第6話 夜中の長電話と遅すぎた気付き
「それでねー、たぬ吉がちょうどマンドラゴラ持ってきてくれてー……って、どうしたの渚、さっきからずっと黙っちゃってるけど」
ログアウトした私は、部屋でごろごろしながら今日のプレイ中にあった出来事を渚に電話で話していた。
スマホを弄りながらスピーカーモードで話してるんだけど、接続不良かな?
なんて思ったけどどうやら違ったようで、スマホから渚の溜息の音が聞こえてきた。
『紅葉、私は一体どこからツッコミを入れればいいの? というかやってるゲームTBOで合ってるんだよね?』
「合ってるよ!?」
突然何を言い出すのかなこの子は!?
私、やるつもりだったゲームを間違えるほどアホの子だと思われてるの!?
『いやだって、いきなり幸運極振りとかただでさえ詰んでるところに、探索型のラクーン選んだんでしょ?』
「うん」
『それで、ケマリンにもやられる貧弱ステータスで平原の奥地へ向かって、一度もアクティブモンスターに遭遇することなく最初に会ったのが、私も未だ見たことないユニークモンスター』
「……うん」
おや? 何か雲行きが怪しいような?
というか、モッフルってそんなに珍しいモンスターだったのかー……。
『テイムは格上相手にほとんど成功しないし、体力満タンの相手にもほとんど成功しない。その二つを鼻歌混じりにユニーク相手に一発で成功。挙げ句、ランダム転移で隠しエリアに飛んだ上、レアアイテムのマンドラゴラを探索一発引き』
「…………」
えっ、そうだったの? あれそんなに成功率低い賭けだったの? 知らなかった。
なんというか、そう聞かされるととんでもないことしたなぁって感じがしてきたよ。
あー、初日の配信、視聴者つかなくて良かった。
『モンスター達は格上のテイムモンスターは言うこと聞かないはずなのに……いや、あんまり聞いてなかったのは確かみたいだけど、全部都合の良い方に振り切れてるし』
「えっ、プレイヤーより強いと言うこと聞いてくれないの?」
思わぬ情報に驚きながら、私はお腹の上で同じようにごろごろと転がる二体のモンスター、たぬ吉とモッフル(デフォルメミニサイズ)を見る。
これは、VR機器と手持ちのスマホ等のAR機能付きの機器をリンクさせることで、リアル世界でもテイムした自分のモンスターと触れ合える、TBOイチオシの独自機能だ。
ただリアルで触れ合えるってだけじゃなくて、こっちで一緒に散歩するとモンスターが何かしらのアイテムを拾って来るし、同じゲームをやっている人とすれ違えば、モンスター同士の交流によって新しいスキルを教えて貰えたりするという利点がある。
とはいえ、それ以外はとくにゲームの中と変わりないから、言うことを聞かないというなら何かしら反抗されそうな気もするけど……撫でる(スマホの画面をタップするだけ)と二体ともふにゃりと嬉しそうに蕩けてるし、とてもそんな風には見えない。
「何かの間違いじゃ?」
『いやこっちのセリフだよ。紅葉がおかしい』
否定してみたら、全力で切り捨てられちゃった。解せぬ。
『それも含めて、検証勢が全部解明してやるって張り切りまくっててね。紅葉の動画、すごい勢いで拡散されまくってるよ』
「えっ、私の動画拡散されてるの!? 視聴者いなかったのに!」
『いやいたよ。初期設定だと見づらいから紅葉が気付かなかっただけ』
「うっそー!?」
じゃあもしかして、視聴者がいないこのタイミングでと思ってログアウト前にやりまくった、配信開始と終了の挨拶練習も全部見られてたの!?
うわぁぁぁぁ!! 恥ずかしい!! 誰も見てないと思ってだいぶ変な挨拶もしてたのにぃ!!
『紅葉の運が良いのは知ってたけど、まさかここまで振り切れてるとはねー。ちょっと拝んでもいい? ご利益ありそう』
「私はどこぞの大仏様かー!!」
ぷんすこと怒ってみるものの、渚からは『怒ってる紅葉は電話越しでも可愛いなぁ』なんてちょっとからかい混じりの笑い声が聞こえてくる始末。
……ふーんだ、本当にご利益あるなら、渚には呪いかけちゃうもんね! タンスの角に小指ぶつけて涙目になってしまうがいいさ!!
『まあ運勝負で負け知らずの紅葉がおかしいのはいつものことだから置いておくとして』
「置いとかないでよ」
確かに私、じゃんけんでもくじ引きでも負けたことはないけどさ。ビンゴ大会とかも大体一位だし。
『最後のクエストで手に入れたアイテムはどういう効果なの? 配信中は詳細見てなかったけど』
「ああ、《ラーニングスカーフ》ね。あれは……」
名称:ラーニングスカーフ
種別:アクセサリー
効果:防御+5
能力:《学習加速》
装備制限:モンスター
スキル:学習加速
効果:対象モンスターの取得経験値が五割上昇し、主人の取得経験値が五割減少する。
「こんな感じ」
『なるほど、テイムしたてのモンスターを手早く育てるための装備品ってとこかな。使いすぎるとモンスターのレベルがプレイヤーを越えて言うこと聞かなくなるんだけど、紅葉は……』
「うん、元からレベルなんて上がらないから、デメリットゼロ! えへへ、すごいでしょ?」
全く無い胸を思い切り張りながら、向こうからは見えもしないどや顔を決める。
ちなみに、そんな私にとって最高の装備だったスカーフは現在、たぬ吉が首に巻いてる。中々似合ってて可愛い。
『レベル差が広がるほど言うこと聞かなくなるとは聞くけど、具体的にどうなるかの検証はまだ全部終わってないし……紅葉のキャラがどこまでやれるか、楽しみだね。上手くいけば、視聴者もぐんと増えそう』
「うん! いっぱいがんばって、視聴者増やして、いっばい稼ぐよ! もうすぐお姉ちゃんの誕生日だから、そのお金でプレゼント買ってあげるんだ!」
お姉ちゃんのお仕事、夜遅くなることも多いし、いつも大変そうだから。
疲れの取れる入浴剤とか、枕とか、マッサージ機とか……色々買ってあげたいなぁ。
『あー、紅葉はほんとにいい子だねえ! 私もそんな妹が欲しかった!!』
「渚は一人っ子だもんね。でもまぁ、渚も誕生日が来たら何かプレゼントしてあげるよ、せっかくだし」
『ほんと!? やった!! これで実質紅葉は私の妹ってことに……!!』
「ならないから」
相変わらずわけわかんないこと口走る渚に苦笑しつつ、私は撫でられ飽きたらしいたぬ吉とモッフルを部屋に放つ。
家の中から、何か面白いアイテムを拾ってきてくれたりとかしないかなー。
そんなことを思いながら立ち上がり、さて、と一息吐いた私は、続けてキッチンの方へと向かった。
「それじゃあ渚、私そろそろ夕飯作らなきゃだし、切るねー」
『はーい、家事頑張ってね。疲れてたら学校で膝枕してあげよう』
「あはは、ありがと。それじゃあねー」
実際昼休みには寝ることが多いし、膝枕も助かると言えば助かる。素直に保健室で寝ればいい気もするけど。
そんなことを思いながら電話を切った私は、冷蔵庫の前で腕を組んで仁王立ちする。
「さあ、今日も精のつくもの作るぞー!」
おー、と拳を突き上げながら、冷蔵庫をガチャリ。
その後、買い物を忘れて中身がほとんど空になっていることに気付いた私は、大急ぎで夜のスーパーへと突っ走ることになるのだった。
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