第3話 テイムチャレンジとユニークモンスター

 ステータスなんてなくてもなんとかなると思っていた時期が私にもありました。


「ぬわー! やられたー!」


「ポンー!」


 体力がゼロになり、所謂死に戻りを経験した私は、たぬ吉と一緒に最初の町の転移広場に戻ってきた。


 出現と同時に思い切り叫ぶ私の声に驚いて、近くにいたプレイヤーの人たちが一瞬だけこっちを見たけれど……こういうことはよくあるのか、すぐに興味を失って歩き去っていく。


「ぐぬぬ、まさかモンスターも倒せないなんて……どうしたものかなぁ」


 私と同じように転移してきた人の邪魔になるからとすぐに歩き始めながら、私は顎に手を添えて考え込む。


 敵モンスターの発見自体は、特に苦戦することもなくすぐに出来た。


 この最初の町──名前もそのまま、《始まりの町》らしい──から出てすぐにある《駆け出しの平原》というところには、ふわふわと浮かぶ毛玉みたいなモンスター、《ケマリン》がいて、レベルは1。


 こちらから攻撃しない限り襲って来ないし、戦闘になっても行動パターンは体当たり一択。私みたいな初心者でも難なく倒せる敵……の、はずなんだよ、多分。


 実際、たぬ吉はケマリンと戦っても、多少ダメージを負いながらちゃんと倒すことが出来た。何体か倒して、レベルも2に上がってる。


 なら何が問題かって?


 私の貧弱過ぎるステータスじゃ一切のダメージが与えられなくて、そもそも戦闘に参加してるとみなされないの!! たぬ吉には経験値が入っても、私には入らないの!! 酷くない!? この子私のモンスターなんだけど!?


 挙げ句、たぬ吉を狙った体当たりが私にヒットしたと思ったら、たった一発で死に戻ってこの有り様である。これはひどい。


 どうやら、最初の一回は死んでもペナルティなしみたいだから良かったものの、下手したら経験値とアイテムをいくつかロストするところだったよ。


 私には経験値はないけどね!!


「調合するには魔力が足りず、戦闘するには筋力が足りない。防御も低すぎるし……うーん、ステータスの振り方間違えてる、よねえ……」


 まさか、私自身も少しは戦闘に貢献しないと経験値が入らないシステムになってるなんて知らなかったから、この時点で中々に予想外。


 多分、本当ならこの《応援》スキルを使ってモンスターを支援しながら戦うはずだったんだろうなぁ……使えないけど。



スキル:応援

効果:一定時間、自身の従えるモンスター1体の筋力と知力を少し上げる。魔力消費15。



「いっそ最初からやり直すのも一つの手ではあるけど……」


 このままじゃ私、チュートリアルクエストすら出来ないへっぽこテイマーだし、それも一つの手だろう。


 でもなぁ……と、私は後ろをちょこちょことついて回るたぬ吉を見る。


 私がこのアカウントを消せば、たぬ吉も選ばれなかった他の子みたいに消えてしまうんだろうか?

 だとしたら、それは悲しいし、嫌だな。


「んー、よし、決めた! 私はこのままどうにかやってくぞー!」


 レベルが上がらなくて私自身は強くなれないけど、だからなんだという話。

 元々、自分の強さなんて当てにならないことは分かりきってたんだ、それがハッキリしたというだけで、私の方針に変わりはない。


「このまますっごい強いモンスターをテイムして、その子にガンガンモンスターを倒して貰おう! 行くよたぬ吉ー!」


「ポーン!」


 おー! と拳を振り上げれば、たぬ吉も一緒になってぴょんぴょんと跳ねる。

 その姿にほっこりしながら、さっき死に戻ったばかりの《駆け出しの平原》へ。


 チュートリアルおじさんに会ったところとあまり変わらない、けれど何度見ても圧倒される一面の緑。そんな中をぴょこぴょこと跳ね回る毛玉が、さっき私を一撃で死に戻らせた恐るべき敵、ケマリンだ。


