接受けるダメージはほとんどないんだけどね!! と叫ぶスイレンに、そうなの? と思いながらバクシンライノをもう一度見る。
いつの間にか《突進》を発動し突っ込んでくるその姿は、まるで暴走機関車の如く。
その正面に堂々と立ち塞がるポチだったけど……レベル差はほとんどないはずなのに、あっさり弾き飛ばされて崖の下に落ちていった。
ポ、ポチー!?
「スイレン、前みたいに私達もスカイに乗せて!」
「この子最大二人乗りなの、両方は無理!」
「じゃあ、ティアラちゃんお願い!」
「えっ?」
「了解!!」
「えっ、えぇ!?」
私の意図をすかさず汲み取ってくれたのか、スイレンは素早くティアラちゃんの手を取って、スカイの《飛翔》で上空へ逃げる。
ティアラちゃんが、残された私を心配そうに見つめるけれど……全員生き残るなら、これが一番可能性高いからね!
「さあ……やるよ、テイムチャレンジ!!」
『いつものキタコレ』
『勝ったな、ちょっと風呂入って来る』
『勝ったな、田んぼ見て来るわ』
『勝ったな、飯食って来る』
『積み上がる負けフラグに草』
『それでもクレハちゃんなら勝ちフラグに変えてくれるはず!』
「積み上がる期待が重い!!」
叫びながらも、私は迫る巨体へ掌を向け、タイミングを合わせる。
テイムは射程が短いし、きちんと引き付けてからじゃないとそもそも当たらないからね。
そしてテイムに成功さえすれば、たとえ突進の直撃を喰らっても仲間からの攻撃という判定になり、ダメージは発生しない! 完璧な作戦!
……テイムに成功すればね!!
「行くよー、《テイ、」
「ブモオォォォ!!」
「ム》ぶふぉー!?」
でも、テイムの正否云々以前に、私自身がどんくさくて運動神経ゼロという事実をすっかり忘れていた。
タイミングを計り損ね、突進の直撃がテイムの発動より前になってしまったがために、私の体は思い切り宙を舞う。
『ああ!! クレハちゃんがやられた!!』
『テイムが失敗するんじゃなく、そもそもテイムが成立しないとか誰がこの展開を予想しただろうか』
『いや、成立はしたぞ。クレハちゃん生きてるし』
『こんな時でもちゃっかり発動に成功する不死の加護であった』
『今のところ成功率100%で草』
『10%とかクレハちゃんにかかれば100%と同じだから』
『なおCTあるので落下死は避けられない模様』
盛り上がるコメント欄にツッコミを入れたいところだけど、くるくると空中で回転しながらちらりと見えた地上の風景に、ひゅっ、と胆が冷える。
え、ここから落ちるの? このリアルなVRで? 怖すぎて死にそう。
『バクシンライノのテイムに成功しました、名前をつけてください』
「遅いよぉーーー!?」
視界いっぱいに表示されたそれを見て、流石に黙っていられず突っ込んでしまう。
いや本当、あと少し……攻撃のダメージ判定が入る前だったら助かったのにぃ!!
そんな風に嘆きながら、私の体は真っ逆さまに崖の下へ落ちていく──
「クオォン」
「ほえ?」
途中で、なぜかポチの鳴き声と共に落下が止まり、ぷらーんと空中で垂れさがる。
一体何が起きたのかと見上げれば、崖の下に落ちたはずのポチがなぜか私を咥えていて、更に……。
「え……ポチ、どこに立ってるのそれ?」
崖の途中にぽっかりと空いた、謎の洞窟の中に立っていた。
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