第12話 残りの時間

(イアン視点)


君と行く馬車の旅は楽しかった。


「見て!街中よりも星空が凄く綺麗!」


でもたまにあの時の事を思い出す時がある。


「大丈夫…怖くないわ。私がついてる」


あの事故より道も綺麗に舗装され、二度と同じ悲劇が起こらないようにと安全面警備面とも強化されている。


「大好きよ、イアン。そばにいるわ」


愛しい君は、後もう少しでまたいなくなってしまうのだろうか。





「着いたわね。お疲れ様、イアン」


セイゼル子爵家は街の方にも別宅を構えているが、本宅は街から馬車で一日はかかる距離にある。


執務を行う時は別宅を利用する場合が多いのだが、母は本宅の方にいる事が多く、医師も住み込みで診てくれているらしい。


「私は近くの村で待ってるから、行っておいで」


エマを家族に会わせるわけにはいかないし…と悩んでいると、彼女がそんな事を言い始めた。


「いやだ、君も一緒じゃないと!だって、あと3日しか…っ」


「わかってる。でも、私は後悔してほしくないの。今会わなかったら、もしかしたらずっとあなたは後悔し続けるかもしれない…」


私の時のように、彼女はボソリと呟いた。


馬車の中で彼女に話した。


それまでずっと、病によって亡くなったんだと思っていたらしい。


街に向かう馬車の事故で命を落としたのだと聞いた彼女は、悔しそうに唇を噛み締め、手をぎゅっと握りしめていた。



「行ってらっしゃい、イアン。大丈夫、怖くないわ」


ぎゅっと抱きしめてくれた彼女の体温は温かくて…


この時間がずっと続けばと祈らずにはいられなかった。






「…イアン坊ちゃん…」


門番に封蝋のついた手紙を見せて名乗ると、慌てて屋敷の方に連絡を入れていた。

そして現れたのは、僕もよく知る人物だった。



「…久しぶり、レクター」



執事のレクター。

あの頃より随分白髪が増えた気がする。


「…ようこそ、お戻りになられました…!奥様もお喜びになられるでしょう。どうぞ、こちらへ…ご案内致します」


目尻に涙を滲ませるレクターの案内で、庭を通り、屋敷の中へと足を踏み入れた。


久しぶりに見た屋敷は、なんだか物凄く広く感じる。


「奥様も旦那様も…イアン坊ちゃんの事をいつも案じていらっしゃいました」


「……」


手紙を読む前は嘘だって、信じなかった。

でも今は…その言葉を信じられる。


「うん…長い間、僕は気づかなかった。そんな事ありえないって決めつけていたんだ」


「何が、あなた様を変えたのでしょう」


愛しい君を心に思い浮かべる。


「…大切な…とても大切な人のおかげだよ」



君は本当にたくさんのものを僕にくれる。

エマ。君がいたから、僕は…。

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