第15話 pair

「…おはよう。1週間、身体をエマに貸してくれてありがとう」



瞼を開くとそこには1週間前とは見違えるほど健康的になった、イアン様がいらっしゃいました。


「おはようございます。お役に立てたなら幸いです…?」


おかしいです、なんだか変です。

何が、とは言えず、よくわからないのですが…。


「あの、これ。良かったら使って欲しいな。エマと一緒に選んだんだ」


白い布の手袋。

しっかりとした生地で、サイズもちょうどいい。


「…受け取れません。私は与えられた課題をこなしただけですので」


「それは困ったなあ…君が受け取ってくれないと、この手袋は行く宛が無くなってしまう」


眉を下げて困った顔をなさるイアン様をみて、こういった場合どうすれば良いか悩んでしまいます。


「少々、お待ちください。確認して参ります」


家から出るとすぐさまとある方へと回線をつなげる。

私の中に内臓された通信装置は、ただ1人に繋がっている。




「…ありがたくいただきなさいとの事で…」


イアン様は笑って手渡してくださいました。

その際、少し手が触れ合い…


「?」


なんだか、不思議な気持ちになりました。




「もう行くんだね」


「はい。届け先はまだまだ残っていますから」


私に与えられた課題はまだまだ終わりが見えない。

全てを終わらせて、私はまたあの方の…マスターの元に戻らなければならない。


「気をつけて。何かあったらいつでも頼っておいで…本当に、本当にっありがとう!」


深く頭を下げて


「奇跡のような1週間だった…君を作った方にも…彼女の想いを連れて来てくれた君にも…本当に感謝している!」


とても力強い声だった。


「元気で…また、いつか…」


イアン様は、とてもスッキリした顔をされていました。



「…あなたも元気で…イアン」


彼を背にして歩く。

どうして最後にその言葉が出たのか…わかりません。

ですが、なんだかとても心地よいのです。



「…さあ、次は何処へ向かいましょうか」



トランク一つで旅をする彼女は、どこまでも澄んだ青を眺め、行き先を決めた。

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