アトガキ「ざぁ~こ♡」

「ざぁ~こ♡ ざぁ~こ♡ しゃかいのせいせき、おちこぼれ♡ こんな子どもにまけて、はずかしくないの~?♡」


 本編との温度差で心臓ひっくり返っている皆さん、ごきげんよう。

 本人に代わって作者が紹介しますと、こいつはアトガキってやつです。

 あとがきを書こうとして「アトガキって、メスガキに似てるな」と思ったが最後、書かずにはいられませんでした。

 で、書き出したは良いんですけど、あとがきってそもそも、作者が物語を脱いで、はばかりながらも自分を出す場なんじゃないかって思い返した次第で。

 多分、このアトガキも僕の人格の一部とみなされやすいんじゃないかと、今更ながら後悔しています。

 ウェルカム地獄。


「いっしょにすんな♡ わたしは子どもだけど、あんたはおっさんだから♡」


 会話をしたら、一気にキモくなりそうで怖い。

 これじゃあ、頭のおかしい一人芝居です。創作の多くがそうと言えばおしまいですが、ここはあとがきなので別でしょう。どうしてこんな地獄の一人舞台を始めてしまったんだという後悔ばかりが胸を占めます。

 だがもう遅い。

 読者の君には、このノリに最後まで付き合ってもらう。


「いい迷惑♡ 底辺作家♡ クズ♡」


 タイトルの「TEN Grave’n」は「テン・グレイヴン」と読みます。

 直訳すれば「一〇基の墓」ですが、中点をずらせば「テング・レイヴン」。

 この音感を日本語に無理やり当てはめれば最終話のサブタイトル「天狗令聞てんぐれいぶん」となり、「天狗の誉れ、良い評判」という意味を持ちます。


「そもそもタイトルがゴミ♡ 自分でセンス良いって思いこんでてかわいそ~♡」


 クソッ……このアトガキッ……! お前のキャラ付けも作者次第だって、わからせてやるっ……!

 ただ、アトガキの指摘ももっともで、墓は一〇基も出してませんし、令聞なんて意味の通じにくい言葉も、我ながら不自然なチョイスだと感じます。特に「'n」の部分とか自分でもどういうつもりだったのか説明できません。強いて言うなら発音のために差しているだけです。

 さておき、英語と日本語を混ぜて読み解いてみましょう。

「TEN Grave’n」は「十の墓」、十字の墓、つまり、作中の出来事に陰ながら関与するキリスト教を表します。

 英語圏の方からすれば、少なくとも「ten」が漢字で十字になることを知らなければ、連想できないと思います。日本語圏の方であれば、「Grave」の意味を知らないといけません。

 対して「テング・レイヴン」はお察しの通り「天狗のカラス」で烏天狗、つまりは鞍馬やヤスフェ、源平合戦以前から人知れず日本に潜んだアフリカ民族を指します。

 こちらも日本語圏の方からしてみれば、レイヴンがカラスだとわからなければ導き出せません。英語圏の方であれば、「天狗」を知っていなければいけません。

 総じて「TEN Grave’n」には、一七世紀初頭のキリスト教、とりわけカトリックの宣教がもたらした変化の大波と、それに振り回された人々や上手く乗った一部の人の騒動の中で、鞍馬が烏天狗として誉れを得るまでの物語、という意味を込めています。

 一文に多面的な意味を複合させるというのは、本作で自分に課した命題の一つでした。


「くっど♡」


 それはそう。

 この話に触れたのは、「こんな回りくどいこだわり、読者と信頼も何も築けていない今だと、ちゃんと言わなきゃ、死んでも人に伝わらないだろうな」と思ったからです。

 大体の物事は多面的です。赤いリンゴを包丁で切れば果肉は白く、香り華やぎ、種は黒く、仁は果肉より白くて、ようやく果肉の黄色味がかったのに気付いたり、時間経過で褐変したり。

 リンゴ一つ切るだけでも、これだけ色々と見えてきます。

 作中では主人公として、過酷で悲劇的な境遇を脱し、純朴かつ英雄的に描いた鞍馬は、幼少期に父が連れてきた奴隷を不当に扱い、それを当然のことのように思っていました。

 しかし、その当然に思っていた奴隷の扱い、ひいては部族間抗争を続けた結果、鞍馬自身が奴隷に堕ちてしまいます。

 一方、敵として苛烈に描いた海難坊ことアンドレ・ペソアは、マカオ総司令としての職務を全うしただけなのに、主犯の日本人に死傷者を出したという理由で幕府に逆切れされて、危うく抹殺されかけます。その恨みは計り知れないでしょう。

