第11話 手紙の中身

(イアン視点)


「師匠、お久しぶりです」


ローガン師匠とエマが2人で暮らしていた家。


その近くにある教会の墓地に、師匠の墓がある。

職人気質で気難しい所もあるけど、厄介ごとになるかもしれない僕を受け入れてくれて、基礎も何もわからないし出来なかった僕にも辛抱強く教えてくれて、導いてくれた彼は僕にとってとても素晴らしい人だった。


「おじいちゃん、もしかしたら天国で私に会ってるかもしれないのかなあ」


エマがそんな事を言いながら、墓周りの雑草を引き抜き綺麗にしていく。


「そっか、天国に行けば2人と会えるかもしれないのか」


コケのついた墓石を磨きながらなんとなく口にすれば、エマから「変な事言わないで!」とお叱りを受けた。



「こうやって2人で師匠の所に来るのも久しぶりだね」


街に品物を卸しに行く際、師匠の元に通っていた事を思いだす。


「不謹慎かもしれないけど、君とこうやって師匠の所に来れたことが嬉しい。僕の家族は、君と師匠だけだから」


笑顔をエマに向けると、彼女はなんとも言えない顔をしていた。


彼女との結婚を決めた後、僕は自身の家族とは縁を切っている。

きっとその事を気にしているんだろうけど…僕には何も言うことが出来なかった。




美味しい食事を堪能して、星空を見ながら宿に帰ってきた。


真剣な顔をした彼女が僕の前にある小包を差し出した。


「私からのお願い、聞いて」


小包を開けると、見覚えのある封蝋のついた手紙の束…。


「お願い、これを読んでほしいの」

「それ…は…」


彼女は僕の目の前で封を切り、中身を差し出してきた。


「見ないと絶対後悔する。だから、お願い」


恐る恐る手紙を受け取った。

でも、なかなか開けないでいる…僕は…



「イアンが怖がりな事、わかってるよ。だけどさ、怖いのはイアンだけだと思う?」


エマの手が躊躇う僕の手に振れる。


「怖がりなイアン。あなたの家族は怖がりじゃないのかな」


エマの手がスッと手紙を開いていく。

そこに書かれている文が怖くて…もし、彼らからの失望や罵倒の言葉が書かれていたらと思うと怖くて、グッと目を閉じてしまう。


「イアン。怖がらないで、大丈夫だから」


ね、と優しい声をかけられ、ゆっくりと目を開く…。



「………え?…」


間抜けな声が漏れた。

だってそこには…



“イアン、元気にしていますか?”


“たまには顔を見せなさい”


“エマさんとは仲良くやれているのかしら?”


“あなたが彼女を守ってあげるのよ”



見覚えのある母の字が連なっていた。

しかもその内容はこちらを心配するものや、顔を見せに来なさいというものばかりで…。

他の手紙を開いてみても、どれも似たような内容ばかりだった。



「私ね、ずっと疑問だったの」


呆然としたまま、彼女の顔を見る。


「もし何かするつもりなら、手紙なんか送らずに直接誰かを向かわせた方が早いよねって」


クスリ、と彼女が笑う。


「何年もずっと手紙を送り続けてたんだよ。…返事も無いのに、ずっと」


エマが鞄の中から、真新しい1通の手紙を出してきた。

その封は既に切られている。


「…ごめんね、これは1番新しい手紙。ずっと気になっていたから、黙って中身を読んじゃった。…はい」


そっと差し出された手紙を読む。



「…そんな…!」



そこには母が病魔に冒されていること、もう余命が残り少ない事が書かれていた。



「…明日の予定、決まったね」


ここから実家のセイゼル家までは馬車で1日…。

君との時間は、あと…

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