「でも、あくまで私にとって強いってだけで、普通に考えたら弱いよね。ぶっちゃけ」


 テイムしないと詳細は分からないけど、これが戦闘タイプってことはないだろう。


 見た目は可愛いし、是非ともテイムしてみたいのは山々だけど……一人のプレイヤーが連れ歩けるのは三体まで。


 それ以上は町の中で連れていくモンスターを選別して預けなきゃいけないみたいだし、まずは可愛さよりも強さで一体選びたい。


「ここで役立つのがたぬ吉だよね。お願いたぬ吉、《索敵》!」


「ポン!」


 私の指示を受けたたぬ吉がピンと毛を逆立て、何やら淡い光を辺りに放つ。


 途端、私の視界の端に表示されたフィールドマップに、近くのモンスターや採取可能アイテムの位置が次々と表示されていった。


「おおー、さすがたぬ吉、便利なスキルだね!」


「ポポン!」


 得意気なたぬ吉を撫でながら、早速表示されたモンスターのところへ駆け寄っていく。


 とは言っても、やっぱりいるのはケマリンばかり。

 一応たぬ吉の育成になるから戦わせてはいくんだけど、やっぱり戦闘タイプじゃないから時間がかかるし、探索は遅々として進まない。


「フワラ~」


「ポンポンポンー!!」


 ふわふわの毛玉と狸がどつきあっている光景は、本人達からすれば必死なんだろうけど……端から見ればじゃれ合っているようにしか見えない。


 なんとも微笑ましい光景に癒されながら、私はその間に近場の採取ポイントで適当に薬草なんかを拾い集めつつ、辺りを見渡してモンスター探し。


 でも、目的である強そうな戦闘タイプのモンスターは全く見つからない。


「うーん、もう少し奥に行かないとダメなのかなー。たぬ吉、それ終わったら行くよー」


「ポン!」


 見事ケマリンを打ち倒し、ドヤ顔で勝利をアピールする相棒を撫でながら、平原の奥へ。


 町のすぐ近くにあったケマリンだらけのフィールドを抜け、次の場所に入ったんだけど……。


「あれ? モンスターがいない」


 既に誰かが狩り尽くした直後なのか、どこを見渡してもモンスターがいなかった。

 たぬ吉の《索敵》にも引っ掛からないから、隠れてるだけってわけでもなさそうだ。


「うーん……? 取り敢えず、もっと奥に行こうか」


 そのまま、奥へ奥へと歩みを進める私とたぬ吉。

 すると、そんな私達の前にプレイヤーの一団が現れた。


「おおー、なんか強そうな人達だ!」


 田舎から出てきたばかり、みたいな野暮ったい服の私と違い、全身をピカピカの鎧や綺麗なローブで包んだ男女四人。このゲームにおける上限人数だ。


「かっこいいねー、たぬ吉」


「ポン!」


 プレイヤー達もさることながら、連れているモンスターも中々に凄い。


 プレイヤー四人を纏めて背中に乗せながら全く揺らぐ様子のない巨大なマンモスを中心に、左右を守るように展開する厳つい狼と虎。

 上空には鋭い眼差しを地上へ向ける鷹まで飛んでいて、常に周囲へ気を配っているみたい。


 なんというか、ただ歩いてるだけなのに凄い歴戦の強者って雰囲気が伝わってくるよ。私もいずれはあんな風になれるのかなぁ。


「おや、君は初心者かい?」


「あ、はい、そうです」


 すると、そんなマンモスに乗っていた騎士っぽい男の人が、私を見つけて話しかけてきた。


 特に見栄を張る理由もないから素直に頷くと、彼は何やら得心がいったようにポンと手を叩く。


「ああ、ここに来るまでに俺達がモンスターを狩り尽くしてしまったから、敵と遭遇することもなくこんなところまで来てしまったのか。ユニークモンスター狙いとはいえ、少しやり過ぎたな……」


