第16話 sideエマ 1

(エマ視点)


「では、確かにお預かりいたしますね」


ボロボロの白衣を翻し、彼はその場を去っていった。



嘘みたいな話。

でも、もし本当なら…怖がりの彼に私がしてあげられることが、まだあるのかもしれない。





愛しいあなたの声がして、目を覚ましたわ。

…あらあら、随分やつれた顔をしてる。

それに…なんだか老けたみたい。

ふふっ、そっか…あの人の話は本当だったのね。


という事は、私は…あなたを置いて死んでしまったのね…ごめんなさい。



さぁ、あなたがやりたかった事を教えて?

私に出来ること、なんでもしてあげたいの。



感極まってキスしようとしたら、バチって音がしてあなたが痛がってた。

博士のような格好のあの人が言ってたわね、

「出来るのはハグまで」って。

そうよね、この身体は借り物なんだもの。


部屋で未開封の箱を見つけたわ。

中に入っていたのは1枚のワンピース…。

私が亡くなってどのくらい経ったのかわからないけど、どの服も劣化はあるものの…保存状態が…


そっか。イアン…ありがとう。

いい事なのかはわからない、けれど…私はあなたの想いが嬉しい。



馬車に乗って街に向かう時、あなたの手が震えていたのに気づいたわ。

大丈夫?って声をかけたら、大丈夫だから、お願い何も聞かないでって言われて…それ以上何も聞けなかった。




街に着いて連れて行ってもらったのは…

私がずっと前から憧れていた老舗の高級店!


夢みたい…でも、この身体は自動人形よね…だからあなただけでも食べて堪能して。


…あら?これは…この身体の情報かしら?


なんてこと!私も食事が出来るみたい!

必要ではないけれど、飲食可能なのね!


本当にすごいわ!


美味しい!凄く嬉しい…!

自動人形ってすごいのね!





こうやって寄り添いながら歩けるなんて…夢みたい。

あなたと他愛無い話をして、笑い合って…ずっとこうしたかった。


あら?

向こうから来るのは…


アンナと…キャロル…?

2人とも赤ん坊を抱いてる…そっか、結婚した事までは知ってたけど、子供産まれたんだね。



声をかけたかった。

私はエマよ、久しぶりって…


でも、私が死んだ事、2人が知らないはずないもの。

イアンからも戸惑いが伝わってくる。


私が誰か気になったみたい、どうしよう。



…イアン。

イアン…私もよ。

私も、愛しているわ…。


アンナ…キャロル…、今でも親友と呼んでくれるの?



豪勢な宿。

寝心地も座り心地もいいベッドの上で、私はイアンに縋り付いて泣いた。


嬉しかった。

でも寂しかった。

名乗れない事が、私も大好きよって言えない事が。


あなたの優しい手は、ずっと私の背中をさすってくれた。

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