 しかし、日本人が追い込んだようにも見えるアンドレですが、その実、ポルトガル海上帝国の礎となったカトリックの宣教師たちが、教義ゆえに商売を嫌い、帝国発展の足を引っ張ったことが遠因にあります。

 四の五の言わずバリバリ貿易をやっていれば、プロテスタント系のオランダ人の邪魔も許さず、互角に渡り合えていたでしょう。であれば、マカオが剣吞にならなかったでしょうから、騒擾事件そのものが起きなかった可能性があります。

 鞍馬と海難坊アンドレ、敵同士として最後に衝突した二人ですが、よくよく原因を突き詰めていけば、浜の戦いは、黒人奴隷と高圧的な主人の対決の構図であると同時に、お互いを育んだ文化・常識に孕む矛盾が噴出し、激突した構図でもあります。


「大人にもなって喧嘩とか、バッカみた~い♡ 恥ずかしくないの~?♡」


 それでも多分、大体の人は、奴隷VS主人という上辺を見て、納得した気になるんじゃないかと思います。

 復讐劇、下剋上、耳当たりの良さに惑わされて、その根っこにある問題に気づかないのは、珍しいことではありません。僕もよくやりますし、このあとがきを書いている今も何かしでかしているんじゃないかとさえ思っています。

 裏を返せば、上辺だけのパフォーマンスで、本当の問題から人の目を逸らすことだって簡単にできてしまいます。

 ですので、物事を多面的に見るなんて一言で済まされても困るかもしれませんが、まあ、ちょっと、頭の隅に入れて、習慣にできればベター的なやつだよねって思ったり思わなかったりするんですね。


「歯切れ悪~い♡ 創作やってる自己顕示欲の塊がシャイになっててダッサ~い♡」


 こんなこと言ってるアトガキも、同年代の子供に混じって遊びに行くか、家でゲームしてれば良いのに、僕をいじるのに時間を割いていると考えると、闇を感じますよね。


「やめて♡」


 学年で孤立してるんじゃないかとか、家庭崩壊してるんじゃないかとか。表面的な態度が全てと信じず、裏の方まで気を回すのが、多面に見る上で大切なことなんですね。

 大体、杞憂に着地するんですけどね。

 アトガキも普通に僕をからかうのが趣味って可能性も捨てきれませんし。

 まあ、こいつ、空想上の存在だから何とでも言えるんですけど。


「やめて♡ わたしの現実性を掻き乱さないで♡」


 どーだ、思い知ったか、このアトガキ。これが作者の特権だ。

 さて、これアメリカの話ですが、舞台芸術、映像作品における白人一強が、時代を経て人種の比率が変わったことで、多様な人種の活躍する機会が増えてきました。

 色んな属性の人々が活躍する時代の到来は喜ばしいことだと感じています。

 しかし、その時代は、どのような様相が望ましいのでしょうか。

 ブラックフェイスやホワイトウォッシュが糾弾されているように、白人が他人種の役を演じることは厳禁とされている中で、その逆はむしろ歓迎されています。

 一方で、キャラクターと演者の人種は同一でなければならないと主張する派閥がいるので、混迷極まって仕方がありません。

 人種問題界隈、それぞれの派閥が自分に都合の良い思想を言いたい放題しているので、もう本当に見るに堪えないですよ。

 美女と野獣や人魚姫みたいな、欧州のおとぎ話や古典がベースの脚本ともなると、配役が敏感な部分になりがちで、すぐ賛否両論にもなります。

 そんなカオスな状況の中に、ふと、自分ならどんな物語を投下するかな、と考えて、出来上がったのが本作でした。

 とりあえず「アフリカがモチーフの物語がなさすぎるのでは?」と思いつつ、「わかんねーから日本を舞台にしてやれ。サムライ・スシ・ヤッター」「歴史に興味湧かねー」「やだー、割と日本の歴史に弥助以外のアフリカ人、入る余地あるー」とかやってる内に、今の形になりました。

 とにかく今は、やり遂げた達成感ばかりです。

 少なくとも、議論に忙しい方々よりは半歩前に出ることができたのではないかと思います。

 一作を完結させた自負を持って、次の作品を書いていこうと思います。


「自分語りばっかり必死すぎ♡ 周りが見えてないグズ♡」


 そんなわけで、ここまで読んでくださった皆様、並びに評価をくださった皆様、どうもありがとうございます。

 コメントが無かったことだけ心残りですので、「お疲れ」の一言でも残していただければ幸いです。

 次回作でお会いしましょう。

 

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黒奴流離譚 TEN Grave'n ―黒人奴隷、極東の地に逃れ、烏天狗として生きる― ゴッカー @nantoka_gokker

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