「??」


「ああ、ごめんね。君、見たところレベル10も行ってない生産職だろう? この辺りで戦うには少し厳しいから、戻った方がいいぞ」


「そうなんですか?」


 なんでも、今いる場所は風景こそケマリンがいた《駆け出しの平原》と同じだけど、実際はその終着点近く。出てくるモンスターもレベル10前後らしい。


 戦闘職なら辛うじて格上にも食らい付ける可能性はあるけど、生産職じゃあまず無理って話だし、戻った方がいいってアドバイスは正しいよね。


 でも。


「大丈夫です、私もこの辺りに用があって来ましたから」


 出てくるモンスターが強いっていうなら、私にとっては願ったり叶ったり。それをテイムして、仲間にしてやるんだ。


「そうかい? ……まあ、初心者のうちはデスペナも軽いしね。頑張ってみるといい」


「はい! 心配してくれてありがとうございます!」


 ペコリと頭を下げると、騎士の人だけでなく、他の人達もどこか暖かい眼差しを私に注ぎ始めた。


 ……これ、もしかして私相当に小さい子だと思われてるのでは?


「ここで会ったのも何かの縁だ、困ったことがあれば力になるから、その時は町にあるギルド《曙光騎士団》に来るといいよ。ゼインって名前を出せばみんな親切にしてくれるはずだ」


「分かりました! 覚えておきます!」


 ちょっと気になる疑惑はあるけど、この人……ゼインさんだって悪気があるわけじゃないだろうし、ここは気付かないフリをしてあげるのが大人の余裕ってものだよね。


 何せ私、高校生だし! もう子供じゃないし!


「じゃあ、またいずれ会おう」


「はーい、他の皆さんもまたお会いしましょう~」


 ブンブンと手を振りながら、去っていくゼインさん達の背中を見送る。


 あのマンモス、動き鈍そうに見えたけど、騎乗タイプだからか随分と速い。あっという間に見えなくなっちゃった。


「ふふ、私達もいつかあの人達みたいになろうね、たぬ吉」


「ポン!」


 実際に戦っている姿を見たわけじゃないから、あの人達がどれくらい強いのかは分からない。


 でも一つの目標として、私の中でその背中を定めたところで、ふとマップに赤い点が表示されていることに気が付いた。


「うん? なんだろうあれ」


 目を向けると、そこにいたのは巨大な毛玉。

 ケマリンかな? と思ったけど、それにしたって大きすぎる。


 そんな毛玉が私に気付いたのか、徐々に近付いて来たことでようやくその正体が表示された。



種族:キングケマリン

レベル:15



「わーお、つよーい」


 10レベルくらいの敵が出てくるって言ってたけど、さらっと五つも上回って来たよ。

 いくら最弱のケマリンと言ってもキングっていうくらいだし、レベルも高い。きっと強いんだろうな。


「よし、この子にきーめた!」


 既に私達を敵とみなし、その巨体をふわふわと跳ねさせながら迫るキングケマリンに向け、私は掌を突き出す。


 テイムの射程は短いし、めいっぱい引き寄せて……と。


「フワフワラ~!!」


「《テイム》!!」


 普通のケマリンより若干野太い鳴き声響かせるキングケマリンが目の前に迫ったところで、私はスキルを発動。


 なけなしの魔力が消費され、キングケマリンを淡い光が包み込んで──


「フワ、フワ……」


『キングケマリンのテイムに成功しました。名前をつけてください』


 私は無事、キングケマリンのテイムに成功するのだった。



名前:なし

種族:キングケマリン

タイプ:騎乗

レベル:15

体力:180/180

魔力:180/180

筋力:40

防御:40

敏捷:60

知力:20

器用:20

幸運:30

スキル:《跳躍》《突進》《踏みつける》

特殊スキル:《大跳躍》

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