第18話 sideエマ 3
(エマ視点)
セイゼル子爵家の本宅に着いてすぐ、渋るイアンの背中を押して会いに行かせた後、私は本宅の近くにある村を散策していた。
念の為フードを目深に被り、側から見たらもしかしたら怪しかったかもしれないけども。
こちらを怪訝な顔で見てくる村の人達の視線を避けながら、気づけば森の中へと迷い込んでいたわ。
どうしましょう…イアンに心配かけてしまうわ…。
キョロキョロと辺りを見回していると、見覚えのある人物がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「逃げなくても大丈夫だ。ちゃんとわかっている」
逃げ出そうとしていた足を止める。
「君は……エマ、だね。息子が世話になった」
イアンのお父様のセイゼル子爵。
まさかお会いするなんて思わなかったの。
「…お久しぶりです。子爵様」
なんて答えていいのか、作法なんてわからないからとりあえず頭を下げておいたわ。
それよりどうしてわかったのかしら…。
私が亡くなってる事、ご存知よね?
「…君が戸惑うのも仕方ない。君が亡くなった事も、その身体がメモリアルカンパニーという所から派遣された自動人形だという事も、私は既に知っているんだよ」
凄く驚いてしまった…。
バレてはいけないと思っていたの。
だから我慢して、イアンの側から離れたのに…。
そう。私は我慢していたのよ。
本当は今もずっとそばに居たかったんだから。
「ああ…泣かせてしまったか。すまないね、君には我が家のことで随分苦労をかけてしまった…」
困ったように眉根を寄せるお義父様のお顔、イアンに似てるわ。
イアンの顔の造形はお義母様そっくりだけど…やっぱり親子ね。
突然泣き笑いになってしまった私に、お義父様は戸惑っていらしたわ。
それから話した事。
イアンは縁を切ったつもりだろうが、切れてはいない事。
イアンが家を出てからずっと、そっと見守っていた事。
メモリアルカンパニーの事を知っていたのは、ある日、ボロボロの白衣を着た人物が訪ねてきたからだそうだ。
「きっとあなた方は気づいてしまう。だから事前にお話しておこうと思ってね」
そんな事を言いながら、メモリアルや私について話していったみたい。
すっと肩の力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
その後お義父様は、私を本宅の近くに案内して馬車に乗って行ってしまった。
息子には後日会いに行くと言い残されて…。
その時、自分と会った事は内緒だと言われて…なんだかイアンの作ったナイフを見ていらした時の事を思い出して、懐かしくて笑ってしまったの。
…私がいなくなるまであともう少し。
私はイアンに、あとどれだけの思い出を遺してあげられるだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます